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第22話 親からの……

「父さん、勇者だったんだ……」
実績を残した勇者。
「ひょっとして母さんの左手は、そのとき」
動かない母さんの左手を見やる僕の問いに答えず
「フェイは、母さんの事よりミーアちゃんの事を考えててあげなさい」
「ミーアの事はちゃんと見てるよ。これまでちゃんと向き合ってこなかった分も含めてね。あんなに僕の事を想ってくれてる子に気付いていなかったなんて自分が情けないと感じてる」
僕は母さんの淹れてくれたお茶を飲み終わると
「また来るね」
と言って実家を出た。今はミーアも親子水入らずで話をしている頃だろう。僕は村の中をブラブラと見回る。
「おはよう、フェイ。聖都からの救援部隊はどうだって」
「おはようございます。急いで部隊を編成して騎士団を送ってもらえるそうです」
「おお、騎士団が来てくれるなら頼もしいな」
そんな話をしながら村を回った。とりあえず、1度だけ柵を壊されたものの村の中に被害は無かったらしいのでみんな元気だ。村の中の一回りして、そろそろミーアも帰っているかなと家に帰ることにした。
 ミーアがちょうど帰ってきたところだったようで玄関前で一緒になった。顔を見合わせて二人でクスリと笑い手をつないで一緒に部屋に入った。
「どうだった実家でお義母さんと話してきたんだろ」
「うん、今まで子供扱いだったからって教えてもらってなかったことを教えてもらったよ」
ちょっと頬を染めた顔が可愛い。
「僕も、大人になったからって教えてもらったよ」
「そ、そうなのね」
「そのあたりのこと今夜ゆっくりと、ね」
こっくりと頷くミーアがいつもにまして可愛らしい。そんなミーアを見ていると、ああ、僕はミーアが好きになったんだ、と実感をした。もうアーセルとの事は何も引っ掛かりを感じない。
「ミーア」
「なにフェイ」
「好きだよ」
ミーアを抱き寄せながら囁いた。それは結婚の話があってから初めて僕から囁いた愛の言葉。ミーアはちょっと目を見開いて、でもすぐに顔を蕩けさせて僕に抱きついてきた。
「嬉しい。やっと言ってくれたね。でも、実を言うと、もう少し時間かかるかとも思ってたのよ」
「ごめんね。待たせちゃって」
「ううん、最初に言ったでしょ。一緒になってから少しずつで良いって」
”コンコンコン”そこに無粋なノックが響いた。
僕とミーアは顔を見合わせてちょっと残念な気持ちになったけれど、居留守を使うわけにもいかないので、僕が向かう
「はい、どなた」
「おう、私だよ。少し打ち合わせをしたいんだが良いか」
ティアドさんだった。
「ティアドさん、どうぞ入ってください」
そこからは魔獣の群れが襲ってきたときの対応手順を打ち合わせた。基本的にこの2日間の方法にティアドさんが遊撃を行うことで厚みを持たせることにした。
 打ち合わせが終わると昼近くなっていたので、
「ティアドさん、食事にしましょう。よかったらご一緒にどうですか」
「いや、私はラリサが昼食を準備してくれているので家で食べるよ」
そう言ってティアドさんは帰っていった。
昼食後に二人でくつろいでいると、この2日と同じように騒ぎが起きている。魔獣が集まってきたようだ。
 そこからは昨日までと同じ集まってきていた魔獣が昨日よりさらに増えていたけれど、ティアドさんが遊撃に入ってくれたこともあり危なげなく撃退できた。
「今日も無事撃退できたね」
ホッと息をつく僕にティアドさんが
「二人の動きを初めて見たけど、本当に1カ月のペアかい。それにふたりの弓。昨日引かせてもらったときにある程度予想はしたけど、とんでもないものを持ち帰ってきたね」
「お義父さんの遊撃のおかげもあります。随分とやりやすかったです」
ティアドさんは、ニコリと笑顔を見せたあと、ちょっと寂しそうな表情になり、
「ここにあの二人がいてくれたら……きっと……」
「お父さん」
ミーアが声を掛けると
「なんでもない。今日は多分もう大丈夫だからふたりともしっかり休むんだよ」
そう言って出て行き、僕とミーアは少し気になったけれどそれ以上声を掛けることができず見送った。
 その日の夜、夕食後にミーアとベッドに並んですわり、リラックスしていると、ふと昼間のミーアとの会話を思い出した。
「そういえばミーア、お義母さんから何か教えられたって言ってたよね」
「う、うん。あたしも大人になったからって。フェイも何か聞いたんでしょ」
ミーアが何か挙動不審だ。なんかほんのり頬を染めて恥ずかしそうにしている。
「ああ、僕は父さんの事を聞いたよ」
「フェイのお父さんのこと」
キョトンとするミーアも可愛らしいな、そんなことも思いながら聞いたことを話す。僕の父さんが勇者だった事、聖都を襲った中位の王種を倒し、その時のケガがもとで亡くなったこと。母さんから聞いた一通りをミーアに話した。
「そっか、フェイのお父さん勇者様だったんだ」
「それで、ミーアはお義母さんから何を教えてもらったの」
「え、えと。その」
とたんに目を泳がせ、言い難そうにするミーアに、
「何か言い難いことなの」
僕が尋ねると。
「言い難いっていうより、ちょっと恥ずかしいっていうか」
そこからポツポツと聞いた内容は、僕も顔を赤らめるような内容だった。
「そ、そっか。夫婦になるってそういうこともするんだね」
そう、夫婦の営みについての話だったそうで、基本的なことから、女性が月のものになっている時の対応、そして中にはとても口にするには勇気の必要なものまで教わってきていた。話し終わったミーアは照れて耳まで真っ赤になっていた。僕はクスリと笑いながら
「ミーア無理しなくていいよ。僕たちのペースで進めていけばいいんだから」
そう僕が言うと、ミーアがバッっと顔を上げて
「む、無理してるんじゃないもの。ちょ、ちょっとびっくりしただけだもの。そ、それに、その」
「ちょっと興味がある」
僕が尋ねると、小さく頷くミーア。
「それじゃあ」
僕はミーアを優しくベッドに押し倒した。

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