第八話 呂布奉先、ローマを治める <序>
かすれて大人びた声だ。心なしか声が沈んでいる。
「めずらしいな、お前が丘に登るのは」
「…伯にいに聞きたいことがあって待ってたんだ」
少し答えに迷ってからそう言うと可比能はちらりと季蝉の方を見た。
その視線の意味に気づいた伯は、優しく季蝉の頭を撫でてやり「季蝉、少し散歩しておいで」と小さな声で言った。
季蝉は笑顔で頷くと、すぐに丘の反対に向かって歩きはじめた。
「賢いな…季蝉は」
可比能は季蝉の歩いて行くほうを見ながら言った。
その言葉に伯は微笑で答えると少し真剣な顔で可比能を見た。
「ラクレスが旅支度か?」
伯は突然に問うた。
可比能は目を見開き驚きを表した。
「知ってたのか?」
「知らぬよ、そんな気がしただけだ」
伯は可比能から目をそらし村に目を向ける。
村は眠りから覚めたように朝の生活を営みはじめていた。