第10話(4)VSニフォロア
「ジュンジュン、変わってくれる?」
「わ、分かった」
閃の言葉を受け、電光石火は射撃モードに変形した。
「こっちが相手になるよ!」
閃は電光石火のショルダーマシンガンを発射させ、ニフォロアの注意を引く。全身黒いカラーリングのニフォロアが射撃を躱しつつ、電光石火の方に向き直る。
「注意は向けられた……っと」
「それでどうする?」
「詳細不明の相手だ、加えて危険な溶解液持ち……下手に接近戦はしない方が良いね」
閃は冷静に分析する。ニフォロアが電光石火に向かって走り出してきた。
「来たぞ!」
「結構素早いで!」
「その脚を止める!」
閃は電光石火の腰部に収納されていたピストルを取り出す。
「ウェストマグナム、発射!」
閃は走る相手を止めようと、ニフォロアの脚をめがけて撃った。狙いは決して悪くはなかったが、ニフォロアは機敏なサイドステップでそれを躱した。
「躱された!」
「ちっ! 機動力は水準以上ってわけか!」
閃は舌打ちしながら、操作を行う。電光石火が自身の、人間で言えば左耳に当たる部分を下に引っ張った。耳たぶに当たる部分がスライドし、小型ミサイルが出てくる。
「な、なんや⁉」
「そんな武装が⁉」
「イヤーミサイルランチャー、発射!」
三発のミサイルがニフォロアに向けて放たれた。一瞬虚を突かれた様子を見せたニフォロアだったが、ミサイルの弾道が直線的だったため、上にジャンプして苦もなくそれらを躱してみせた。
「また躱された!」
「もうギリギリまで接近されてもうたで!」
「ところがどっこい!」
閃が叫ぶと、ミサイルが弧を描き、ニフォロアの背中に三発とも命中した。
「これは!」
「追尾式ミサイルでした~♪」
ニフォロアがうつ伏せに倒れ込む。
「今や!」
「狙い撃ちさせてもらうよ!」
閃がピストルの銃口を向ける。
「もらっ……な⁉」
そのとき、脇の森林部から黒い影が飛び出し、電光石火に飛び掛かった。ぶつかられた電光石火は堪らず仰向けに倒れる。
「な、なんや⁉」
「もう一体いたのか⁉」
電光石火は新たに現れたニフォロアにマウントを取られてしまう。
「不意を突かれちゃったね~」
「呑気に言うとる場合か!」
ニフォロアの長い歯が電光石火の胸部に迫る。
「くっ! 閃、受け止めろ!」
「言われなくても!」
閃は電光石火の両手を使って、尖った歯を真剣白刃取りの要領で受け止めた。
「やったか⁉」
「い、いや、アカン!」
尖った部分から流れる溶解液は強力で、電光石火の両の掌を溶かし始めた。
「オーセン! 口からドバーって出るやつは⁉」
「そうだ! あのゲロみたいな攻撃だ!」
「マウスイレイザーキャノンね! 二人とも認識がクソガキレベル!」
「なんでもええから発射や!」
「あれはエネルギー充填にちょっち時間がかかるんだよ! 今すぐには間に合わない!」
「そ、そんな⁉」
「ここまでか!」
「手が掛かるな~」
ニフォロアの歯に鞭が巻き付く。
「なるほど……先端部分以外は触っても大丈夫なんだね」
エテルネル=インフィニ一号機を駆る海江田が淡々と呟いた。
「両手を離して!」
「了解!」
海江田が機体を操作し、鞭を思い切り振り上げる。歯を巻き取られた格好のニフォロアは空中に持ち上げられ、程なく地面に叩き付けられた。
「念には念を……ってね!」
海江田がスイッチを入れると、強烈な電磁波が流れた。ニフォロアはビリビリと痺れると、完全にその動きを止めた。
「た、助かりました……」
「お礼は良いよ、後でラーメン奢ってくれない?」
「な、なんでそないなことせなアカンのですか⁉」
「そうですよ、海なら焼きそば一択でしょ⁉」
「そういう問題やないわ!」
「! もう一機!」
閃が叫ぶ。海江田の機体の背後からもう一機、ニフォロアが飛び掛かってきた。
「あ、危ない!」
しかし、崩れ落ちたのは襲ったニフォロアの方だった。海江田が呟く。
「……ナイス、水狩田」
水狩田が操るエテルネル=インフィニ二号機の爪がニフォロアの三体目を切り裂いた。
「……ギョーザ追加ね」
「あちらさんにお願いして」
海江田が機体の右手の親指を電光石火に向ける。隼子が叫ぶ。
「生きるか死ぬかっちゅうときに賭け事せんで下さいよ!」
「半ライスは付けなくても良いんですか⁉」
「なんで奢ることに前向きやねん!」
「ノリが良いんだか、悪いんだか……」
海江田が微笑を浮かべる。水狩田が叫ぶ。
「海江田、上空に反応あり!」
「⁉」
海江田が空を見上げると、何もない空間に紫色の穴のようなものが開き、そこから紫色の機体が姿を現した。鳥と人が合わさったような独特なフォルムをしている。
「あ、あれは、先月遭遇したやつやないか⁉」
「現れたか……」
「閃! なにか知っているのか⁉」
閃が答えようとした瞬間、紫色の機体が凄まじいスピードで急降下し、電光石火たちに襲いかかってくる。
「やるよ! 水狩田!」
「言われなくても!」
海江田が鞭を振るって攻撃を仕掛けるが、超低空飛行の紫色の機体はその攻撃を難なく躱し、あっという間に二機のエテルネル=インフィニの背後を取る。
「しまっ……」
海江田たちが機体を振り向かせようとしたその瞬間、紫色の機体がサーベル状の武器を操り出し、二機に斬り付ける。
「!」
攻撃を喰らった二機は力なく倒れ込む。大洋が驚く。
「あの二人が一瞬で⁉」
すると、紫色の機体は電光石火に向かってくる。隼子が狼狽する。
「こ、こっちくるで!」
「大洋、モードチェンジするよ!」
閃が操作し、電光石火は近接戦闘モードに切り替える。
「間に合わんか⁉ ⁉」
電光石火が刀を構えるよりも先に、紫色の機体のサーベルが電光石火を貫いたかと思われたが、そこに紫色の機体によく似た黒い機体が現れて、紫色の機体の攻撃をサーベルで受け止めた。
「あ、あれも先月見たやつや⁉」
紫色の機体は黒色の機体を確認すると、左手をかざす。空間に再び穴が開き、その穴に入り込んだ。穴は機体が消えていくとともに無くなった。呆気に取られている大洋たちに黒色の機体のパイロットたちの声が聴こえてきた。機体同士が近いため、回線が入ってきたのである。
「……あ~またまたまた、逃がしたやん……」
「次は仕留める……」
「自分そればっかりやんけ、まあええわ、次行こか……って⁉」
残っていたニフォロアが黒い機体に襲い掛かった。
「ふん!」
黒い機体はサーベルを横に薙ぎ払うと、ニフォロアは上下に分かれ、爆発した。
「ビックリしたな~。ほんじゃ、後を追おうか」
「いや、今の一瞬で奴の反応を探知出来なくなった。ついでにエネルギーもいよいよ厳しい。補給の必要がある」
「補給って、アテがあんのかいな?」
黒い機体が左手の親指を電光石火に向ける。
「ええ~? そんなん、大丈夫か?」
「話せば分かる……はずだ。俺もそろそろ日本食が恋しくなってきたしな」
「まあええわ、その辺の交渉は任せるわ」
黒い機体が電光石火に向き直り、モニター回線を開いて通信してきた。そこには黒のヘルメットを被り、これまた黒いパイロットスーツに身を包んだ青年と、古代ローマの人々が身に纏うような白い衣服を着た虹色の坊主頭のマッチョの青年が映っていた。
「金色の機体、応答求む、GofEに合流したい」
「あ、貴方たちは一体……?」
戸惑いながら大洋が問う。青年はしばし考えて答える。
「ふむ……簡単に言えば異世界転生者だ」
「「ええっ⁉」」