伝説の……
「はぁ、薄々感じてたけどお母様方も大概だったのね」
「だからこそのフローラ様では無くってぇん?」
「……まぁ、そういうことに、しておきましょう」
言えないしな。別人ですとは。
(一応部外秘だしね。……っつか、ぽろっと漏らしやがったベルには何かお仕置きが必要ではないかしら?)
え? まだ何も仕置きされてないの?
(言ってないもの。……あ、良いこと思いついた)
「ねえサブ、うちの侍女が居るの知ってるかな?」
「ああ、聞いた覚えがあるわねぇん。どぉしたのぉ?」
「その子ちょっと素行が悪くてね? 一度サブの訓練に参加させてあげて欲しいなって思うのだけど。容赦無しの方で」
「んんんっふぅ☆ 良いわよぉ? お・仕・置・き☆ なのねぇんっ♪」
「あー……キモいけど、こういう時は頼もしく見えるから不思議ー」
「ああんっ♪ 褒め上手ぅ☆」
何処も褒めてねえけどな。
(全くよね)
とまぁ雑談もそこそこに、フローラ……って言うかサブ用に割り当てられた区画に到着する一行。どうやら騎士団の連中が視界に入れなくてもいい場所って扱いの様だ。
(どんだけ嫌われてんだこいつ)
言葉にしてやれば喜んでくれるぞ?
(嫌だよ)
「んーっふふふ☆ ではフローラ様ぁん? まずは軽くこの場を20周しましょうか」
「……はい?」
「私はゆうっくりぃ、後ろから追いますけどぉん、私に追いつかれ・た・ら、熱い抱擁をプレゼント☆しちゃうわョぉん♪」
「………………はぁ!?」
「んじゃ、スタートぉん」
「ちょま、待てこのや……ぎゃあ! 寄ってくんなぁ!?」
こうして問答無用の内に、地獄の耐久マラソンが始まるのだった。
………
……
…
「ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ………………」
「うふぅん☆ 流石ねフローラ様。途中何回か捕まえたけど、その度にあの手この手で抜け出すんですもの。抱き締められなくって、ざぁんねんっ☆」
「ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ………………(ジト目)」
「あらぁん? 大丈夫よぉん☆ 私、女の人には反応しないからぁん」
「な、何か凄いですね」
「俺達でも一度は捕まって酷い目を見るのに……」
「流石フローラ様だ……」
酷い目を見るって本音がだだ漏れですぜ、衛兵の方ぁ。
(ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ………………)
……言いたい事はあるけど、しんどくてそれ所じゃ無いって感じか。
(ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ………………)
ここ1周は1km位あんのか? すげー根性だよなー。20kmを化物に追いかけられながらのデス・レースって。
(ぜぇぜぇぜぇ……そう思うなら……代わってくれても……良いのよ?)
物理的にも無理でしょうよ。……相当追い詰められてんねぇ。
(大丈夫だろう、と心が納得したがってても、あいつは何か信用できないのよね……)
それをベルやらせる分には良いの?
(あいつは痛い目を見ても良いと思う)
お嫁に行けなくなるような事になっちゃったとしても?
(変態野郎が私の目の前でそれをやるなら、未来じゃなく命そのものを刈り取るわ)
あ、なんだ。一緒に来るつもりだったのか。
(もふもふを盾にとれば来るだろうからね)
鬼だな。そして本気だな。
(あたぼーよ)
最近聞かん言葉だな。当たり前だべらぼうめ、が語源だっけ?
(知らない)
本当、適当な喪女さん、略してテキト喪さんなんだから。
(メル友見たく言わないで? またなんか新しい名前が増えたし……幾つあんのよ、私のアダ名)
アダ名が100
(言わせねえよ!? 割と面倒くさいんだからそういうネタ禁止)
じゃあ、星の数だけってことにしよう。
(そんなねえだろ!?)
目指せ! アダ名の星!
(雑になってきた……)
「さぁってん☆ そろそろ良いかしらぁ? フローラ様ぁん♪」
「……ああ、絶妙のタイミングで来やがったなコンチクショー」
「……? なぁんの話ぃ?」
「こっちの事。んで? ここからは何するの?」
「組手でも打ち合い稽古でも、好きなのを選んで貰って構わないわよぉ?」
「ああ、そうなの? じゃあ打ち合いで」
「……意外ね? 徒手空拳のが得意かと思ってたわぁん?」
「得意じゃないからやんのよ。徒手空拳を習おうと思えばお母様にも教えて頂けるしね」
「あぁ、そう言えばそぉねぇん。じゃ、0001号……じゃなかったわぁん。アザロアちゃん。フローラ様のお相手をしてあげてぇん?」
「はっ!」
「あ、やっぱりサブは相手しないんだ。私相手だとサブが強すぎるのね?」
「やだぁ、私はそこまでは強くないわよぉ。だってぇ……全力で楽しんじゃうんだものぉ!」
「あ、はい。安定のド変態でした」
「あふぅん☆」
「……ま、まぁ、おふざけ……じゃないかもですが、それはともかく、サブ、リナ、さんは打たれ強いため、並の兵士なら一撃どころか10発喰らってもびくともしませんので。良い練習相手になっていますよ」
サブとリナの間の溜めに、言いようのない葛藤を感じるな。
(つっこまないの。センシティブな内容なんだから)
「サブリナは避けようともしないのに?」
「……避けなくても、打ち込む側からしてみると身の危険を感じるオーラを常に発してます。それに何らかの防御魔法とかで攻撃の効かない相手に対処せざるを得ない場合の練習になります」
「へー。ちゃんと考えて訓練してるのね」
「根性論だけでは誰もついてきませんから。……サブ、リナさんは除きますが」
「サブって呼んで良いわよ」
「あいやでも……」
「ああんっ! フローラ様ったらひどぉい!」
「やかましい! この半端モンが!」
「そういうのならぁ……ト・ド・メ☆ お願いしたいわぁ♪」
「いつかね。ただし、あんたが無理やり相手をどうこうしてたって耳に入ってきたら、一生機会が訪れないと思いなさいね」
「ぬ゛わ゛んだってぇ!?」
ぎゃあ! ゴリマッチョが逆上して吠えたぁ!?
(うおっ!? 怖ぇ!?)
「……そこで逆上するって事は身に覚え、あんじゃねえの?」
「そそっそっそそそそっそ」
「キョドり過ぎだろ。アザロアさん、正直な話どうよ?」
「ええっと、不真面目な奴等に関しては、先程少し触れられてましたけど……」
「おー!? まいっ、アザロアちゃんっ!」
「おめえのじゃねえだろ。っつか、そーかよ。すでに被害があったのか」
「ぉぉぅ、おじ、おじ、お慈悲をぉ」
「まぁやる気のないゴミ相手なら良し」
「……へ? マジで? やったわぁん! 公認頂きましたっ!」
「アザロアさん達は、何かアレば逐一報告ね」
「「「はっ!」」」
「え? あれ? 何時の間にか私への尊敬を全てフローラ様が持って行っちゃってるぅ!?」
「じゃ、打ち合いの相手よろしくね」
「こちらこそ!」
「あぁん! 放置プレイもまた、お・つ・ねぇ☆ ぶごっ!」
「だぁっとれ!」
くねくねする化物に、フローラがたまらず木剣を投げつける。……まだくねくねしてる。
(静かになったのならとりあえずそれで良いわ)
「じゃあアザロアさん、改めてよろしく」
………
……
…
結論。喪女さんの剣術はへなちょこでした。
(ぐっ……こんなはずでは)
どんなはずだよ? まさか肉体系の格ゲーよろしく、剣術系の格ゲーを模倣したんじゃあるまいな?
(なぜそれをっ!?)
まじかよ……この喪女ったらおちゃめさん。体は動きがトレースできれば問題ないかも知れんが、獲物を使った動きは持ってみて初めて分かるもんだからな。っつーか、フローレンシアの身体能力を無理やり使って、初めて各ゲーの動きをトレースで来てるんだろ? 自分が強くなったとか思ってると痛い目見るぞ?
(んまぁ……え? あんた本当にノーコン?)
とんでもない、あたしゃノーコンだよ。
(伝説のやり取りよね)
だな。
(惜しむらくは直前のやり取りをすっ飛ばしやがった事か)
そう言うな。流れってもんがあるんだよ。
「フローラ様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと現実の厳しさに凹んでただけ。問題無いわ」
「は、はぁ……」
「よっし、課題は分かった。基本的な型とかある?」
「え、ええ、ありますが……」
「じゃ、それを教えて頂戴。今日はそれを100回、行けそうならその倍は繰り返すわ」
「わかりました」
「あぁん……それじゃ私、暇になっちゃうわぁ」
「なら他の二人と稽古しなさいよ」
「それもそうねぇん? じゃ、二人まとめてかかってきなさぁい?」
「「応!!」」
「ではフローラ様、まずはこう構えて……」
こうして喪女さんは延々と基本の型を繰り返し練習するのだった。ちなみに100回って意気込んでたけど、基本の型の動作がそもそも30以上あったので、結局30回程で音を上げた。
つか、喪女さんは真面目な子だったんだぜ?
(コツコツやるのは嫌いじゃないのよ)
リアルでも?
(割とね)
人間関係は?
(そろそろ何の意図か分かってきたのでやめて頂いてよろしいでしょうか)
ダメダメだったのね。
(結局言い当てるんじゃねえかこんちくしょうが!)