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新もふもふ登場

 喪女さんは会合の後、覚えたばかりの転写魔法を使って、大量に似顔絵を作成した。見たものを転写できるものの、その記憶を昨叙することによって再現されるため、2度3度と繰り返せない。このため、最初の内は「これ徹夜作業かなぁ」とぼやいていたが「並べてみたらどうなんのよ?」とやってみた所、なんと上手く行ってしまった。そこで割り当てられていた作業分を100倍近い速さで終わらせることに成功したのだった。

(まぁできるっつっても12×12が限界だったからねぇ)

 慣れたら増えるんだろうか?

(分かんない)

 ま、そんな事より、今日は新たなもふもふの日だ。

(もふもふの日って……。まぁベルもそのつもりだから、あえて否定しないけど)

「もっふっふー、もっふっふー、あなったはぁー、だぁれー♪」

(変な替え歌まで歌っちゃってまぁ……)

 大中小いる森の住人かな? 足が多すぎる動物バスかな?

(猫っつってるから、後半のならあるかも知れんけどね)

 やがて愉快な一行はミリーことミランダの住む、エッシャー男爵家へと到着するのだった。

(愉快な一行って何さ? ベルは歌ってるからまだしも、私は関係ないじゃん?)

 存在そのもの?

(誰が愉快な存在か!?)

「やはーふろーらー」

「やっはー、ベティ」

「え? え? 私もその挨拶?」

「「こんにちはメイリア」」

「あれ? コレで普通だよね? 何で疎外感を感じるんだろう……」

「「気にしちゃ負け」」

「うう……」

 男爵家にしては大きめなエッシャー邸には、守衛まで居るらしい。守衛の方もフローラ達の事は聞き及んでいたのか、特徴を照会し終えるとすぐ取り次いでくれたのだった。なお、ベルが侍女らしくなかった事には首を傾げていたようだが、フローラがベルに『侍女とみなされなければ入れてもらえない』と囁いた事を境に、急に侍女っぽく振る舞うようになったのだった。

「お待ちしておりましたわ、皆様!」

「「「お招き有難う御座います。ミランダ様」」」

「……ベティ? フローラ? 何か悪いものでも食べましたの?」

「「どういう意味?」」

「ぷっ……」

「「メイリア?」」

「ご、ごめんごめん。何時もとの落差で、思わず問いかけたミリーと二人の温度差が……」

 そんな感じできゃっきゃウフフしてる女子ーずの所に、ご当主と思しき人物が顔を出した。

「ああ、ミリーがそんなに嬉しそうにしてるのは久しぶりに見たなぁ」

「おおお、お父様!?」

「やぁ、はじめましてお嬢さん方。ミリーの父のキース・エッシャーと言います」

「「「はじめまして、エッシャー男爵」」」

「うちで口うるさいのはミリー位だから、固くならず気安く過ごしてね」

「ちょぉー!? お父様!? 口うるさいって思ってたんですの!?」

 面白い親父さんだな。

(そうね。でも親父さんって言わないでくれる? ポロッと言っちゃったら嫌だから)

「おお、怖い。何時もならここで退散する所だけど、今日はあの子に会いに来たんだよね? だったら僕も同席しないとね」

 同伴が必要な動物とは?

(……少し嫌な予感がしてきた)

「もふもふっ!?」

「ベル、ハウス」

「は……い? え? ちょ、ハウスって何!?」

「ベル? あんたは何?」

「……侍女でした」

「よーしよしよし」

「ちょ! 触んな! もふもふ以外のお触りは拒否!」

「面白い子だねぇ」

「済みません。今日の訪問も、9割こいつが原因でして……」

「ええ? そうなのかい?」

「発端はこいつでしたが、ミリーとお泊り会したいってのが主目的です」

「……ふふ、面白いなぁ君。ミランダ、良い友達ができたねぇ」

「は、はい! 自慢のし、親友達ですわ!」

「ふふ、そうかい」

「ミリーはダメダメ。まだ親友って言うのに照れがある」

「ベティ!?」

「そうね。この親友達のためなら命も惜しくない位言えないと」

「フローラぁ!?」

「はいはい、二人共からかわないの。大体、自分のために命なんて投げ打たれた日には、二人共発狂するでしょう?」

「「そうね」」

「私、からかわれてたんですの!?」

「君達の仲睦まじい光景を見てるのも悪くないけど、あの子の事も紹介しないとね」

「もっ……」

「ハウス!」

「それヤメロよ!?」

「だったらじっとしとけ」

「ぐっ……」

「はっはっは。じゃあうちで預かってるあの子を紹介しようかな?」


 ………
 ……
 …


「(あんぐり)」

「(ポカーン)」

「(ビクビク)」

「も………………もふ?」

 4人は『猫』の前で困惑していた。

「ぐるぅっっ!!」

「わっ……」

「ひゃあ!?」

「ひっ!?」

「も゛っ!?」

『猫』の発した唸り声で、喪女さんを除いて3人は尻餅をつく。

「猫……? いや、ネコ科には違いないだろうけど、これどうみてもトラじゃん」

 そう、今までさんざん『猫』呼ばわりされてた『あの子』は白い大きな『虎』であった。いわゆる猛獣である。白い虎は部屋の半分位はあろうかという巨大な折の中で、寝そべりながら不機嫌そうにフローラ達を睨んでいた。

「あっはっは。いやぁ、魔法兵達の訓練中、この子を巻き添えにしちゃったらしくてね。普通の動物なら、魔力の高まりで逃げるはずなんだけど、この子はどうしてか逃げて無かったらしいんだよ」

「それでお父様が仕方なく、怪我したこの子をうちに連れて帰ってきたんですわ」

「帰って来ちゃったんですわって言うけど……」

「……入れ替わりにお母様は出て行かれましたわ」

「あっはっは。困っちゃうよねぇ」

「困っちゃう方なのはお父様ですわ! 考えなしにこの様な大きな動物を連れ帰ってきて!」

((((そんな問題じゃない)))) 

 フローラ達、呼ばれた4人の心が一つになった!

「……まぁ良いわ、経緯はともかく、とりあえずこの子治すわね」

「え? まだ怪我治ってませんでしたの!?」

「一応、治ってはいるけど、変な形でくっついちゃってるみたい。じゃ、ちょっくら治してくる」

 そう言って無造作に檻の中に入ろうとするフローラ。人が入らないように作られた動物園の檻の様な物では無く、虎が逃げない様に作られているだけなので、人が入る分にはスカスカの大きさだった。

「治してくるって……えええ!? ダメですわ! 危ないですわよ!?」

「そうだよ!? 娘の親友に怪我までさせたとなったら僕は妻に殺されてしまうよ!?」

 そっちの心配かい。

(あれぇ? ミリーのお父様の割にポンコツか? この人)
「大丈夫です。光魔法で身体強化できますから」

「そんな程度の魔法の強化で……」

 と、男爵が引き止める間も無くフローラは折の中に入っていく。せめて白い虎の神経をこれ以上逆なですることの無いよう、息を潜めるしかできない5人。しかしフローラは無遠慮に白い虎へと距離を詰めていく。そして……。

「ガオォオンッッ!!」

 ビリビリビリッッ!

 虎のこれ以上近づけばただじゃ置かねえとばかりの全力の咆哮に一同が固まり、

「はいはい、うっさいうっさい。えっと、ここかな?」

 威嚇を意にも介さず、虎の前足に触れると、

「えいっ」

 ポキンッ ピカァッッ!

「ギャオオオンッッ!?」

「「「「「なあああああ!?」」」」

 あろうことか白い虎の前足をへし折って、その次の瞬間には光の治癒魔法を使ったのだった。

(変な角度でひっついてるから剥がしただけよ。へし折ったって言う程の力は入ってないわ)

 いや、それさぁ? 仮に自分がやられるとしろよ? 変にくっついてることを知ってても、剥がすために折られたら絶叫できると思わねえ?

(ああ、そう言われてみると否定はできんね)

 痛み故か、飛び退いた白い虎は、できる限りフローラから距離を取りつつ、今まで以上に威嚇するのだった。

「ぴーぴー喚かないの。その足、もう痛くないでしょ?」

 フローラが前足に意識を向けるよう触ろうとすると、白い虎は嫌がって足を上げて逃げる。するとそこで白い虎の動きがピタリと止まった。そして恐らく変な角度でくっついていた方の足と思われる方で、2度3度、地面を踏み鳴らす動作をしてみせる。そして痛みが無くなった上に自由に動くことに気付いたのか、2度3度首を傾げるのだった。
 喪女さんがもう一度近づこうとすると、反射的に逃げようとはするが、今度は嫌がっていないようだ。

「んー、もう変なくっつき方してる骨はないね。内臓も……うん、大丈夫。って言うかあんた臭いな。洗うか? エッシャー男爵、この子外に連れ出しても良い? ……男爵?」

「……何やってんの君はぁ!?」

「「「フローラぁぁあ!!」」」

「も、もふもふ?」

「あ、なんかスミマセン。つーかベル、あんたはもふもふに取り憑かれてないで、まず私の心配しろよ」

 何が絡んでも喪女さんは喪女さんだった。

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