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【飛び出したガリーナ】

【飛び出したガリーナ】


 彼の言う通り、コナツの機体が移動しているのだ。


「コナツの機体を、移動?どうやってるん···すか?」

「小型の機械人形を数十体連れてきたんだなー。こんなだだっ広い場所に着地したら、アシスの連中に見つけて下さいって言ってる感じだろー?ふざけてるのか、お前らー」

「いや、それはコナツの操縦権が俺等にないから、仕方なく···」

「んあー?何でそんなことになってるんだー?イリスがアクマ信仰とか疑われてるのもよくわからないが、面倒なことに巻き込まれてる感じなのかー?」



 レイフとユキは目を合わせ、渋々ながら警戒を解いた。彼の発言から、とりあえずは味方と思える。



「実は···」



 レイフは、今まで自分たちに降り掛かったことを説明した。説明が終わる頃には、コナツの窓の景色は砂漠の中ではなく、暗い倉庫の中に変わっていた。言葉通り、彼のゴーモ庫なのだろう。



「はー、やっぱり、よくわからん感じだなー。イリス、また変なことに巻き込まれてるんだろうなー」



 話を聞き終わったとき、パパゴロドンは大きく息を吐いた。



「あいつがアクマ信仰な訳ないもんなー」



 この彼の一言によって、レイフとユキは少しだけ救われた気持ちになった。惑星トナパで家を追われてから、自分たちの知らない事実を突きつけられてきたのだ。未だわからないことが多いとはいえ、イリスの知り合いに否定されたことが、2人の心に少しのやすらぎを与えた。



「パパゴロドンさん、お父さんはアシスで働いていたの?このコナツって、アシスの物だって言うの」



 今までパパゴロドンを睨んでいたユキは、ようやく彼に敵意を見せなくなっていた。



「お前たち、イリスについて何も知らない感じなのかー?」

「昔、軍で働いていたってくらいで···」

「あいつはアシスで働いてたんだぞー。このコナツを乗り回してなー」



 私設軍アシスに父が所属していたなんて、初耳であった。



(父さんが、アシスに?コナツを乗り回していたってことは、やっぱりコナツのマスターは父さんなのか?)



 イリスがコナツに乗っていたということがいよいよ本当だとわかってきた。しかしそれが本当だとしたら――益々疑問が深まる。



(コナツのマスターとガリーナちゃんは遺伝子情報が同じって言ってたよな?父さんがマスターだったら···オレとガリーナちゃんは姉弟?いや···それはねぇだろうよ···)



 先ほども考えていたことだが、レイフは心中で否定する。



「パパゴロドンさんはガリちゃんのことも知ってるの?私達、あの子の親についても知らないの。知ってるなら教えて」

「ああ、あのアクマの子と言われてる子かー。あの子は···」



 パパゴロドンが言いかけた時、奥の部屋の扉が開く気配がした。3人が振り返ると、足早にガリーナが部屋から出てきたが、顔を俯かせていた。



「あ、ガリちゃん···」

「ちょっと!待ちなさいよぉ!」



 ユキが言いかけるが、コナツの大きな声音でかき消される。ガリーナは顔を俯かせたまま、レイフの横を通り過ぎた。



「ハッチ、開けて」



 レイフは、ハッとした。

 ガリーナは、泣いているように見えた。声音も震え、泣いていることを必死に隠そうとしているようだった。



「ガリーナちゃん」

「ハッチ、開けてよ!!」



 ガリーナが声高に叫んだ。普段冷静なガリーナとは思えないほど、気が動転しているようだった。ガリーナの声に反応し、ハッチが開く。コナツは、気まずそうな顔をしていた。



「は?な、なんだなんだー?ガリーナ・ノルシュトレーム、外行く感じかー?」



 パパゴロドンの声など、ガリーナは聞こえていないようだった。ハッチが開くと、ガリーナは機体から飛び出していってしまった。外は格納庫だったが、ガリーナはそんなことをお構いなしに走って行った。



「お、おい。外は危険な感じだぞー?コナツ、どうしてハッチを開けるんだー?」

「···パパゴロドン、あんた、随分老けたわね」

「おいおい、お前状況わかってる感じなのかー?アシスの狙いは、あの子なんだぞー?」



 パパゴロドンと、23年前の記憶を持つコナツは、知り合いなのか。コナツはバツが悪そうにしながらも、「ちょっと、仕方ないのよ」ともごもごと言った。



「ガリちゃん···追わなきゃ」



 ユキが言った。彼女はレイフについてこいと言わんばかりに目線を向けてくるがーーー。



「姉の方はだめだぞー?お前はここで待機な感じだー」

「えっ?どうして」

「肩怪我してるだろ。銃の構え方でわかる感じなんだぞー。無理すんなー」



 これには、レイフとユキは驚かざるをえなかった。ユキの怪我を見たわけでもないのに、当てたのだ。



(すげえな···パパゴロドンさん)



 レイフは純粋に尊敬した。先程のバズーカの威嚇といい、只者ではないのだろう。



「仕方ないから、弟行くぞー?あの嬢ちゃんも、中年のおじさん1人で迎えに来られても嫌だろうしなー」

「えー、パパゴロドン、オヤジ臭いわねぇ」

「うっさいんだぞー。あの子に何を言ったか詮索しないけど、お前は反省しろって感じだなー」



 コナツはぎくりとすると、バツが悪そうな顔で姿を消した。消えた彼女が、ガリーナに何を言ったかわからない。



(2人は遺伝子を調べるって言ってたけど、そこで何がわかったんだろう···)



 レイフやユキ、そしてガリーナの遺伝子。コナツのマスターの遺伝子情報とガリーナも調べると言っていたがーーガリーナは何かを知ってしまったから、飛び出したのではなかろうか。



「レイフきゅんっ」

「え」

「ガリちゃんを、よろしくねっ!あの子昨日から、もう何がなんだかって感じで、頭パニクってると思うから!」

「···わかってるよ」



 ユキは必死にレイフに訴える。

 ユキに言われなくても、わかってる。自分たちだって、すでに頭がパンクしているのだ。



「行こう、パパゴロドンさん」



 レイフは深く深呼吸をし、開いたハッチから外に出た。暑い空気が肌を撫でる。



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