第11話(1)異世界?六度救ったが
「……そういう話ならば、異世界転移者という方が適切ではないか?」
土友が眼鏡を直しながら、椅子に腰かける黒髪の青年に尋ねる。
「……とにかくこことは異なる世界から来たのは事実だ」
「異世界闖入者っていう方が正しいんじゃない?」
火東が虹色の坊主頭の青年を見て呟く。
「なんか小馬鹿にしとるやろ、いてまうぞ、姉ちゃん!」
「落ち着きなさいよ、虹色坊主くん」
「これが落ち着けるか! なんでオレらが拘束されなアカンねん!」
虹色坊主が殿水に向かって叫ぶ。彼ら二人は、GofEの戦艦内の一室で椅子に縛られた状態であった。部屋の隅に立つ大洋が隣の隼子に小声で尋ねる。
「なあ、俺たちがここに居ても良いのか?」
「オーセンが権限を主張したらしいで」
「閃が?」
大洋が逆隣に立つ閃を見る。閃が小声で呟く。
「人類の平和を希求するロボット研究者としての立場から、正体不明の謎多き機体の調査、及びそれの搭乗者なる者の話を聴取する必要性があるとかなんとか言ってみたら同席の許可が出たよ……戯れに取った博士号が役に立ったね~」
「そうか……あの二人は?」
大洋が自分たちの真向いに立つ海江田たちに目をやる。
「万が一この謎多き青年二人が暴れ出したときの為の鎮圧する役まわり……流石は腕利きの傭兵コンビ、体術の方も男性顔負けらしいよ」
「なるほど……」
「リーダー、尋問の類は嫌いだって言っているでしょ? もう出て行っていい?」
殿水がウンザリした様子で小金谷に問う。
「駄目だ。こいつ等の素性はチーム全員で知る必要がある……ここにいろ」
小金谷が彼にしては落ち着いた口調で殿水を諭す。土友が自身の小型タブレットを確認し、部屋中に聞こえる声で告げる。
「データ照合終了……十年前の第二新東名高速道路で起こった交通事故の後に行方不明になった美馬隆元(みまたかもと)で間違いありません」
「十年前だと?」
小金谷が驚き、部屋中がざわめく。火東が土友のタブレットを覗き込む。
「行方不明時は……十八歳⁉ どう見たって、アタシより年下じゃない?」
「かの有名なザ・トルーパーズのメンバーたちにお会い出来るとは光栄だ。メンバーが一人変わっているとは驚きだったが」
「歳をとっていないとは羨ましい……じゃなくてどういうカラクリよ?」
殿水が問いかける。美馬が首を傾げる。
「さあな、この世界とあの世界は時間の進みが違うんじゃないか」
「あの世界?」
「パッローナや……」
虹色坊主が呟く。
「? それが貴方たちの住む異世界の名前?」
「そうや……」
「彼……美馬君と行動を共にしている理由は?」
「……オレらがコイツを召喚したんや」
「召喚?」
「そうや、詳しいことはよう分からんけど、魔方陣的なものをザァーっと地面に描いてパパッと呪文を唱えてガッと呼び寄せたんや」
「興味深いね、何故そんなことを?」
閃が身を乗り出して尋ねる。
「そら、こっちの世界から人を召喚する必要性があったからや」
「必要性?」
「ああ、エレメンタルストライカーを操縦する適性能力が高いのは、パッローナの連中よりもこっちの世界の連中やからな」
「エレメンタルストライカー? あの黒い機体の名前?」
「エレメンタルストライカーは機種名や、あの機体の名前は『テネブライ』や」
「テネブライ?」
火東の呟きに閃が答える。
「ラテン語で『闇』って意味ですね」
「俺はあの交通事故で死んだと思ったが、そういう理由でパッローナに呼び寄せられ、あの世界で『勇者』として戦った……」
「勇者?」
「コイツはゴッツい活躍したで! 都合六度パッローナの危機を救ってくれたわ!」
「ええっ⁉」
「いや待てよ……あれは七度に限りなく近い六度やな!」
「細かいことは知らんがな!」
隼子が叫ぶ。美馬が呟く。
「四度目は危なかったがな……」
虹色坊主が深く頷く。
「あれはエグかったな! あっこで姫さんのペンダントがピカーって光らなかったら詰みやったで、正直! あ、自分やっぱ持ってるな~って思ったもん、オレ」
「『勇者』から『救世主』にランクアップしたからな」
「扱いめっちゃ良くなってたよな! 王子もタメ口止めて敬語使い出してたからな!」
「異世界の思い出話中悪いんだけど……」
殿水の言葉に虹色坊主が叫ぶ。
「さっきから異世界異世界うるさいねん! オレから言わせりゃこっちが異世界じゃ!」
「ちょっと落ち着いて、虹色坊主君」
「誰が虹色坊主や! ナー=ランべスってれっきとした名前があんねん!」
そう言うと、虹色坊主の背中から昆虫の羽のようなものが開いた。
「ええっ⁉」
隼子たちは驚き、海江田たちは無言で拳銃を構える。小金谷が問う。
「……お前は人間じゃないのか?」
「そうや! 文句あるんか⁉」
「じゃあ、何なんだ……?」
「……あれやがな、フェアリーや」
「フェアリー⁉」
「そのガタイで⁉」
大洋と隼子の驚く声にナーが反発する。
「なんや! マッチョがフェアリーやったらアカンのか⁉」
「い、いや何となくイメージとは違うな……」
「そんなもん、お前らの勝手なイメージやろ! そっちの固定概念押し付けんな!」
殿水が落ち着かせるように話す。
「ごめんね、ナー。それで貴方が美馬君と一緒にいる理由は?」
「……エレメンタルストライカーを動かすには通常、フェアリーの力も必要やからな」
「つまり貴方があの機体……テネブライ専属のフェアリーってこと?」
閃の問いにナーが首を振る。
「いやそれは偶々や。シフトが空いてたからな、『ほんならお前行けや』ってフェアリーのおっちゃんに言われたんや」
「……フェアリーのおっちゃんって誰?」
「細かいことはオレもよう知らんよ。なんか偉い長生きのフェアリーやからフェアリーのおっちゃんって皆で呼んでたんや、親しみを込めて」
「分かったような分からないような……」
大洋の呟きにナーはうなだれる。
「いや、これで分からんかったらオレもしんどいって! 頼むわ、ホンマ!」
「……あの紫色の機体は?」
土友の問いに美馬が静かに答える。
「あれは『アルカヌム』。奴を止めるのが、俺の救世主としての使命だ……」