乙女ゲー転生、私が主役！？　……いやそれ、何かの間違いです！

「ほんっとーっにっ！　信じられませんわ！」

アレからずっとミリーが怒っている。激おこプンプン丸である。

（お前それ気に入ったのか？）
「いや、そもそも『猫』って説明だったじゃん」

「その目でどういう『猫』か、確認しておいででしたわよね！？　あの子を見て、なんて言いました！？」

「虎じゃん？」

「その事を分かった上で、何なさってるんですのぉぉおっっ！？」

「治療？」

「その前！」

「……？　変なふうにくっついてる骨を引き剥がした？」

「それもですが！　その前！」

「その前？」

「普通に猛獣の檻の中に入っていかれましたわよね！？」

「あー？　だって問題無いし？」

「大有りですわ！」

「えー？　そんなこと無いよねー？」

「「ミリーが正しい」」「お前おかしい」

秒でギルティ。考慮する隙もない。

「ぅあっれぇ？？　っつか、ベルは後で説教な」

「ほほぉ？　良いの？　んな事言って」

「うん？　今日はえらく強気だなおい。何かあんのか？」

「お祖父様にチクる」

「ちょっ！？　おまっっ！」

「ああいや、普通に報告すれば良いんだよねー？　虎の入ってる檻に、無防備に入っていったーって？」

「ぬっぐ……」

「がう？」

「ああ、あんたは良いのよ」

「……！？　も、もふ……」

「あんなこと言ってるもふもふ狂には触らせたりしないから」

「えっ！？　ちょっ……」

「で、エッシャー男爵。お庭借りても良いかしら？」

「あ、ああ……良い、けど」

「んじゃあんた……名前無いのは不便よね？　白、銀、縞……シロは？」

「ぐるぅ」

「嫌か。んじゃシルバー……は第二の人生歩んでるあの人がちらつくから無し、ってことでシロガネは？」

「……ぐるぅ」

「嫌じゃないけど他の候補はって所か。ゼブラ……」

「ぐるぅっっ！！」

「……は草食獣だもんね。んー……。ねえ男爵、この子どういう獣なの？」

「え？　……ああ、ビャッコと呼ばれる幻獣の一種だね」

「え？　四聖獣がそのまま居るの？　続編情報かな？　……しまった。エリさんとか連れてくればよかったか？」

普通にりっくん担当のコラボ先とかに居たんじゃね？

（あ、それも有り得るか）
「白虎ってことは西とか土とかだっけ？　じゃあウェストとかウェスタン、西の牙でサイガ、土精からノーム、白虎からバイフー。後はアース、ガイア……」

「ぐるぅぅぐるぅぅ、ぐるぅ、ぐるぅ、ぐるぅ。ぐるぅ、ぐっ！」

「ん？　ガイアが良いの？」

「ぐっぐるっ」

「んじゃあんたはガイアだ」

アースだったら何か虫とか色々落とせそうだったのにな。

（ヤメロよ。いや、生前はとてもお世話になってたけどさぁ）
「にしても地球ねぇ。ガイアは響きからすると男性名に聞こえるけど女性だもんね。お前メスなの？」

「ぐるぅ？　がぅっっ！？」

「ああ、ごめんごめん。ついてるか確認をね」

「げ、下品ですわ……」

「いや、大事でしょうよ？」

「そぅ、です、けれ、どぉ……っ！」

言いようのない葛藤がミリーを襲う。
ま、それはさておき、ガイアが通れる場所を選びながら庭に出てきた。最初の内は猛獣を檻の外に出すことを渋っていたエッシャー男爵であったが、ガイアが喪女さんにビックリする位に従うものだから、ビックリしている内に庭まで案内させられた感じである。

「よっし、ここが良いかな？　ミリーの趣味でお花いっぱいの庭だったらどうしようと思ってたけど、土がむき出しだからここが良いわね」

「私の趣味ってどういうことですの！？」

「え？　お花好きでしょ？」

「え！？　……えぇ、まぁ」

「イメージぴったりよね」

「そそそ、そうですかしらっ！？」

他の二人もうなずきで追随するのを見て、ミリーが何故か茹だっている。

「だから逆にこういう何もない庭だと思ってなかったのよ」

「それは……訓練に使ったり……するから、だよ？」

まだ立ち直ってないのか、エッシャー男爵が混乱の中、説明の言葉を絞りだす。

（割と気が小さいんだな）
「そうなんですね。調度良かったです。んでは私の土魔法でプールいきまーす」

でたな、今回のビックリドッキリ○カ。

（否定し難いなぁ！）

土がむき出しの地面から、小さな土人形達が起き上がり、小さな窪地を２段階の深さで作り出す。一段高い場所を囲むようにして、土人形達がブロックとなって枠を形作っていく。下段は土が剥き出しになった窪みのままだ。

「「「「（あんぐり）」」」」「ふんっ」

魔力が元々少ないベルは別として、目の前で繰り広げられるコミカルで非常識な光景に、そこそこ以上に魔法を使える組は絶句する。

（コミカルゆーなし）

最後に上段の窪地の床面に、土人形達のブロックが配置されると、大きな水槽の完成である。

「おっし、こんなもんかな？　ガイア、あの中に入ってくれる？」

「ぐるぅぅ？」

「何よ？　怖いの？　一緒に行けば入れる？」

「ぐるっ！」

「しょうがない。濡れるけどそれは後で考えるか。あいや、水の膜を張っておけばいいかしら？」

そして、今回２回めのビックリドッ……

（それはもう良いから）

なんて、ひどい、もじょ、なんだ。

（なんか家庭用ゲーム機の金字塔打ち立てた初代コンシューマ機によくあったADVゲームみたいになってんぞ）
「んじゃ水を張るからねぇ」

「ぐるぅ？　がぅっっ！？　……ぐるぅ」

水槽に水が入り始めると、ガイアは驚いて飛び出そうとするが、フローラが普通にしてるのを見て落ち着いたようだ。そして一旦ただの水だと認識すると、リラックスしたように伏せの状態で、体を水に浸し始めた。

「まぁ白虎だろうがなんだろうが、虎には変わりないもんね。水好きでしょ？」

「ぐるっ」

「んじゃ、あんたを洗おうかな。じっとしててねぇ」

「ぐるぅぅう……」

フローラがガイアの体をさすり洗うようにすると、気持ちが良いのか全身の力を抜いてなすがままになる、ただのでかい色白なトラ猫であった。顔を水でじゃぶじゃぶやられても大人しいもんである。ちなみに水槽の内側に配置された土人形達でできたブロックは水を弾くらしく、土や泥が見ずに溶け込む様子はない。

「うわぁ、ばっちぃ。あんたの汚れだけですっごい水が濁っちゃってるよ……」

「ぐるぅぅん……」

フローラに心無い事を言われ、しょげかえる白トラ猫だった。鬼かお前は。

「ああ、ごめんごめん、あんたも女の子だもんね。すぐ綺麗にしてあげるから機嫌直して」

「……ぐるっ」

「よっし、じゃあ一旦水を抜くか」

そう言ってフローラが水槽の一部を土人形に戻すと、一段高い所にあった水槽から汚れた水が、もうひとつの低い方の窪みへと流れこんでいった。こちらはコーティングもしてないただの土なので、水がどんどん染み込んでいる。

「はい、あんたもちょっと立っててくれる？」

「ぐるっ」

立ち上がったガイアを水魔法ですすいでいく喪女さん。水を貯めるときは、貯める端から水に変化したため目立たなかったが、直接ガイアをすすぐ時は、水人形がくっきり動いて飛びついているのが分かる。コミカルともシュールともつかない光景であった。
すすぎも終わってプール内の水も流し終えた後、もう一度水を張ってガイアを洗う。

「おーっし、綺麗になったぞ。うん、美人さんだ」

「がうっ！」

「あっはっは！　って痛てて、あんたの舌はちょっと痛いって！」

「ぐるうん」

「スリスリくらいにしとこうか。ほれ、ごっつんこ」

「ぐるぅっ」

「うひひ、いい子だ！　どうする？　もうちょっと水遊びしてる？」

「ぐる？」

「私は良いよぉ。ちょっと休憩」

「ぐるるるるぅ」

「はいはい、んじゃ水切りしようか。良い？　良しって言うまでブルブルしちゃダメよ？」

「ぐるっ」

「水の膜を張って、と。良し！　ブルブル！」

ブルブルブルブルブルブル……サアァァァァァア……

おおう……、ちょっとした小雨だな。

（畑の水やりにとかは良いかもだけど、そんなことに協力してもらうのもねぇ？）

「じゃー、風魔法でさーっと乾かそうかー」

「ぐるうぅぅぅぅん」

「気持ちよさそうねー。温風にしてあげたいけど、調整まずったら怖いからただの風で御免ねー」

こうして喪女さんはガイアを甲斐甲斐しく世話したのだった。そしてそこに現れたのは……

「「「「（あんぐり）」」」」「もっ、もっ……」

「わぁあ！　本当にあんた美人だわね！」

「ぐるうんっ」

超ドヤ顔してるのを除けばとても美しい、さらさらな毛並みを銀に輝かせた、白虎と言うよりは銀虎というのがふさわしそうな立派な虎なのであった。