第9話(4)VS巨大オクトパス
「電光石火の三人! 応答なさい!」
「ぐっ……」
「フンドシ君! しっかりしなさい!」
「意味不明なあだ名で呼ばないで下さい……」
殿水の呼びかけに大洋がなんとか反応する。火東が呆れる。
「むしろこれ以上無い程ピッタリな愛称でしょ……」
「よおっし! 護衛艦は片付けたぞ! 次行ってみよう!」
FtoVのメインパイロットであり、ザ・トルーパーズのリーダーである小金谷が高らかに叫ぶ。火東と殿水が冷淡に対応する。
「そんなの見てりゃ分かりますよ」
「たたでさえ声も顔もデカいんだから、通信に割り込まないで貰えません?」
「お、お前らな~! リーダーに向かってなんだその態度は!」
「「「うわあああっ⁉」」」
大洋たちの叫び声がFtoVのコックピットにも聴こえてきた。見ると、電光石火が再び巨大タコ型ロボットの触手に捕らわれている。
「おい殿水! お前さんが見込みあるって言っていた奴らがあの有様だぞ!」
「こんなのが出てくるなんて私たちだって想定外なんですから無理もありません! 救出を提案します!」
「言われるまでも無い! FtoVはいつだってどこだって弱者の味方だ! 木片!」
「ZZZ……」
「だから起きろ!」
「は、はい!」
「レフトアームバスター発射だ! あの銅色の機体に巻き付いている触手を狙え!」
「り、了解!」
小金谷の指示を受けた木片が操作し、FtoVの左腕に装備されているバスターを発射させる。砲撃は的確に命中し、触手の一つは折れたような状態になったため、電光石火は触手から解放され、タコ型ロボットは触手を広げる。電光石火は落下し、海面に叩き付けられそうになったが、隼子が何とか操縦し、二度目の激突は回避した。
「土友! あのタコは何だ⁉」
「照合データ無し……。ヴァ―ルアの新型かと思われます」
土友が眼鏡を直しながら、冷静に答える。
「ちっ! 対策は⁉」
「あの自在に動く触手が厄介です。しかし、ご覧の通り、装甲はそこまでの厚さでは無い模様。八本の内、一本を潰しました。後七本潰せば無力化できます」
「聞いたな! お前ら! 残りの七本を潰すぞ!」
「了解~」
「へいへい……」
「火東! 殿水! 集中しろ!」
小金谷はイマイチやる気の無い二人に怒号を飛ばすと、大洋たちに呼び掛けた。
「おい! パソコンラック! お前らも聞いているな!」
「電光石火です! “こ”と小さい“っ”しか合うてません!」
隼子が抗議する。
「名前なんざどうでも良い! 触手を潰すのを手伝え!」
「簡単に言いはりますけどね! 正直避けるのが精一杯です!」
次々と繰り出される触手の攻撃を電光石火は何とか躱し続けていた。
「上出来だ! 避けられるなら当てられるな!」
「い、いや、どういう理論ですか⁉」
「強いていうなら根性論かな~?」
「嫌いではないな」
「アンタらはちょっと黙っとけ!」
隼子が下のシートの二人に叫ぶ。そこに土友が冷静な調子を崩さず、語りかけてくる。
「申し訳ないが、うちのリーダーが一度こう言い出したら、反論は受け付けない」
「そ、そんな⁉」
「触手五本はこちらで引き受ける。後の二本をお願いしたい」
「二本って⁉ いやそれより五本って⁉ 流石に無茶やないですか⁉」
「問題はない 健闘を祈る」
そう言って土友は通信を切った。
「あ! ちょ、ちょっと!」
FtoVに触手が五方向から迫っていた。
「触手が五本同時に向かっているぞ!」
「いや、あの動きは……敢えて誘導したんだ……」
「何⁉」
閃の呟きに大洋が驚く。小金谷が叫ぶ。
「来たな! 喰らえ! ウィンクボンバー!」
FtoVが片目をウィンクすると、ハート型の砲弾が発射され、触手を破壊した。
「ウィンク⁉ そこはビームとか出すんじゃないのか⁉」
大洋が衝撃を受ける。土友が静かに呟く。
「……ライトアームフリック!」
FtoVが右腕を伸ばすと、所謂デコピンを操り出し、触手を弾き飛ばした。
「デコピン⁉ 素直にパンチで良いんじゃないのか⁉」
大洋が驚愕する。木片が呑気な声を上げる。
「レフトアームクラッシュ~」
FtoVが左腕を伸ばし、触手を握り潰した。
「いや、さっきのバスター使わんのかい!」
大洋が狼狽する。火東が叫ぶ。
「レフトフットサンドイッチ!」
FtoVが左脚を伸ばし、内腿とふくらはぎの部分で触手を挟み潰した。
「ちょっと左腕と攻撃方法被っているだろう!」
大洋が困惑する。殿水がやや気乗りしない様子で叫ぶ。
「……ライトフットキック!」
FtoVが右脚を伸ばし、触手を蹴り飛ばした。
「単純に蹴った⁉」
大洋が仰天する。小金谷が満足そうに頷く様子が電光石火の画面に映し出される。
「どうだ! 五本潰したぞ!」
唖然とする大洋に隼子が嬉しそうに話す。
「見たか、二人とも⁉ これがFtoVの多彩な戦い方や!」
「多彩過ぎるでしょ……」
閃が呆れ気味に呟く。殿水が叫ぶ。
「まだ二本残っているわよ! 余所見しないで!」
「!」
触手二本が電光石火に襲いかかる。しかし、相変わらず隼子は躱すことが精一杯だった。
「反撃せねば倒せんぞ!」
「悔しいですが、今のウチの技量では無理です! 救援をお願いします!」
「大丈夫だ! お前たちなら出来る!」
「ええっ⁉」
驚く隼子に土友がボソッと呟く。
「助けたいのは山々だが、こちらは現在エネルギー切れで動けない」
「そ、そんな⁉」
「ご利用は計画的に!」
これには閃も堪らず叫ぶ。
「土友さん! 予備エネルギー充填は⁉」
「勿論やっているがもうしばらく掛かる」
「くっ! 万事休すね……」
「諦めんといて下さいよ!」
殿水の言葉に隼子が抗議する。目を離した隙に一本の触手が伸びてくる。
「隼子!」
「しまっ……⁉」
思わず目を瞑った隼子だったが、目を開けると、切り裂かれた触手の姿が合った。
「……来るのが遅いのよ」
火東が首を傾げながら呟く。
「このエレキテル=アンチョビは海中戦に不向きな機体。無理は言わないで欲しい……」
機体の爪で触手を切り裂き、戦艦の甲板に降り立った水狩田が淡々と答える。その隣に立つ海江田が訂正する。
「エテルネル=インフィニね……自分たちの機体名位ちゃんと覚えなよ」
「邪悪なお姉さんたち! 助けに来てくれたんですか!」
大洋の言葉に水狩田がややムッとする。
「そのあだ名、あんまり好きじゃない……それにこれも仕事……」
「出遅れた分はキッチリ取り戻しますよっと!」
海江田が機体の鞭を残った触手に巻き付ける。
「電磁の味はお好き?」
海江田がスイッチを入れると、電流が走り、タコ型ロボットの動きが鈍くなった。
「! よし、隼子! ギリギリまで近づいてくれ!」
「分かったで!」
電光石火がタコ型ロボットとの距離を詰めると、近接戦闘モードに切り替わった。大洋は機体に刀を振り上げさせる。
「喰らえ! 大タコ斬り‼」
電光石火の斬撃を喰らい、一瞬の間を置いて、タコ型ロボットは爆発、炎上した。
「次は母艦か! 居ない!」
「海中に潜ったみたいだね。でもこの深度ならまだ追えるよ!」
「よっしゃ! 追撃や!」
「その必要はありません」
勢いづく大洋たちを土友の冷静な声が制した。
「な、何故ですか⁉」
「どういうことだ、土友! 説明しろ!」
「リーダー……こちらのメッセージをご覧下さい」
「む……了解した。各機帰投しろ!」
小金谷の唐突な命令に大洋が食ってかかる。
「ど、どういうことですか!」
「落ち着け……後で説明する。とりあえずご苦労だったな、電光石火」
「そんな!」
「納得出来ません!」
「まあまあ、名前覚えて貰っただけで今日は良しとしときなさい」
限定回線で通信してきた殿水がそう言って大洋たちにウィンクする。