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ですわーず

 喪女さんが変態とその仲間達とよろしくやってた一方、ただ一人、魔法兵科をとったミリーことミランダは、一人寂しく授業を受けることになっていた。

(さっ……寂しくなんかありませんわ! ほ、ホントですのよ!)

 ……心の中で目一杯強がっていた。和むわぁ。
 ちなみに男爵クラスでは他に7人居て、内3人が遠巻きにミランダを嗤うそぶりを見せている。過去にミランダを持ち上げて、神輿兼弾除けにしようとしていたご令嬢達である。

(くっ……あの方達、それ程魔法が得意な訳では無かったはず。つまり私を嗤いに来たのですわね!? く、悔しくなんか……)

「あら? ミランダさんではありませんの?」

「はい? あっ! ……(キョロキョロ)アメリア様」

 一人凹んでた所に現れた別格貴族のアメリアに対し思わず大きな声を出し、咄嗟に口を塞いで周りを見回すミリー。ほっこり。残念貴族の称号を与えよう。勿論、この光景を見たミランダを嗤ってた令嬢共は絶句である。

「はい、アメリアですわよ。ミランダさんは……ああ、そうでしたわね。エッシャー家の方でしたわね」

「ははは、はい。えっと……? アメリア様も魔法兵科を専攻されてましたの?」

「ええ、そうですわ。魔法兵科を専攻される方は少ないので見知った顔が少ないのですわ。これも何かの縁。是非仲良くして下さいませね?」

「こっここ、こちらこそ! ……(キョロキョロ)よろしくお願い致します」

「(クスクス)はい」

 またしても大きな声を出して縮こまるミリー。喪女さんがこの娘で遊ぶ気持ちも分かろうと言うものよ。そして別格貴族からの直々の申し出を受けるミランダを見ていた令嬢達は悔しげな表情をしていたが、アメリアの視線に気づいて慌てて顔を伏せた。流石アメリア様、分かっててこの状況を作り出したらしい。
 ただ、端から見ればアメリアが妹の様な感じにしか見えないのだが、家格のこともあってか関係が逆転していて年上の妹みたいになっている。正直何を言ってるか分からない。……喪女さんが居ないと締まらない。的確なツッコミプリーズ。
 この出会いから、最初のうちこそ伯爵格ながら別格貴族たるアメリアの存在におどおどしていたミランダだったが、その緊張も少しずつ解れて来ていた。そもそも大泣きしてる所も見られてる上に、いい子いい子された過去もある。すでに最低ラインは見せているのでなんの遠慮が必要だろうか! ……喪女さんが居ないと、大泣きもしてなければ、いい子いい子もしてないって突っ込んでくれないわぁ。でも泣き姿も涙を拭って貰ってもいるもんね! ……虚しい。

「ところで私は土系統の魔法が得意なんですが、ミランダさんは何の系統が得意なんですの?」

「そうですわね……エッシャー家はすべからく使えるようにと、幼い頃より厳しく教育されておりますので、特にどれが得意と言う程の差異はございませんわ。強いてあげるなら感覚魔法でしょうか」

「感覚魔法? 余り馴染みのない魔法ですわね……」

「エッシャー家は男爵家では魔力の高い部類ですが、……ええ一人を除いて最も魔力は高いと思います。一人を除いては」

 暗い表情でずどーむ、と沈むミランダに慌ててアメリアが声を掛ける。

「ミランダさん? お気を確かに。もしかしなくてもベティさんのことですわよね? あの方の魔力はジュリエッタ様並みですので比較対象にしてはいけませんことよ?」

「4大家最高魔力保持者と同等!? ……(キョロキョロ)ですの?」

「(クスクス)ええ、そうですの。しかもジュリエッタ様は光魔法に特化されておいでですので、攻撃力に関しては言わずもがな。つまりこの国一番の魔法攻撃力を持つのはベティさんですわね。ちなみにベティさんは特に風系統の魔法を得意としてらっしゃるとのことですわ。グレイス様情報ですのよ」

「な、なるほど……」

 最強魔法使いでしたか。グレイス情報ってのはアレだな、戦闘訓練に付き合ってるとか言ってた。何時かベティを踏み越えて最強の武人に俺はなる! とか言い出すんだろうか。お呼び出しを申し上げます。向こう四十数年、四捨五入すれば50年間相手の居なかった喪女さんは居られませんか? もし居られましたらツッコミだけでいいので参加するよう、貴女の飼い主から伝言を言付かっております。

「まぁご本人方の談によると、光魔法は防御に優れており並の魔法では貫通できないだろうとのこと。更にジュリエッタ様は身体能力強化にも秀でておいでなので、仮に戦うことになったらジュリエッタ様の勝利になるだろうとのことでしたわ。ジュリエッタ様が最終的に勝利するまでのシミュレーションの内容が全く同じだったので驚いた記憶がございますの」

「……頭脳も明晰、ですのね。本当……妬ましいですわベティ様」

 そう言うミランダは悔しそうにこそしてるものの、少し寂しそうな苦笑いを浮かべるのみで暗い感情はまるで見受けられない。

「私なら暗い感情の一つや二つ、湧き上がりそうな状況ですけど、ミランダ様方は仲がよろしいんですのね」

「はい。掛け替えのない友達……私の方は親友だと思っていますわ」

「うふふ、私の方は、だなんて。きっとベティさんも同じように考えてらっしゃいますわよ」

「ええ……ええ、そうですわね」

 喪女さん喪女さん、キャッキャウフフですね。百合百合しいですわね。求めるツッコミが居ないと無駄だと知りつつ振ってみた。……泣いていいですか?

「話がそれてしまいましたわね。それで感覚魔法というのはどういうものですの?」

「元々は武勲で成り上がった者の多い男爵家にあって、戦場で生存率を上げるための魔法ですわ。相手の感覚を違和感のないレベルで『ずらす』魔法ですの」

「想像はつきますが、お聞きしますわ。『ずらす』とどうなりますの?」

「1対1の戦いにおける運用の場合、相手は正確な攻撃を狙えなくしたりできますわ。これが熟練の者ともなると、相手は攻撃を当てることさえ困難になりますでしょうね」

「……それ、サラリと仰ってますけど、とんでもなく凄い効果ですわよね?」

「ええ。ですから男爵家にあって魔法の寵児と言われる程の名声を手に入れられたのですわ。正確に狙えないということは、戦場において致命的ですから。それに攻撃が当てられない程までに魔法を強める必要はありませんのよ。それよりは効果の及ぶ範囲を広げて敵軍を惑わす方が、戦術魔法としては効率的ですから」

「弓部隊に広範囲に阻害が掛けられようものなら……恐ろしいですわね」

「実の所、エッシャー家は分家筋になりますの。本家は侯爵家にまで上り詰めております。表向きは政略結婚にて家格を上げていった、と思われてますが……。当時はやっかみも酷かったと思われますので、その偽装工作なのではないかと、そう愚考しておりますわ」

「そうなんですのね。それで本家の方々とは今も連絡を取られてますの?」

「いいえ、連絡は取り合ってはいないと思いますわ。この魔法の有用さ故に、本家の情報はできる限り隠匿すべしときつく厳命されております」

「え? では私に教えてはいけない事だったのでは?」

「我々を導く立場にある別格貴族の方々に秘匿しなければならない程の情報ではありませんのよ? ……と言っておながらなんですが、私もまだ本家については何一つ聞かされておりませんの。ただ、本家の方はゴルドマン家とも懇意になさっておいでだと聞かされてますし、例え私が本家の家名が某である、と聞かされていたとしても家名を明かさない限りは本家に迷惑がかかることもないでしょう。アメリア様もその時が来れば、ご両親より聞かされるかと思いますわ」

「そうなのですね」

「そういえば戦時中は『包囲殲滅戦の悪魔』等と呼ばれていたそうですわ」

 砂漠のなんとかみたいなものですかね? あとはなんとかの死神とか。……反応がない。ただの留守のようだ。もう遠吠えして良いかしら? 喪女ーん!

「何とも穏やかではない、物騒なアダ名ですわねぇ」

「『遭遇必滅の鬼神』によって霞みましたけれどね。ただ、本家のご当主様は大変感謝しておいでだったそうですわ。『裏方たるもの、霞んでなんぼ』とのたまい呵呵大笑されたとか」

 遭遇必滅て……。ああでもこの場に居ないあの人に勝手に教えるわけにはいかない。悩むわぁ。

「剛毅な方ですのね?」

「そればかりか、当時男爵になったばかりだったマクシマス卿を子爵へと推したのも、本家のご当主様だったとか」

「……それ、確か一気に子爵になった騎士爵として有名になったお話ですわよね? そんな裏があったとは何と言って良いやら」

「『鬼が目立てば黒子は霞む』と、結局は自分の為であると公言して憚らなかったそうですわ」

「発言の端々にユーモア溢れる人となりに、怖いのを通り越してなんだか会ってみたくなるお方ですわね」

「ええ本当に。残念ながら、ご本人様は隠居されてしまったそうですわ。所で……(アメリア様)」

「(なんでしょうか?)」

「(戦争、起きますのよね?)」

「(はっきりとはわかりませんが、おそらく……)」

「(戦争を歓迎するわけではありませんが、その時は是非、隠居なさった当時の本家のご当主様にお目通りさせて頂きましょう?)」

「(まぁ! うふふ、そうですわね。約束ですわよ?)」

「(ええ、約束ですわ)」

 こうして『ですわーず』結成と同時に裏取引が成立したのだった。喪女さんの運命やいかに! ……あ、関係無ぇや。

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