78章 新しい仕事
「タオルはありますか?」
「ありますよ。しばらくお待ちください」
タンスから新品のタオルを取り出すと、女性に手渡しをする。
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
髪の毛の水分を丁寧に切っていた。髪の余計な水分を逃がすことにより、髪質を守ることができるようになる。
「髪の毛のトリートメントはありますか?」
「ありません」
髪の毛が劣化しない体質であるため、トリートメントをつける必要はない。こちらの世界に来てからは、トリートメントはつけることはなくなった。
トリートメントにはインバストリートメント、アウトバストリートメントの2種類がある。それぞれで用途が異なる。
インバストリートメントは、洗い流すタイプのトリートメントである。使用タイミングは、お風呂あがりなどの、髪が濡れているときとなる。
インバストリートメントは髪の内側に働きかけ、被ダメージを受けた髪の毛、頭皮、キューテ
ィクルを治す効果を持つ。
インバストリートメントを、使用するときに重要となるのは温度。効果を高めるために、髪の毛の温度をあげるようにしたいところ。
アウトバストリートメントは、洗い流さないタイプのトリートメントである。こちらは髪が濡れた状態、乾いた状態のどちらであっても使用できる。
アウトバストリートメントは髪の内部ではなく、表面を守る効果を持っている。外敵から守る役割を担っている。ダメージを軽減するインバストリートメントとは、効果が異なる。
アウトバストリートメントは、インドアトリートメントの効果をアップさせる役割もある。双方を使用することによって、美しすぎる髪の毛を完成させられる。金銭的に余裕があるなら、両方を使った方が効果を見込める。
アウトバストリートメントはさまざまなタイプがある。使用するときは、どのような効果があるのかを確認するように心がけよう。
トリートメントを使用するときは、髪質に応じたものを使用するとよい。わからない場合は、いろいろと使用して、最も合うものをつけていこう。
アカネは水をふき取っている女性を知らない。誰であるのかを聞くことにした。
「あなたは誰ですか?」
「私はユメといいます」
「ユメさんがどうかしたんですか?」
「妹に変わって、依頼にやってきました」
「妹?」
「私はマツリの姉です」
顔が全くの別人なので、姉妹には見えなかった。彼女たちは異父兄弟、異母兄弟なのかもしれない。
「次はどんなことをするんですか?」
「アカネさんの回復魔法で、住民を治療していただきたいです」
「数ヵ月前に治療したばかりですよ」
「前回の人数は一部にすぎません。治療を必要としている人はたくさんいます」
「セカンドライフの街」の住民は、過労死ラインの労働をする。病気になる人がいるのは必然といえる。
ユメの瞳が曇った。アカネは彼女の心境を察し、先に言葉を発することにした。
「いいにくいことがあるんですね」
「はい。大変申し上げにくいことがあります」
「なんなのかを教えてください」
ユメは視線を軽く逸らす。面と向かって言うのは難しいことのようだ。
「今回の報酬は1ゴールドもありません。完全なボランティアという形になります」
「それで大丈夫ですよ。引き受けましょう」
「ありがとうございます。アカネさんのおかげで、たくさんの住民が救われます」
医学の知識を持っていないにもかかわらず、住民の病気を回復させることになるとは。病気の知識を持っているよりも、病気を治せることの方が重要らしい。
「今回の参加人数は10万人を見込んでいます。よろしくお願い.します」
10万人の治療をするとなると、1日や2日では終わらない。タダ働きであるにもかかわらず、長期戦になりそうだ。