いざ墓へ
訓練が終わってそれぞれ身だしなみを整えた後、フローラはジュリエッタに呼び止められ、サロンへ来ていた。
「フローラ、ガイアを伴って付いてきて欲しいの」
「分かりました。……そんな顔しなくてもベルも来て良いから」
「有難う御座います、お嬢様」
「……こいつ本当にベルなのか?」
もう一人の駄ベルことベルミエッタも居る。という事は転生者絡みか光魔法絡みか?
(『光魔法……というかこの国の歴史絡みだと思うのよね』)
(そうなんですねぇ)
「ミエも、駄ベルずの片割れが優秀になると不安?」
「駄ベルずってなんだよ!? っつか、優秀なのか? こいつ」
「優秀よ。いえ、元々は優秀だったのよ。ある条件下ですっごくやる気を喪ってただけで。ヘタしたらベルミエッタでは対処できないかも知れないわ」
「マジでか!?」
「まぁ貴女の場合、幻惑して隙を狙うタイプだから、専守防衛型のベルベッタとは相性がそもそも悪いかも知れないわね。何時か相手してもらうと良いわ」
「へぇ……」
あ、ミエの顔がゲーマーっぽくなった。にぃっと口角上げてるは。
(障害があると乗り越えたくなるタイプかな?)
「ミエってもしかしてゲーマー?」
「ゲーマーって言える程ではないからちょっと違うと思うけど、元々色んなゲームはしてた。ただ、乙女ゲーっていう違うジャンルのハードルは中々にハマってな……。後、現実じゃありえない甘さとかも好物だったみたいだ」
「ふーん。て事は乙女ゲー自体は後からハマったタイプか。以前はプレイしてない食わず嫌いだった口かしら?」
「そうなるな。この世界じゃ見目の良いのが揃ってるせいで、目の保養位はどうにでもなるけどな。甘いのは自力でどうにかしないといけないから……。それよりは、分かりやすい目の前の障害だろ」
「つまりちゃんとした侍女ベルが見つけたハードルなのね。グレイス様やベティはどうなの?」
「あれは無理ゲーっていうんだぜ? 幻惑しようにも、出した幻影全てを切りつけられてりゃ意味がない。出す先から斬られるんだよ。最初に出せるだけ出すってハンデを貰っても、一瞬で消された時の絶望感が分かるか? ベティはもっと最悪だ。私も私の出した幻影も、存在する空間諸共潰された」
「わぁ……そりゃ凄い。ちなみにベルに挑戦したいなら、もふもふを用意するとスムーズに運ぶわよ」
「(ピクリ)」
「いや、それはハードル高過ぎだろ。割と国境越える生物の輸送って条件がキツイんだぜ?」
「って事は、やろうとした事があんのね」
「うちは領内に産業が余り無いからな。貿易が主な収入源なんだよ」
「生物を輸送しようと思ったって事はあれなの? 動物園とか? 展示場とか?」
「どうぶっ……!?」
「おー、良く分かったな。この世界には動物園なんてのは無さそうだったから、作っちまえば儲かると思ったんだけどな。生物の持ち込みや持ち出しは、こっちの世界でも厳しかったぜ」
「もふしょっく……」
「っつーか、こいつは本当に変わったのか? 前と変わらないポンコツに見えるけど……」
「動物園ネタが琴線に触れたんでしょ。ほら、ガイア。ごっつんこしてやって」
「がう」
ガイアがベルに頭をこすりつけるように軽くぶつかると、壊れていたベルがよろけた後、しゃっきりに戻って優雅に礼をする。さり気にガイアをもふる高等テクを交えながらだが。
「失礼致しましたお嬢様」
「……コレと私は同列だったのか?」
「コレは凄いマシな状態よ? もっともっともっともっと、酷い酷い、とんでもなく酷い時の話ね」
「うおい!? どれだけ酷いを重ねる気だこらぁ!? 言外にディスってくるんじゃねえ!」
「にしてもこの娘がガイアちゃんなのね。白っていうか銀色ね? あら私としたことが、挨拶がまだだったわ? こんにちは、フローラ」
「こんにちはエリさん。知ってるみたいですが一応。種族は白虎らしいです。ゲームではどうでした?」
「覚えが無いわね……。初代にも続編にも、魔物としての記述はないと思うわ」
「じゃあコラボ先に居たのかなぁ」
「居たぞ」
「ああ……あの男の子向けゲームとのコラボがあったわね……って知ってるの!?」
「私は色んなゲームしてたって言ったじゃん。あいや、その話題が出てた時はまだエリは来てなかったか。まぁあれだよ、コラボ先のゲームやってる男子なんか捕まえてられないから自分でやった口だよ。エリはどうしてたんだよ?」
「掲示板で交換?」
「普通か。まぁセオリーではあるよな。フローラはどうしたんだ?」
「私はりっくんに交換して貰った」
「「りっくん?」」
「家の近くで美容院開いてた幼馴染の男子よ。丁度プレイしてたらしくてね」
「「爆ぜろ」」
「いやいやいや! 甘いことは何一つ無いから!?」
何も言わないよ。うん、何も、言わない。
<私もー>
(『……そうね。帰って来たら労りましょう』)
<賛成> 賛成。
(あれぇ!? 何故仲間はずれに!?)
「まぁリア充は放っといて」
「違うよ?」
「白虎の話だが、コラボ先では西方の墓所を守る守護聖獣だった」
「無視された……。まぁでも、その設定だとガイアと一緒よね」
「がう?」
名前が出て気になったのか、ガイアがなぁに? と言わんばかりに首を傾げて喪女さんを見る。
「ごめんごめん、こっちの話。それにしてもあんたが守ってた墓って、誰のかしらね?」
「これからそれを探りに行くのよ」
「ジュリエッタ様。……と、皆様」
「フローラ嬢、別格貴族達とは言え皇族をその中に交え、一括りに扱うその物言いは少々不敬であるが、まぁ赦そう。俺は寛大だからな」
「有難う御座いますディレク皇子」
(んな事をいちいち言わないとダメな所は器がちっさいと思います)
(『そうなのよねぇ。もう少し私好みに調整しないとねぇ』)
<乙女ちゃん、イケメンのメンだけじゃなく、メンタルのメンも込みなメン食いなんだからぁ>
上手いこと言ってんな。
<あたぼーよー>
「……で、メイリアは当事者の一人だから分かるとして、何故ミリー?」
「ふふふ、フローラぁ」
おお、久々の超絶ネガティブモードのミリーがメイリアにしがみつきながら連れられてきた。別格貴族オーラにでも当てられたか?
「それはミランダ嬢が、今回の件の中心である白虎を保護していたからだよ。やあフローラ嬢。ミランダ嬢とは上級コースの授業で一緒になってね」
(わぁ、何時もながら無駄にキラキラしてるぅ)
「あ、エリオット様。上級コースって学年関係無しなんです?」
「どの授業も、基礎を修めた後なら学年は関係なしだよ。特に魔法を専攻する者は数が少ないからね」
喪女さんがエリオットに頷きながら、視線をずらしていくとシンシアがひっそりと佇んでいる。
(正しき侍女の姿よね。……でも何か違和感。何だろ? 何時もと何か違う?)
ミリーがネガティブモードになってる理由の一つはシンシアだろうな。
(ああ、突っ掛かって来た当初、なし崩し的に巻き込んだ時が原因かな? エリオットの醸す色気にうつつを抜かしかけて睨まれてたもんね。まだ苦手なのかな? 今のとこ殺気は出てないみたいだけど……。ああ、違和感の正体はそれか。メイリアにもミリーにも、はてはベルやミエ、エリさんにも殺気を放ってないんだ)
エリとは話をつけてるかも知れないな。
(エリさんにエリオットの事、相談するの忘れてたわぁ)
「ほほほ、保護したと言っても、そもそもからして怪我をさせたのはうちのお父様の部隊ですし……」
「ガイアはもう気にしてないよ。ね?」
「がぅん」
賢い猫だ。
(猫っちゃ猫だけど、白虎だからね)
「皆揃ったかしら? では行きましょうか。ガイア? 貴女の守ってた場所に連れて行ってもらえるかしら? 一度見ておきたいの。もしかしたら、今後この様な事が起こさないために、立ち入りを禁止する区画に指定できるかも知れないわ」
ジュリエッタが同行するメンバーが揃ったことを確認してからガイアに問うと、寝そべっていたガイアは身体を起こし、集められた面子をひとしきり見つめた後、
「がうっ」
と短く了承の意を表し、立ち上がるのだった。
「有難う、ガイア」
(これって、もしかしなくても連れて行っていいかどうかを判断した? ……んだろうね)
喪女さんに許可が下りたのは何でなんだぜ?
(もしかしなくても聖獣なら私を弾かないのはおかしいとかそういう意味か?)
ええー? そんな事ぉ、例え思ってても言わないよぅ?
(思ってんのか。煮え湯飲ませるか)
待って!? おかしくね!? 俺、今回、イノセントよ!?
(存在がギルティ)
酷ぇw