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――その日、一つの招待状がローゼフの屋敷に届いた。差出人は珍しくオーランド公爵からだった。彼は社交界では有名人だった。社交界では彼の名前を知らない者はまずいないだろう。そして、ローゼフの父とは親しい仲だった。

 彼は名高い名家の生まれだったが、少し変わり者だった。年老いた彼には妻は長年おらず、子供もいなかった。彼のそのような身の上話に、皆は面白がって彼の知らない所で噂を並べた。

 彼は男好きと言う者もいれば、彼には隠し子がいると言う噂をする者もいた。中には、彼は自分の妻を殺して証拠をもみ消し。はじめから妻の存在を隠したなどと言った物騒な話も時に噂されていた。しかし彼は噂にたいして沈黙を貫き。彼はあくまでも毅然としていた。それ以外にも彼についてはあることが噂されていた。それは、彼は人形愛好家と言った物好きだと。

 彼は人形を自分の我が子のように可愛がり、まるで生きているように振る舞っているところから心を病んだ老人と噂されていたのだった。 そんなオーランド公爵には、人には理解できないほどの人形への執着心があった。彼の館には約8000体の人形が部屋のあちこちに沢山飾られていた。その不気味な光景からか、彼の館に訪れた者は口々にこう呼んだ。 人形屋敷(ドールハウス)の館と…――。

 そんなオーランド公爵が珍しく、自分の館で盛大な舞踏会をひらくと書かれた招待状が、彼の屋敷にも届いていた。ローゼフはオーランド公爵とは、親しくはなかったが、父の親しい友人だったので直ぐに断る訳にもいかなかった。朝から椅子の上で頬杖をついて、テーブルの上に置かれた招待状を眺めては深い溜め息をついた。彼はあまり気乗りしなかったが、考えた末に仕方なく舞踏会に出席することにした。

 手紙には彼の他に、小さな友人もつれてくるようにと書かれていた。 ローゼフはその手紙に不信感を抱いたが、この先ピノの存在をまわりに隠し通すことも難しくなってきたのを感じると、仕方なくピノも一緒に舞踏会に出席させることを決めたのだった。

 隠してもいずれ社交界では噂される。そうしたら、スキャンダルな話だと周りは騒ぎ立てるに違いない。そうなると自分の名家にも傷がつく、それにどんな噂をされるかも知れないと思った彼は先手を打つことに決めた――。

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