79章 ミライの絵を購入
ユメとやり取りをしていると、ミライが家を訪ねてきた。
「アカネさん、こんにちは」
「ミライさん、こんにちは」
絵を展示する前よりも、一回りも大きく見える。人の視線を釘付けにする絵を描いたことで、彼女は自信を手に入れたようだ。
「ミライさん、作品はとってもよかったよ」
「そういってもらえるとありがたいです」
「絵はどうなったの?」
「希望者と話をして、300万ゴールドで買い取ってもらうことになりました」
あの絵のレベルなら、1億ゴールド以上の価値はあるはずだ。ミライの作品は過小評価されている気がする。
ミライは右手を、後頭部の後ろ側に置いた
「絵でこんなに稼げるのであれば、重労働をする必要はなかったですね」
仕事をしすぎたことにより、生命の危機にさらされることとなった。生きていくためとはいっても、さすがにやりすぎの気がする。
「ミライさん、絵描きになるのはどう? 生活を安定させることができるよ」
あのクラスの絵を描き続けることができれば、身体を壊すことなく、お金を稼ぐことができる
ようになる。彼女にとって、悪い話ではないのではなかろうか。
「ペットが大好きなので、店を優先したいです。ただ、資金難に陥りそうなら、絵を描くかもしれません」
「なごみや」の仕事を優先させながらも、必要なときには絵を描く。ミライらしさが前面に出ているように感じられた。
ミライは鞄の中から、画用紙サイズの髪を取り出す。雨でぬれないよう、ビニールが何重もかけられていた。
「アカネさんに感謝の気持ちを込めて、絵を描かせていただきました。製作時間は80時間です」
数時間で最高クラスの絵を完成させることができる。80時間をかけたら、どのようなレベルになるのだろうか。
「前回とは比べ物にならないほど、完成度は高くなっています。どうぞ、見てください」
ミライの絵を見た瞬間、言葉を失ってしまった。下手だからではなく、あまりにも上手すぎるのである。現実世界にいたなら、世界でコンクールを受賞できるレベルだ。
「気合を入れすぎて、空回りをしてしまいましたか?」
アカネは首を強く横に振った。
「すごくいいよ。最高傑作だよ」
絵の中に書かれているイヌ、ネコなどは生き生きとしている。作品中であるにもかかわらず、飛び出しそうな勢いを感じた。
ユメも絵の虜になっていた。
「ミライさん、すごすぎますよ」
ミライは照れているのか、頬が赤く染まっていた。
「ありがとうございます」
作品を絶対に手元に置いておきたい。絵を描いた女性に、交渉を持ちかけることにした。
「1憶ゴールドで購入したい」
想定していない金額だったのか、ミライは軽い脳震盪を起こすこととなった。
「ミライさん、だいじょうぶ?」
頭が正常に動いていないのか、意味のわからない言葉で返事をする。
「ふぁ・・ふぁ・・・・・」
脳が回復するまで、会話をするのは難しい。話せるようになるまで、ゆっくりと待つことにした。
ミライは数分後に脳を回復させると、深呼吸を繰り返していた。スーハー、スーハーという音が室内に響き渡ることとなった。
「アカネさん、1億ゴールドもいただいてもいいんですか」
「うん。大切なコレクションにする」
ミライは戸惑いを見せたものの、最終的には話に応じることとなった。
「わかりました。その値段でお受けします」
交渉が成立したので、アカネは代金を払うことにした。
「購入代金の1億ゴールドだよ」
ミライはお金を大切に受け取っていた。
「ありがとうございます」
お金を受け取ったばかりの女性に、ユメが仕事のオファーを出した。
「ミライさん、絵を描いてほしいという依頼がきています。報酬は200万ゴールド+αとなっています」
「セカンドライフの街」の仕事としては、非常に高額なオファーといえる。絵の才能を認められたと断言できるレベルだ。
「いつまでに書けばいいんですか?」
「2ヵ月後となっています」
数時間もあれば、最高クラスの絵を描くことができる。2ヵ月もあれば、余裕なのではなかろうか。
「わかりました。絵を描かせていただきます」
一人の女性が新しい道を歩もうとしている。そんな姿を見ていると、元気をもらえるような気がした。