変態と3人の犠牲者
「ああ……なんでこんな事に……」
フローラが不幸のズンドコで嘆いていると、
「あらぁん! 暗いですわよぉ、ふ・ろ・お・ら・さ・ま☆」
無駄にキラキラしたサブがくねくねとポージングしながら擦り寄ってくる。……俺しばらく何処か行ってこようかな。
(一人にすんなよぉ……あんたでも居ないと心が持たない……)
「あんたのせいであんたとマンツーマンって何の拷問よ? メイリアの事頼まれてたのに速攻守れなくなるだなんて……」
「(ビキビキ)うっうん? (ズビシッ!)それならぁ…… (ギュムッ!)あの当代男爵のぉ…… (グリンヌ)マリオちゃんんぅ…… (バッシィ!)がぁあ!」
フローラの暴言もアレだが、こいつ、常にポージングとってないと死ぬ生き物なのかな? やっぱ放浪してきたいんですが。
(まじ、たのむ、ひとり、よくない。っつか……)
「ポージング決めてないで普通に喋れこのドエムの変態マッチョが!」
「あふんっ! こ、言葉攻めだなんて……ざ・ん・し・ん☆ メイリアちゃの事ならマリオちゃんがサポートしてるみたいよぉ?」
「ああそ。もうやだ……こんなのと二人なんて……」
フローラが耐え切れず、サブを蹴りたお……せず、塩対応。こいつ普通に強くなってんね。
(それに対し余計腹が立つのは何故なんだぜ……)
「うううん! いけずなフローラ様なんだ・か・らんっ☆ 私には残念な事なんだけどぉ、二人きりではないのよぉ?」
「……はい?」
「「「遅れました!!」」」
フローラの背後から3人の元気な声が! フローラは恐怖で振り返れない! 何の? とは言わせんな。
(ひぃいいい! こんなのが3人も増えたらどうにかなってまうわ!)
「あら、ようやく来たわねベイビー達。遅かったじゃないのぉん? ベイビー達はね、今日フローラ様と訓練することを聞かせたら参加したいと聞かなかった困ったちゃん達なのよね。フローラ様? ご迷惑かも知れないけど参加させてあげてね?」
ベイビー達て……。もしかして犠牲者か?
(やめろよ!? 余計振り返れないじゃないの! すぅはぁ。そーっと、そーっと振り返……)
「……あっ、普通だ、良かった。いやいや、大丈夫! 迷惑じゃない! 歓迎します!」
一瞬強張った表情のフローラを見た青年達は不安そうにしていたが、フローラの許可が降りたらしい気配を感じ取り、安堵の表情を浮かべる。
「自分は隊員番号0001号であります!」
「え?」
「自分は隊員番号0002号であります!」
「は?」
「自分は隊員番号0003号であります!」
「おいちょま……こらサブ、どういう事なの?」
「うふぅん? 何がどういう事なのかしらぁん?」
「うぇ……。そうじゃなくて、名前の事よ」
「ああ、その事ね。今回しか訓練に参加しないから、名前覚えても仕方ないでしょう?」
「はぁ……」
「だから単純に、参加表明した順番に番号振ったのよ」
「……あんた達はそれで良いの?」
「「「勿論であります!」」」
「あっそ。でも私が良くないからちゃんと名乗れ」
「「「え……」」」
困惑するベイビー達がサブにヘルプアイ。
(ベイビー達言うな)
「んふふぅ♪ フローラ様はこういう方みたいよぉ? だったらちゃんと名乗った方が良いわよねぇん?」
「……普段は北部国境警備兵を勤めております、0001号ことアザロアと申します。家名はありません」
「西部国境警備兵の0002号こと、メルキンと申します! 同じく家名は御座いません!」
「東部国境警備兵の0003号こと、アンドレアと申します! ゼオルグ様と部隊を同じくしたこともございます!」
「そ、分かったわ。アザロアさん、メルキンさん、アンドレアさん、よろしくね」
「「「よろしくお願い致します!」」」
「んっふぅ! 聞いてた通りだったでっ(ムッキィン!)しょう!? 身分を気にしない方なのよぉん?」
「……はい。まさか貴族のご令嬢が我々の名を呼ばれるだなど、夢にも思いませんでした」
「戦場では分かりやすく番号や記号、果ては酷いアダ名を割り当てられることもありますので……」
「アダ名は……凹みますよね」
「へー? ちなみにどんな感じの?」
「赤いメスい……」
「ハイストップぅ! あのね? 性格はこんなだけど、一応貴族の令嬢なのよ? ゲスい名前なら先に断っておく位の紳士にはなる努力はしよう?」
「も、申し訳御座いません!」
言わせねえよ? とばかりに喪女さんがカット! 可哀想に、すんごい角度で頭下げて謝ってるよ。やーい、いじめっ子ー。
(いやいや、コレ普通だから? 男爵クラスでぎゃーぎゃー騒ぐ子は居ないと思うけど、下手に高位の貴族相手にあの感じでポロっとやっちゃったら、ヘタすりゃ物理的に首が飛ぶからね)
「んふふ。まぁあ? 最初にフローラ様の所に顔を出した粗野なダンディが、そういう事を持ち出す行けない子ちゃん達を躾けてはくれると思うから、そう気にしなくても良いわよぉ?」
「我が身を振り返ってから物を言えこんど変態が」
「えぇえ? 私が何……ああ、しましたわねぇん。あの時はちゃんと貴族であったことも、家格が上だったこともあって無礼を働きましたわぁん♪ 御免なさいねぇふろおら様ぁん。私、あの時の記憶は鮮烈な股間の一撃だけが残ってたか、らっ……☆」
「事ある毎にそれを言う気かこんにゃろうが……」
何処に行っても、誰と会っても、喪女さんは喪女さんのままだった。
(うっさいよこんちくしょー)
そいや今更だけど、ミリーはどうしたの?
(ミリーは魔法兵科よ。私は光魔法に使える魔力は多くても、通常の魔法が今一だから)
て事になってるの?
(んー実際の所、私の魔法の運用方法が斬新過ぎて、伸ばしたり教えたりできる教諭が見繕えないって言われた……)
変な子扱いか。
(……いちいち言われなくても分かってますぅ。あ、そーだ)
「皆さんはなんでこの変態と一緒に行動を?」
「ああんっ! 辛辣ぅ!」
「「「………………」」」
衛兵ずは顔を見合わせて苦笑する。言い難いことなのかね?
(どうだろ?)
「えっと、サブ……リナ殿は、見た目や行動、そして嗜好に置いても奇異と言わざるを得ません」
「「(コクリ)」」
「ん、もうっ! 言ってくれるわねぇん……」
「しかし、自らを鍛えるという点に置いて、誰よりも真摯で、誰よりも努力されてる方でもあります」
「「(コクリ)」」
「いやぁん☆ 照・れ・るぅん♪」
(ちったぁ黙ってられんのかこのバケモンが)
そこは同意だが、お前さん、サブには当たりがキツイな。
(機会がありゃ教えてやんよ)
理由があんのか。
「我々が知り合う切っ掛けとなったのは、一対一の試合でした。勝てば二度と関わらない、負ければ……」
「え? 何それ!? 負ければどうなっちゃうの!?」
「負けた場合どうなるかは明らかにされておりませんでしたので、当初我々も身の危険を嫌って程感じてましたが……実際は添い寝だけでした」
うぼえぇ……。
(添い寝だけって……それもキッツいわぁ)
「……ハァハァと興奮した寝息が聞こえてきたり、耐えきれず薄目を開けるとこちらをガン見してたりと、心中穏やかでは居られない夜を過ごす羽目にはなりましたけどね」
「耐えきった事を褒めてくれても良いのよぉぅ?」
……それってなんて言う地獄?
(どっちが罰ゲームでしょうってタイトルが付きそうよね……)
明らかに安物と高級品との勝負になるのか?
(興奮した鼻息が安物で、食べちゃいたいけどお預け食らってる変態が高級品かしら……)
甲乙付け難しだな。まぁ何だ。身の危険をコレでもかって言う程煽られて、それでも負けてある意味で被害者にはなったものの、最後の一線は超えてこなかったから信用したのかね。
(そゆこったろうね)
「んまぁ、性根の腐った子はちょおぉっと痛い目見てもらったわ。主におおき……」
「黙れこのド変態が! それ以上言おうものならあんたこそ唐辛子つっこんでやるからね!」
言わせねえよ? パート2とばかりにフローラがインターセプト! おやしかし、サブの様子が……
「は、はぁああ……ん☆」
「想像すんなー? うっとりすんなー? 期待した目で私を見んなあぁあああ!?」
「んんう、けぇち♪」
「可愛くないからやめろ、な?」
「仲がよろし……」
「くねえよ!?」
高速の返しで本当のことは言わせない!
(微塵もねえよそんな事実ぁよ)
あ、そうだ。サブにキツイ理由はここで聞いておこうか?
(後でも良いのよ?)
ええからはよ。
(例えばシルビアなら私も受け入れるのよ)
綺麗だから?
(ちがわい。ちゃんと今の自分を受け入れてそっちの道を歩んでるからよ。でもこのド変態は、甚振られるのも、甚振るのも、男にも反応するド変態だからよ。先日の事で、こいつは相手の意向を無視して自分の欲望をぶつける可能性があると気付いたから余計にね)
……そうなんだろうか?
(何よぉ。お父様やお祖父様が狙われたじゃん。あんたも知ってんでしょうに)
ならこの3人は何故無事なん?
(好みじゃない……とか? ……聞くか)
「ねえサブ、この3人てあんたの好みじゃなかったの?」
喪女さんからの突然のブッコミに、3人は石化した!
(ごめんねー。大事なことなのよー)
「好みかそうでないかで分けるなら好みではあるわよ? でもね、もっとたくましい方が……(くねくね)スキー☆」
「はいはい」
「(((ホッ……)))」
「じゃあ何でうちのお父様とお祖父様には迫ったのよ? 強さはともかく、線の細さはこの人達とさして変わんないじゃない」
「「「 !? 」」」
「んんっふ☆ あの二人なら私を止めれると思ったから、安心して迫ったのよ」
「はぁ? 失敗前提だったってこと?」
「そう。……でもまさか、奥方様達があれ程の猛者だとは思いもよらなかったわぁ。あの後、今度遊びましょって約束しちゃったわ」
「………………はぁぁぁああ?!」
まさかの爆弾投入であった。