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第10話(1)ガチめの作戦会議

 深夜の迎撃戦を終えてから約6時間後、大洋たちに召集がかかり、三人は種子島の軍港のターミナルに臨時に設けられた作戦司令室へと向かっていた。

「ア、アカン、絶望的に眠い……」

 隼子が目をこすりながら呟く。

「なんだ隼子、眠れなかったのか?」

「いや、色々と考えてしもうて……アンタらは眠れたんか?」

「そりゃあもうぐっすりと」

「ああ、爆睡した」

「大した神経しとるな……」

 三人は司令室の前にたどり着いた。ドアの脇に立っていた制服を着た若い兵士に向かって隼子が敬礼し、所属と氏名を伝える。

「二辺工業の飛燕隼子、疾風大洋、桜花・L・閃、以上三名参りました」

「ご苦労さまです!」

 兵士は元気よく答えると、ドアの脇にあるパネルを操作した。ドアが左右に開く。

「どうぞ!」

「どうも……」

 隼子が軽く兵士に会釈をして、二人を伴って司令室へと入って行った。

「おはよう。ゆっくり眠れたかしら?」

 出入口近くの椅子に座っていた殿水が話しかけてきた。

「いえ、全く……」

「でしょうね。実質初の実戦だったんでしょ? 無理も無いわ」

「よくご存じですね?」

「勝手ながら御社のデータベースから経歴を調べさせてもらったわ」

「そうですか……」

 俯く隼子に大洋が声を掛ける。

「どうした隼子? そんなに疲れたのか?」

「肉体的にもそうやけど、精神的にもな……」

「精神的に?」

「そうや……いくら敵対勢力とはいえ、何人もの生命をウチは……」

 隼子が唇を噛む。

「それなら心配ないわ」

「え?」

 隼子が殿水の顔を見る。

「昨夜の戦闘での死者は確認した所、敵味方共にゼロという報告を受けたわ。貴女が撃墜した機体からパイロットは皆脱出に成功したわ。もっとも皆こちらの捕虜になったけど」

「そ、そうですか、それは良かった。いや、良かったっちゅうかなんちゅうか……」

 殿水は椅子から立ち上がると腕を組んだ。

「……昨今のロボット同士の戦闘に於いて滅多に死者は出るものじゃないわ。各勢力ともどんな機体でもまず脱出装置に開発の全精力を傾けるって話もある位だしね。正規のパイロットライセンスを持っている貴女なら聞いたことあるでしょ?」

「ええ、まあ……」

「人命の替えは利かない……人類は21世紀終盤に素晴らしい発見をしましたね~」

 閃の皮肉めいた言葉を殿水は受け流した。

「ただ、万が一ということもある。私たちがやっているのはゲームじゃなくて戦争だからね。酷なようだけど、その辺は早目に割り切りなさい」

「……お言葉ですが、そう簡単には……」

「貴女たちが先月退治した怪獣だって生命ある存在よ?」

「!」

「民間企業に就職したとはいえ、貴女の家柄的にロボットパイロットとしての覚悟と矜持は備わっているものだと思っていたけど」

「そ、それは……」

 再び俯いた隼子を見て、殿水は片手で頭を掻いた。

「ごめんなさい、何だか意地悪なこと言っちゃったわね。もっと気の利いたアドバイスが出来れば良かったんだけど……」

「いえ、お気遣い痛み入ります……」

 隼子が軽く頭を下げる。殿水が大洋たちに視線を向ける。

「フンドシ君と白衣ちゃんはどうかしら?」

「……記憶は喪失していますが、どうやら俺にはその辺の覚悟みたいなものは元から備わっているようです」

「少々マッドサイエンティスト的な発言をしますと、研究には犠牲がつきものですから~。勿論、心が全く痛まないという訳ではありませんが」

「……それは結構」

「……だから、『至急こちらに応援に向かえ』ってメッセージは送ったでしょ⁉ 戦闘能力を失った相手に必要以上の損傷を与えなくても良いの!」

 火東の怒鳴り声が響く。壁にもたれかかりながら海江田と水狩田が答える。

「何事も念には念をと言うじゃありませんか、先輩?」

「やるなら徹底的に……私たちはそうやって生き残ってきた」

「今は私たちが上官みたいなものよ! 命令にはキチンと従って頂戴!」

「……ねえ海江田、これってギャラちゃんともらえるの?」

「GofEの指揮下に入るのは極めてイレギュラーな事態だけど、その辺は契約書にちゃんと盛り込んであるよ、ご心配なく」

「ア、アンタらね~! も、もう良いわ! ったく、これだから傭兵って連中は……」

 火東がブツブツと文句を言いながら、自分の席へと戻った。それを見た殿水が苦笑混じりで隼子に話す。

「まあ、あそこまで割り切らなくても良いと思うけどね」

 司令室に小金谷が土友を伴って入ってきた。小金谷は部屋を見渡して頷く。

「ふむ、全員集まったようだな、それでは作戦会議を始める!」

「作戦会議?」

 大洋が隼子に尋ねる。隼子は首を振る。

「い、いや、ウチも何も聞いてへん」

「メインモニター前に全員集合!」

 小金谷の号令を受け、司令室の壁に備え付けられた大きなモニターの前に皆が集まる。モニターに地図が映し出される。小金谷は指揮棒でその中のとある島を指し示す。

「このティーア・イ島へ攻める!」

 その言葉に皆がザワつく。大洋が小声で呟く。

「南洋にあんな島あったか?」

「つい昨年、海底火山の大爆発によって形成された島だよ。地球圏連合とムー大陸連邦政府の間で話し合いがもたれ、ムー大陸連邦の統治領ということになった」

「結構揉めに揉めてたけどな……」

 閃の説明を隼子が補足する。火東が尋ねる。

「その島はムー大陸連邦の民間人も多く移住しているはずですが?」

 土友が答える。

「一か月ほど前からヴァ―ルアがその民間人や連邦の役人たちを追い出し、島自体を要塞化し始めているという調査報告が入った」

「すると昨夜の連中は?」

 殿水の問いに土友が頷く。

「察しの通り、この島に逃げ込んだようだ」

「上層部はそれを我々に叩けと?」

「先の迎撃作戦の延長線上と考えろとのことだ。確かに現在近いのは我々だ」

「彼我の戦力差はどれほどですか?」

「監視衛星からの情報などをまとめると、要塞化はまだ十分には進んではいないようだ。この種子島の部隊に沖縄の地球圏連合軍の太平洋第三艦隊の支援があればこちらが優勢であるとの判断が下された。自分も先程、同様の結論に至った」

 土友の分析に小金谷が頷く。

「ヴァ―ルアの戦力を削ぐ絶好の機会だ。では作戦の詳細に移るぞ……」

「まさかこちらが攻めることになるとはな……」

 大洋が腕を組んで呟いた。

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