【レイフが弱い理由】
【レイフが弱い理由】
惑星ニューカルーは、惑星トナパとは明らかに違う気候の惑星だ。
レイフが違う惑星に来たのは初めてだった。これが違う惑星かと息を呑むが···周りにガリーナの姿は見えない。格納庫のような狭い場所に、巨大なゴーモであるコナツの機体は隠されているようだった。
「あー、外出ちゃった感じだなー。ラルで連絡取れないかー?」
「ああ···無視されてるな」
レイフは、ラルでガリーナと連絡を取ろうとしたが、ガリーナが無視をしているようで繋がらない。2人は、格納庫の外に目をやる。外の砂漠に、ガリーナは1人で行ったというのか。
惑星ニューカルーは暑く、ゼノヴィアシステムが作り出した偽りの太陽の日差しが肌を焼く。暑すぎる気候の下で、少し砂漠を歩いただけでも息があがってしまう。
「パパゴロドンさんは、ガリーナちゃんの親のことを何か知ってるんですか?」
「ああ、イリスから聞いたことあるぞー。直接会ったことはないけどなー」
「ど、どんなことですか?」
先程パパゴロドンは、父のアクマ信仰を否定していた。古い付き合いである彼の言葉なら信憑性はあるし、何よりーーーレイフは情報が欲しかった。突然こんなことに巻き込まれ、誰も信用できる大人がいなかったのだ。
「ああ、イリスの仕事仲間の娘だよ。大層なべっぴんさんだって言ってたーー息子のお前にはショックな感じかもしれないけど、あれは多分···」
「···多分?」
「惚れてた感じなんじゃないかなーと、俺は思ってる」
昔の仕事仲間の娘ーー古い知り合いの娘とは聞いていたが、もしかして軍人時代の仲間の娘なのだろうか?
レイフはホッとした。まだ確証はないが、もしかしたらガリーナはアクマの子ではないかもしれないのだ。
(さすがにアクマのことを、昔の仕事仲間だなんて言わねぇだろ)
でも父が何故、アクマの剣であったとされるクォデネンツを持っていたかについては、わからない。レイフはパパゴロドンに訊きたかったが、さすがにこの質問をすることは躊躇われた。
「おーい、弟ー」
「ん?」
「くるぞー」
「えっ?何が···」
パパゴロドンに言われ、レイフはハッとした。パパゴロドンは脇に、バズーカのような大砲を抱えており、前方に発射していた。
ばすん、と大きな空気の破裂する音。
レイフは慌てて後方に飛び退き、毛を逆立てる。
パパゴロドンの大砲が、ある生き物の体を貫く。犬科のような叫び声と、大量の水が弾けるような音と共にーーある生き物が砂漠の上で消失していた。
「な、なんだ」
「エミュルブトーな感じなんだなー。惑星トナパにはいないかー?」
「い、いないっす。あんなの···」
砂の上で、3体の狼のような生き物がレイフとパパゴロドンを見て、牙をむき出しにしている。まさに犬のような形状の生き物だが、その身体は水分で構成されているように見えた。パパゴロドンが撃ち抜いた時も、水が弾けるようにしてその身体は砂の上で消失もしていたくらいだ。
「惑星ニューカルーの原生生物なんすか···?」
「そうそー、さくさく殺さないとなー、あいつら何十体も群れで暮らす感じなんだなー。殺し損ねると仲間呼ばれるぞー」
レイフは初めて見る惑星トナパ以外の原生生物を前に、軍学校支給の剣をラルで構成する。
剣を構成した直後、1体のエミュルブトーはレイフに飛びかかってきた。
「うわっ!」
狼のような生き物の迫力に叫び声をあげながらも、剣を振るう。狼の体を切り裂くようにしたつもりだがーー剣は、狼の体を通っただけだった。
「えっ!?」
「馬鹿だなー」
まさに水の中で剣をただ振るっただけのような感触だった。
自分の目の前に狼の水の牙が見えた。鋭い牙は、彼らが水であっても凶器となりえるだろう。悲鳴を出しかけた時、パパゴロドンのバズーカがレイフの前にいるエミュルブトーをふっ飛ばす。
「なっ···」
レイフは、大量の水を体で受け止める。粘着質でもなんでもない、本当にただの水だ。
「エミュルブトーは水でできてる感じなんだから、普通に斬れるわけないだろー?」
「えっ、じゃあ剣では倒せないってことすか?」
「いや、倒せるぞー。ただ、その使い慣れてない感じの剣じゃ到底無理な感じだろうなー」
「は···」
パパゴロドンには、軍支給の剣を使い慣れていないことですらお見通しなのか。
「お前はあれだなー、弱いなー」
「何を急に···」
かちんときた。
レイフは剣を構えながらも、迫りくるエミュルブトーの攻撃をかわす。パパゴロドンよりも、レイフの方が弱いというのを理解しているのだろう。原生生物は正直だ。
「軍学校でも成績は良くなかったっすよ!実践も経験ないし···!」
怒鳴るように言うが、パパゴロドンの飄々とした態度は変わらない。
「いや、あれだよなー、お前は瞬発力も判断力も皆無なんだよー」
「···それは教官にも言われました!」
(そう言うなら、助けてくれれば良いのに···っ!)
パパゴロドンは、攻撃をかわすレイフをじっと見るだけで、助けようとはしてくれない。彼もまたバズーカを構えているが、発砲の気配はなかった。
狼が噛み付いてくるのを、剣でおさえる。水でできているのにかたい牙が剣先に当たると、剣が細かに震えた。
「お前の弱さの原因を教えてやろうかー?」
「え···」
レイフは、パパゴロドンを見た。その時、エミュルブトーが唸り声を上げる。
あっ、しまったーーと思った時、パパゴロドンがすかさず発砲した。またレイフは水を浴びることになるが、すぐにパパゴロドンはもう1体のエミュルブトーに発砲し、倒してしまう。あっという間に退治してしまい、レイフは呆然とするしかなかった。
「甘え、な感じなんだなー」
パパゴロドンは、言い切った。
「今まで父ちゃんや姉ちゃんに守られてた感じなんだろー?軍学校では教官に守られて、今は俺に守られてる。1人で戦うことがなかった感じなんだなー」
甘えーーーレイフは顔を赤くした。
子供だと自身に突きつけられているように思えた。
「そ、そんなことないっす!オレだって、惑星トナパでは原生生物を狩ったり···!」
「それは父ちゃんに教えられたやり方だろー?慣れだよ、慣れー。初めての相手に、本気の相手に、自分を殺そうとする相手に、お前は勝ったことがないだろー?」
そうだーー昨日、レイフは勝てなかった。
フィトに。シャワナにーーユキの足手まといになり、ガリーナと逃げるしかなかった。
弱者のように、逃げるしかなかった。
(軍学校に通っても、オレはガリーナちゃんと同じで···全然弱い)
今だって、初めての原生生物を前にして勝つこともできなかった。
パパゴロドンが言うには、それもまたパパゴロドンに甘えているせいで。
(ガリーナちゃんを守るためには···強くならなきゃ···)
レイフは手に持つ剣を、消失させる。粒子は細かく散り、レイフの手には何も残らない。