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第7話 夢

昔、天は一つの戯れを思いついていた。

その戯れは非常に残酷で、そして己の存在が上だと確信している身からすれば、
至極当然の思いつきであった。

「なあ…暇じゃ」

赤子の身体に、小さな翼を生やしたような容姿。
ピンク髪でベビーフェイスの天使は甲高い声で話す。
辺りに鎮座する人影も、全員翼が生えている。

「下の種族が住む世界に、少々悪戯でもするか」

そんな一瞬の思いつきでその日、


ー世界から約3000万人が消えたー


その結果を受けて、天に鎮座する者達は一言放った。

つまらんな。と

「奴ら下の種族共にフフッ…プッまず今回の光の原因など分からんだろう。
まあフフフッ…知ったところで何も出来ずに死んでいくだけだろうがな…ブッファッ!」

馬鹿にしたような笑いを堪えつつ、話し終えたかと思うと狂ったように笑うのは魔天使ジェノウス。
禍々しい翼に、パーマのかかった黒長髪の男だ。ジェノウスにつられ、周囲の魔天使達も大笑いをしている。

「あっーー…!!実に愉快だ!!。我ら魔天七戦団まてんしちせんだんに乾杯しようぞ」

その音頭を境に、魔天使達は今宵も各々絶対的格差の余裕に酔うのであった。

ーーーー

「ん…」

何だか長い夢を見ていたようだ。
俺は今、最愛の家族と別れ、エキドナが宮司を務める龍神祭宮で修行をしている。
もう家族と別れ4年が過ぎようとしていた。

「起きたのね。それじゃあ準備してちょうだい。今日は魔力調節のチェックをするわよ」

そう話すエキドナは、
いつも俺より先に起きて
龍神様に祈りを捧げている。
当然、俺も修行の前には欠かさずやらされる。
魔術の修行は好きで、その理由はやはり生前に見たアニメの影響だろう。

ちなみに、
なぜ俺を家族と引き離してまで鍛えるかは
俺が一人前になれたら教えてくれるらしい。

「本日もよろしくお願いします!!」

龍神様に祈りを捧げ、エキドナに修行開始の挨拶をし俺の修行は始まる。
素晴らしい英才教育だ。

俺が今取り組んでいるのは、
魔力を安定して放出する事だ。

魔力を安定させる事ができれば、魔術の精度を高める事や、威力の調節もできるようになる。
早く最強魔法使いてーとか思ってた時期もあったが、もうそんな考えは決してない。

修行中、エキドナの話を聞いておおかた分かった事がある。
俺が転生する前、ソフィア様から聞いていた転生者の話は、
幼少期にコンタクトが取れなくなり、何で死んだかは分からないというものだった。

そしてこの世界では最近子供が実力に見合わない魔術を使い、
跡形もなく大破する死亡事故がちらほらあったらしい。
あくまで予想だが、俺みたいに転生した人間はやはり馬鹿が多いのか最強魔法を使いたがり、
魔力調節をミスって肉体が耐えきれなくなり大破したのだろう。南無。

ともあれ、俺が1番懸念していた原因不明の早死にの件については解決した。
気持ちが楽になったからか、それが分かった日からの成長スピードは凄まじかった。

そして今日、俺は魔力調節の修行を終え
次のステップに進もうとしていた。

「やってみなさい」

エキドナに言われ、俺は魔力調節を行う。
魔力の塊を手のひらに球体で出し、その大きさを小さいものから徐々に拡大していくというものだ。
俺は徐々に魔力出量を高め、順調に球体を拡大していった。かに見えた。

「あっ…!」

一瞬気を抜いてしまった俺は、必要以上の魔力を放出してしまい、
今まで作ったことのないでかさの球体を作ってしまった。

放出量が多くなるほど、精度が欠け魔力に乱れが発生する。
例えるなら、ずっと同じ体制をしていて、痺れて感覚がない状態で何かするような感じだ。

そして乱れた魔力を操る術が無いものは当然魔力が暴走する。

死ぬと悟った。
魔力が勝手に放出されたと思いきや、急に大量に戻ってきたりなど魔力の出し入れで気持ちが悪くなってくる。
戻ってくる感覚が気持ち悪くて放出しようとすると出過ぎて球がでかくなる。
おおきさにしてすでに東◯ドーム四つ分くらいだ。

辺りの草や木々も激しく揺れている。

「凄まじいわっ…。これなら…」

焦る俺をエキドナは意外にも冷静に…いや、驚いた目で見ていた。

「師匠っ…!!助けて下さいっっ!!!」

藁にもすがる思いでエキドナの事を初めて師匠と呼んだ俺を、エキドナは嬉しそうな目で見る。

「助けてほしいの?」

こんな事態というのに、意地悪な笑みを浮かべながら話してくる。

「もうダメです…!」

限界だ。制御できない。いっそのことエキドナにぶち当ててやろうか。
孫の代まで呪ってやる。くそ。俺も他の転生者と一緒かよ。
そう不貞腐れて考えていると、意外と焦りが消えて気づけた。

いや待て。ぶち当てる……そうか!このまま空へ向かって全て放出しよう!

我ながら天才的なひらめきだった。
俺は目一杯腕を空高く突き上げ、そのまま天空へと魔力球をぶっ放した。

轟音と共に放った俺の魔力球は空高くへ凄まじい威力を保ちながら飛んでいった。

その後、エキドナはお前ならできると思ったぞとニコニコしながら抱きついてきた。
そのまま頭をわしゃわしゃされすごく不快だったが、
顔がエキドナの胸の中にあり心地よかったので水に流した。

ーーー

「おい。なんか飛んでくるぞ」

宴の最中の魔天使達に向かって、轟音を響かせながら接近してくるものがあった。
魔天使達はそれでも鎮座したまま静かに迫り来る物体を見ていた。

「おい」

その掛け声と同時に、魔天使の1人が立った刹那、その物体を左手のみで抑え込んだ。
物体と左手が接触した瞬間、凄まじい衝撃波が場を通り抜ける。
そして抑え込んだ物体を確認する。

「凄まじい魔力量だ…。一体何だ。これほどの魔力を誇る奴が下界に…?」

そう口にするのは魔天七戦団が1人、術じゅの魔天使ウリヘル。

術の境地にしてもなお慢心する事なく、魔導を進む男。
寡黙で、他の魔天使のように分かりやすく慢心していない。
見た目は全身に鎧をまとい、顔は見えない。

「おいおいウリヘル。いつまでそんなおもちゃ眺めてんだよ」

そんな声をかけられるが、余裕の塊である魔天使の彼らに、ウリヘルは特に何も言わない。
言っても無駄だと分かっているからだ。馬鹿かと胸の内で見下しながらその男は打診した。

「少し下界に降りる」

すでに宴を再開していた他の魔天使達はウリヘルの打診など聞いてすらいなかった。

ただ1人の魔天使を除いては。

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