77章 新しい来客
心を休ませるために、40時間ほどの睡眠を取った。それにもかかわらず、心はどこかモヤモヤとしている。展示会をうまくできなかったことが、尾を引いているように感じられた。
窓から空を眺めると、強めの雨が降っている。本日は外出をするのは控えたほうがよさそうだ。
「セカンドライフの街」の降水量は、春夏秋冬によって異なる。春にあたる4月から6月は非常に多く、1ヵ月あたりで300~400ミリくらいの雨が降る。1日当たりで、10ミリ以上の降雨がある。
その他の時期については、降水量は少なめである。9月から11月は特に少なく、一度も雨が降らないことも珍しくない。晴が続くためか、アイトリアー(ギリシャ語の晴れ)と呼ばれている。
気温は一年で変化がほとんど見られず、20~25度前後で推移する。それゆえ、人間にとって過ごしやすい街となっている。
春夏秋冬を感じにくいことに対して、アカネは寂しさを持っている。現実社会で生きていたとき、季節の変わりを大いに楽しんでいた。
「セカンド牛+++++」を食べるために、冷蔵庫を開ける。憂鬱な気分を吹っ飛ばしたいとき
には、おいしいものを食べるに限る。
肉を焼くためのフライパンを準備する。これがなくては、おいしい肉を焼くことはできない。
フライパンについては、1ヵ月前に新しいものと交換。劣化したフライパンでは、食材の最高の味を引き出すのは難しい。
フライパンをセットしようとすると、女性の声がかすかに聞こえた。
「ア・・・・・ル・・・・・・」
外は大量の雨が降っている。放置しておくわけにはいかないので、家の中に招き入れようと思った。
扉を開けると、女性が立っていた。傘だけでは雨を防ぎきれなかったのか、髪の毛や服が濡れていた。
「家の中に入ってください」
「ありがとうございます」
服の水滴の多さが、雨の強さを物語っている。
「五分前くらいからドアを叩いて、ようやく気づいてもらうことができました」
今日の雨は特に強く、周囲の音をかき消すだけの力を持っている。ドアを叩く音を、雨がかき消していたようだ。
「身体は大丈夫ですか?」
「おそらくは・・・・・・」
見た目は問題なさそうではあるものの、どうなるのかはわからない。万全を期すために、回復魔法をかけることにした。
「アカネさん、ありがとうございます」
回復魔法をかけたからか、女性は元気さを取り戻していた。その様子を見て、アカネは大事にならなくてよかったと思った。