ウリナコンベの7号店 序の4
辺境都市ウリナコンベにありますコンビニおもてなし7号店用の建物なのですが、
「もうご使用頂いて構いませんですです」
と、ウリナコンベの商店街組合長として赴任したばかりのエレエから伝えられています。
そんなわけで、スアの転移ドアをくぐって本店と自宅のあります辺境都市ガタコンベへと戻った僕は、本店の街道向かいにありますルア工房本店へ出向いていきました。
すると、狩りから戻ったばかりらしいルアが汗を拭いているところでした。
「やぁ店長。何か用事かい?」
狩りがよほど楽しかったらしく、ルアは満面の笑顔を浮かべています。
「うん、実はさ、今度コンビニおもてなしの7号店を出店することになってね、その建物の改修をお願いしたいんだ」
「改修ってことは、すでに建物はあるんだね?」
「そうなんだ、石造りの建物を都市の方で準備してくれてね」
僕はエレエからもらった建物の図面をルアが座っているソファの前のテーブルの上に広げていきました。
そこに身を乗り出していくルア。
「ふむふむ……コンビニおもてなしの店舗だと、この街道に面した側の壁は全部ガラス張りにしないといけないね。あと、出入り口は、あのジドウドアを組み込んで、店内には壁に備えつけの棚と、裏から商品を補充出来る飲料水用の棚と……」
コンビニおもてなしの本支店の建築のほぼすべての建設・改修工事を担ってくれているルアだけありまして、僕が指示する前にどんどん的確な改修案をその図面にかき込んでいきます。
この建物にも、スアが管理をしています太陽光発電施設を設置することにしていますので、そこに関してはスアとルアで打ち合わせをしてもらうことにします。
太陽光発電施設をこの世界に持ち込んだのは僕ですけど、それは太陽光発電施設が設置されている建物ごとこの世界にとばされてきただけであって、その仕組みについてまで熟知しているわけではありません。
一方で、その太陽光発電施設を独自に調査・研究してこちらの世界の魔法の技術で太陽光発電施設を再現することに成功したスアは、その仕組み・出力・使用方法にいたるまで完璧に把握していますからね。
スアが作成した太陽光発電施設は魔石から発するエネルギーと同等の物になります。
ですので、魔石のエネルギーを利用して灯りを灯している魔法灯や、火をおこしている魔石コンロ、食べ物を冷やしている魔石冷蔵庫などを使用するためのエネルギーとして使用出来るんです。
コンビニおもてなしの支店では、以前は魔石を電池のように定期的に入れ替えしながら店内の魔法灯や魔導レジなんかを使用していたのですが、今ではこのスア製の太陽光発電施設をコンビニおもてなし全支店に導入していますので、その必要もなくなっているんです。
ちなみに、このエネルギーを使用したいと希望される商会さんや商店さんがおられましたら、簡単な工事でエネルギーをお分けすることが出来るんですけど、その工事に関してはスアとルアが共同で行ってくれている次第です。
すでに辺境都市ナカンコンベでは、主だった商会の半分近くがこれを導入していまして、スアが管理している太陽光発電部門は開設してからまだ間がないにもかかわらずかなりの利益をあげているんですよね。
そういった、コンビニおもてなしの本来の業務とは関係のない部分に関しては、それぞれの部門の責任者のみんなに任せる方針をとっています。
コンビニおもてなしで取り扱っている商品の卸売りを行っているおもてなし商会
北方のチウヤゲレンデにありますチウヤおもてなし旅館
スアが管理してくれているチュ木人形人材派遣部門・太陽光発電部門
僕とスアが共同で管理している定期魔道船部門
これらの業務は、それぞれの部門の責任者が管理・運営してくれています。
僕は、その報告を集に一度開催している責任者会議で報告を受けていまして、何かありましたらその会議で相談することにしています。
これらの各部門はあくまでもコンビニおもてなしを営業している中で、必要に迫られて設置することになった部門ばかりですが、あくまでも本業はコンビニおもてなしなわけです。
そこは、僕も忘れてはいません。
そんなわけで……コンビニおもてなし7号店の建物の改修工事に関しましては、すべてルアにお任せすることにして、僕は店員をどうするか決めることにしました。
とりあえず、辺境都市ウリナコンベで2名程度の人員を雇用する予定にしているのですが、これに関してはすでに商店街組合のエレエに、求人広告を渡してあります。
応募があれば、エレエが教えてくれるはずです。
あとは、コンビニおもてなしの本支店から2名程度、7号店の営業に回ってもらう予定にしているのですが……
これに関しては、4号店店長のクローコさんから、元吟遊詩人のブロンディさんを猛烈にプッシュされているのですが、これはクローコさんに一目惚れしたブロンディさんが四六時中クローコさんに猛アタックしてくるもんですから、それにあたふたしまくっているクローコさんがその攻撃から逃れるために申し出ているわけでして……
実際のところを、4号店の副店長のララデンテさんに確認してみたところ、
「確かにブロンディは隙あらばクローコに愛の歌を歌ったり、デートの誘いをしまくってるけどさ、それはあくまでも手が空いている時であって、店が忙しい時や自分が忙しい時は自重してるし、クローコがてんやわんやしている時なんかはすぐに手伝いにいってるんだぜ。それに、他の店員が忙しくしているときでも、クローコに接するときと同様に、分け隔てなくみんなの手伝いをしてくれてるからな。まったく問題ないというか、すごく優秀な店員だぞ」
といった話を聞いているんですよね。
で
そこのところをですね、クローコさんを本店に呼んで改めて確認してみたのですが……
「……だから、困る、みたいな?」
クローコさんは、顔を真っ赤にしながらそう言いました。
「仕事はぱないくらい完璧にこなすしぃ、手伝いもパーペキだしぃ、接客もドヤれるレベルだしぃ、顔はサムハンだしぃ、マッチョだしぃ、歌声もちぇけらうだしぃ……そんな完璧超人が、アタシなんかに惚れてるなんて、どうかしてるしぃ! 墜ちたらすぐに捨てられるしぃ……そんなのやだしぃ……」
終始その顔を真っ赤にしながら、大げさな身振り手振りを交えつつ説明してくれるクローコさん。
……ただ、その話を聞いていると……
「……つまりは、クローコさん的にも、ブロンディさんのことはやぶさかではない、ってことでいいのかな?」
「はうあ!?」
僕がそう言うと、クローコさんはその顔を真っ赤にしたまま固まってしまいました。
んでもって、そのまま停止すること13分と42秒……
ようやくクローコさんは、こくんと頷いたのです……が
「でもぉ、クローコは店長だしぃ、ブロンディさんは店員だしぃ、そういう関係はちょっとぉ、良くない? みたいな……」
モジモジしながら言葉を続けるクローコさん。
見た目はすごくド派手なクローコさんですけど、こういったところをすごく気にする古風な一面を持ち合わせてもいるんですよね。
となると……
そこで、僕はこういう人事を考えました。
4号店の店長をララデンテさんに、副店長をツメバに。
そして、クローコさんとブロンディさんを7号店に転勤してもらい、クローコさんを将来の7号店の店長候補として副店長に、ブロンディさんを将来の副店長候補として副店長補佐になってもらおう、と。
これは、お店が軌道にのるまでは僕が店長として勤務して、軌道にのったら副店長を店長に昇格させて僕は本店の勤務に戻るという、今まで何度か行ってきた手法を用いた格好になっています。
これをクローコさんに伝えたところ、またもや顔を真っ赤にしてあたふたしまくっていったのですが、
「……逆なら、受けてもいいかも」
そう言い出しました。
「逆、というと……ブロンディさんが副店長で、クローコさんが副店長補佐にってこと?」
「うん……」
「でも、実績でいえば……」
「そこはアタシが補佐するというか……もしだよ、仮にだよ、夢物語としてだよ、あ、あ、あ、アタシとブロンディさんがお付き合いすることになっちゃったりなんかしたりしたら……えっと、その可能性は限りなく低いと言わざるをえないんだけどぉ……そうなったときにぃ、彼女の方が役職が上ってなんかあれだしぃ、クローコ的にも内助の功がなんか憧れるっていうか……あ、いやいやいや今のは忘れて店長ちゃん、クローコ一生の不覚というか、気の迷いだからぁ!」
大慌てしながら首を左右に振っていくクローコさん。
で、まぁ、そんなわけで……折衷案としまして、7号店の副店長は、クローコさんとブロンディさんの2人体制にすることにした次第です、はい。