80章 後輩が転生してくる
夕食の準備をしていると、ドアがノックされる音がする。
「こんにちは」
「誰?」
女性は軽く一礼したあと、自己紹介をする。
「後輩の木佐雪ユラです。同じ会社で働いていました」
勤めていた会社には部署が10個もあるため、他部署の人間についてはさっぱりである。彼女はどこに所属していたのだろうか。
「ユラはどこに所属していたの?」
「商品開発部です」
商品開発部は空飛ぶコート、宇宙に空気を送る装置、超瞬間歯石消滅マシーンなどを開発していた。
実現化すればすごいものの、実現しそうにないものばかりを作っていた。
「空飛ぶ弓矢を開発しているときに、倒れてしまいました。その後は意識が戻らず、あの世に旅立ってしまいました」
社員がどんなに過労死をしたとしても、勤務時間を減らすつもりはない。あの会社の社長は、完全にドSの性格をしている。
「あの会社で働き続けたことを激しく後悔しています。月収20万円でいいから、身体を守れる会社で働くべきでした」
給料の高さに惑わされ、冷静な判断ができなくなる。人間というのは、実に単純な生き物である。
「残金を引き継ぐのがせめてもの救いだね・・・・・・」
「お金は新築を建てる、ブランド品を購入するために、ほとんどのお金を使っています。あの世に旅立ったとき、所持金は500万ゴールドのみとなっていました」
1日20時間勤務を終えた後に、買い物に行くのはすごい。アカネは寝ることくらいしか頭になかった。
「無理に働かされていたのですから、好きなものを買わないとやっていられません」
ユラの言い分はわかる。人間は仕事をしただけ、ストレス解消をしたいと思うようになる生き物である。
「死後はレベル89として、こちらの世界に転生しました」
魔法を使えるようになるのは、レベル90以上である。ユラはぎりぎり、魔法を使えないということになる。
「ユラはどんな能力を持っているの?」
「何もありません。レベルは高いものの、通常の人間と同じですね」
レベル90以上、90未満で明確な線引きをされているのかな。レベル89もあるのだから、少しくらいは能力を分けてやってほしい。
「アカネ先輩は魔法使い、不老不死、ご飯を食べなくてもいい、睡眠不要、空気がいらない、疲れ知らずなどの能力を持っていると聞きました」
「うん。いろいろな超能力を所持しているよ」
「とっても羨ましいです」
超能力を所持したことで、人間離れした仕事をさせられることとなった。超能力は一長一短の関係にある。
「アカネ先輩、お金はどうやって稼ぐのですか」
「労働でお金を稼ぐしかないよ」
「また働かないといけないんですか? 労働はもうこりごりです」
気持ちは分からなくもないけど、生きるためには仕事をする必要がある。何もしなかったら、あの世に旅立つだけだ。
「アカネ先輩、住むところはどうすればいいんですか」
「お金がないのなら、自分で家を建てないといけないよ。宿屋に泊まるという手もあるけど、お金が底をつくんじゃないかな」
セカンドライフの住民のほとんどは、自分で建てた家で生活をしている。お金がないため、自分で家を建てなくてはならない。
「素人に家を建てるのは無理ですよ」
「こちらの住民は、99パーセントは自分の建てた家で生活しているよ。ユラにもできるんじゃないかな」
「わかりました。私も立派な家を建てて見せます」
住民が建てられるということは、やってやれないことはない。ユラにもできるのではなかろうか。