解読の合間に
ガイアに連れられた一行は、森の中の一角へとやってきていた。墓所らしいがそれらしいものは見当たらない。ジュリエッタは光魔法で周囲の反応を探りながら、この場所に関しての疑問を口にする。
「ここは……正規の訓練場ではないわね? 報告あったかしら?」
「恐らくそういう話は聞いておりませんね」
ジュリエッタの疑問にグレイスが答える。その言葉を聞いたミリーが震え上がった!
「ももも申し訳御座いません! うちうちううちのおととお父様が無許可の……」
「大丈夫だよミランダ嬢。エッシャー家はほら、あれじゃないか?」
「ああ、そちらの方面での。であれば私が知らぬのも無理はない。管轄する部署が違う」
すかさずフォローするイケメン、エリオットの言葉でグレイスも裏にある何かに納得する。何となく興味をそそられる話ですね。
「そそそ、そうです、の?」
「そうだよ。だからミランダ嬢は安心して良いよ」
「は、はい……」
「メイリア大丈夫?」
「代わってくれても良いよ?」
「 ? 二人して何の話してらっしゃるの?」
「びくびくミリーがメイリアの腕に、これでもかって位の力でしがみついてるから痛くないの? って話」
「 !? ももも申し訳ありませんわ! 御免なさい! メイリア!」
「うふふ、ちょっと痛かったけど心細かったんだし仕方ないよ」
「あうう……」
「ミリーの手形がついてたりして……」
「「えっ!?」」
「えっ?」
「めめめめいりあ! 腕まくって! 大丈夫か見せて!」
「おおお落ち着いて!? ちょ、めくらないで!?」
「ほーれ落ち着けー? ミリー?」
「うにゃあああ!?」
喪女がミリーに絡みつく! 喪女らイスト!
(え? それどっちのネタ? 仮面? ポケットの怪物? ……どっちでも良いか)
「手形がついてても治せるから? 男子の目もあるこんな所で、女子の服をめくるのは感心しないなぁ?」
「はっ!? ……気が動転してしまっていて基本的な事に気がついておりませんでしたわ。重ね重ね申し訳ありません。メイリア、あの、その……許して下さいます?」
「あ、あはは……許すけど、毎回は嫌よ?」
「は、はい」
「そうだ。どうせ巻き込むならそこの図太そうなのにしておけ」
「はい、そうで……あの? 何方様でしょうか?」
「ミリー? 色々後で話があるけど、とりあえずこちらはベルミエッタ様。サイランス侯爵家の次女よ」
「 !? コレはとんだ失礼を……。私、ミランダ・エッシャーと申します。以後お見知りおきを」
「……これが普通の貴族令嬢の姿だと思うんだが、どうなんだフローラ?」
「え? この対応をお望みなら終生そのまま相手するって言ったよね?」
「……すまん、今のナシ」
「で、こちらは……」
「ミュラード伯爵家が長女、エリエアルです。よろしくね? ミリーさん」
「 !! ははは、はいっ! よろしくお願いしますですわ!」
「なんか私の時と対応が違くね?」
「エリさんがミランダを愛称で呼んだのが好感度高い理由だと思うわ」
「ほぉ、そうなのか。じゃあ私もミリーと呼ぶとしよう」
「ふぇっ!? よよよ、よろしくお願いしますですわ」
「……本当に変わるな。もしかして友達少ないのか?」
「 !? (……じわぁ)」
「あっ! すまん! 今のナシ! 私も少ないから! ……そうだな。私とも友達ってことでどうだ?」
「(ぱあぁぁぁあ!)」
「……なぁフローラ」
「なぁに?」
「この娘メチャメチャ素直可愛いな」
「でしょ。……あげないわよ?」
「どういう意味で言ってんだ? ああそうだ、ミリー。これとそっちのが私の事をミエって呼ぶから、お前もそう呼んでいいからな」
「 !? ミエ……様?」
「様は要らん。ミエで良い。そう呼ぶのを許可しているのは数える程も居ないから光栄に思え」
「分かりましたわ! ミエさん!」
「……まぁ『さん』も要らないけど、それはおいおい、かな」
「良かったのぉ、ミエ。友達ができて」
「ホンにのぉ」
喪女さんにエリさんが乗っかった!
「おいこらぁ!? フローラはともかく、エリは悪ふざけが過ぎるぞ!?」
「あっはっは、ごめんごめん」
(ミエもだったけど、エリさんもノリが良いんだね)
「私達なら気にしないから、フローラのお友達は私達の事もお友達として対応してくれると嬉しいわ。メイリアさんも同じ訓練する仲間なんだから、ミリーさんみたいに気安く声をかけて欲しいの」
「ど、努力します」
「ん、今はそれで良いわ。そろそろ調査も終わったみたい」
エリがそう視線を誘導すると、難しい顔をしたディレク皇子の姿があった。
「どうされたんです?」
「誰の墓だったと思う?」
「んー? 聖女様とか?」
「お前……!? なぜそれを!」
「ああ、ビンゴですか」
「び、びん? ともかく、どうして今しがた判明したばかりの事実をお前が先駆けて知っているのだ!」
「んー、ガイアがヒントですかね」
「ガイア? 白虎がどうした?」
「あの子、本当はかなり我が強いんです。私が仲良くしてあげてね、って頼んだ子には凄く優しいんですが、それ以外の人には凄くドライなんです。うちのベルなんて、私はガイアに仲良くしてとはちゃんと言ってないんですよね。でも今は懐いてるって言っても良いレベルでしょ?」
「ううむ? ……それに何の関係があるのだ?」
「光魔法って勇者と聖女、そして聖女の子孫達しか使えなかったんですよね? それを黒繭事件の折り、極大の浄化魔法を使ったことで、この地には光魔法を使える人が、確率は高くはないにしても、生まれてくるようになった。で、合ってます?」
「……うむ。その通りだ」
「ガイア?」
「がう?」
「あんた聖女様の守護獣だったの?」
「がうっ」
「やっぱそうなのね。長生きねぇ、あんた」
「がうぅぅ」
歳のことは言わないでって言ってるみたいに聞こえるな。
(まぁそんな所なんでしょうよ)
「という事で、もしガイアが聖女様の守護獣だったのなら、光魔法使える人に好意的な理由に説明がつくのでは、と思ったのです。ベルも魔力が少ないけど光魔法使えるものね」
「(コクリ)」
「そ、そうか……」
「結局ジュリエッタの言った通りになったね」
喪女さんの説明を受けて、ディレクが微妙な顔をし、乙女様と喪女さんの意見が合致してた事をほのめかす。
「そうですわね。……でも今の話を聞いてると、私やグレイスお姉様はガイアちゃんに仲良くしてもらえないのでしょうか?」
「ええっっ!?」
アメリアは話を流れを整理して、自分達がガイアの興味の外にある事に気づき、そのつぶやきを拾った可愛い物好きのグレイスが衝撃を受けて悲壮な顔をしてる。……あれ、一応虎ですぜ? かなり大きめの。
(それは関係無いんじゃない? ベル程じゃないけど、グレイス様にもそっちの気があるし)
「ガイア? このお二人は私に良くしてくれてる人達だから、仲良くしてね?」
「がうっ! な゛ぁう゛〜」
「きゃっ! あはは、愛情表現が強いですわねぇ」
「おおっと! ははっ、確かに強いな!」
乙女達、ご満悦ですな。
(甘々のスチルとは違うけど、まぁコレもコレでよし。……ん? うえっ!? エリさん鼻血!?)
お? おおぅ、何に興奮してんだろ……。
「(ぷっくー)」
(もしかしなくても、もんもんかぁ!)
「さ、サイモン様? 解読の方は如何ですか?」
「……もうほぼ終わった。暗号らしい暗号でもなかったからな」
「そ、そうですか」
グレイスをガイアに取られてむくれるもんもんことサイモンは、墓所の石碑を解読してたらしい。
「ええっと、それで何が書かれてたんですか?」
「聖女ルミナ、生涯の全てを国に捧ぐ。まぁこれは墓碑や記念碑に書かれる常套句のような物だから無視して良い。中には聖女を守る獣の事も書かれていた。何故か名前は削り取られていたが……」
「……ガイア?」
「(ふいっ)」
喪女さん、こいつぁ何か匂いますぜ。
(奇遇だな、ヤス。私もそう思ってた所だ)
……よりによって、なんでヤスなん?
(そいや何でなんだろ? よく聞くんだけど……。それはともかく、絶対変な名前付けられてるね)
喪女さんの年齢詐称はともかく、俺もそう思うんだぜ。
(詐称って何さ……)
「問題なのは石碑の土台の部分だ。なぜこの石碑が乗っかって見えなくなる部分にこのようなものを残したかは不明だったが、内容が酷すぎた」
「……どんな内容なんです?」
「良いか? これから話すことはここに書かれていた、というだけで何の確証もない。しかしながら聖女の墓だとされている以上、他に漏らすことは許されない」
「それは……勿論?」
「聖女の子孫と呼ばれていた4大家に……聖女の血は一切流れていない」
「………………はい?」
後半へ続くー。
(どこかの国民的漫画のアイキャッチ前の掴みみたいな言い方しないで?)