第21話 見られなかった父の雄姿
ティアドさんが援軍要請から帰ってきた翌日。僕は母さんに会いに行った。
「どうしたのよ、ミーアちゃんと喧嘩でもしたの」
「いや、しばらく母さんとちゃんと話してなかったなって思ってさ」
「そうだったかしら」
「それに、聞きたいことも出来て」
「聞きたいこと」
「うん、聖都に1週間行ってる間にいろんな人に会ったんだけど。その中にギルドマスターのゲーリックさんて人がいてさ。父さんの名前を知ってたんだ」
母さんがピクリと反応した。ひょっとして
「それもさ、何か偶々知ってたって感じじゃなくて。そうまるで伝説の勇者様の名前を聞いたような反応だったんだよね」
溜息をひとつついて母さんは言葉を紡ぎ始めた。
「そうね、もうフェイも大人になったことだし、そろそろ知っても良い頃かもしれないわね」
そして母さんの口からぽつりぽつりと語られた父さんの人となり。それは驚くべき内容だった。
父さんと母さんは、この村で生まれ育った幼馴染だったそうで、幼いころからいつも行動を共にしていた。母さんは赤の狩人の祝福を持って生まれ、母さんより1つ年上の父さんは幼いころは祝福を持たない一般人として過ごしていたそうだ。ただ、母さんだけは何か特別な祝福をもっていてそれを隠していると信じて疑わなかったそうだけれど。なにしろ10歳の頃にふたりで遊びに入った森で出会った魔獣の群れ7体ほどをたった一人で討伐してしまったそうだから。ただそれを他の人に話すのを嫌がったそうで父さんと母さん二人だけの秘密としていた。そのまま二人は愛を育み成人後結婚。3年後に僕が生まれ、そして更に4年後ある事件をきっかけに公になってしまったという。
それは魔獣の王、王種による聖都襲撃。中位の王種が約500体の下位および中位の魔獣を引き連れて聖都を襲った。当時の勇者様を含む大規模討伐隊が討伐に向かった。王種以外の魔獣は大きな被害を出しながら大規模討伐隊によって討伐されたものの王種は、その特性上聖剣でしか討伐ができない。そしてその聖剣を扱えるのは勇者のみ。これが下位の王種であったなら当時の勇者様でも討伐できたかもしれない。しかし、当時の勇者様の色は白。聖剣を扱い、王種にダメージを与える攻撃こそできたけれど、格が低すぎて戦いにもならなかった。このままでは聖都が王種に蹂躙される。誰もが悲しい未来を幻視し、絶望に膝をついた。そんな時に地に倒れた勇者様の聖剣を引き取り王種の前に立ちふさがったのが僕の父さんだった。父さんは丸1日におよぶ戦いの末たった一人で王種を討ち果たした。ただ、王種から受けた傷がもとで治療の甲斐なく亡くなってしまったという。父さんは黄の勇者の祝福を受けていたのだそうだ。しかし、勇者となれば村から引き離され苛烈な戦いの旅を強要される。それを危惧した家族により父さんの祝福は秘匿され、父さんが自らの意思で選ぶまで村で静かに生活を送らせることにしていたのだそうだ。なぜ父さんの祝福が家族には知られていたのか、これは誕生の際に母親にだけは天啓として子の祝福が知らされるからだ。
そして、父さんは聖都防衛の英雄として名を知られることになった。その死と同時に。
「父さんは、人として素晴らしいことを成し遂げたわ。でもね、私は父さんに生きていてほしかった。成人してお嫁さんをもらったフェイの姿を一緒に見て欲しかった」
それだけ語ると母さんは、僕の顔を見て
「フェイ、あなたは生きて。ミーアちゃんと一生を共に生きてちょうだい」