これで終わりと思ったかしら?
「何てことがありましてね……」
「ぬあっは!? ……ええと? どう言って良いやら分からないっすがご愁傷さまっす」
「そうっすね……なんて言って良いやらっす」
「時折、フローラちゃんは抱えきれなくなると、私の口調になるっすねぇ」
「仕方ないことだと思うっす」
「あはは……。あそうだ、フローラちゃんが不在の間にベティちゃんがやってきてて、なにかお話があるみたいだったっすよ」
「そうなんです? じゃ、今度聞いておきま……」
バッターン!
「もっふもーふ!」
「きゅー」
「……あんた寮でうるさくしたらメアラ先生に突き出すって言ったわよね?」
「スミマセンでした!」
毎朝の漫才を終わらせると、3人と1匹は寮を出て学院に向かうのだった。お咎めは?
(後で喰らうに決まってんだろ。ベルの野郎……。学習しろよぉう!)
………
……
…
教室に入ってベティを見つけたフローラは、早速話を聞きに側に寄るのだった。
「ベティー、おはー」
「よー」
「先輩から聞いたんだけど、私に何か話があったんだって?」
「んー。こんどからさ、2年次の戦闘カリキュラムが増えたでしょ?」
「……あったな、そう言えば」
「忘れてたんかい」
忘れてたんかい。安定の喪女ぶりですね。
(喪女ぶりはコレとは関係無くね?)
「……ちょっと前に色々、本っ当に、色々あってね」
「ま、それは後でフローラが話したければ聞いたげる。んで、戦闘カリキュラムについてなんだけど、私は士官教練を取ることにしたの」
「そういえば言ってたもんね、士官になるって。あのコースって取るには凄くハードル高いんじゃなかった?」
「直近のテストはサボらず全力でやってるから問題なく取れる」
「……流石リアル優秀生」
「で、メイリアの事を任せても良い?」
「あ、そっか。専攻が別れるもんね。それは大丈夫なんだけどベティって……」
「私が何? ……ってああ、あの話? なら大丈夫。私にも護衛がつく……ってかもうついてる」
「え? 誰が護衛についてるの?」
「よくぞ聞いてくれました! お姉様とアーチボルド様よ!」
わぁ、なんてテンション、この豹変ぶりは中々慣れませぬな。
(おおうそうね。久々に見たのもあるかな。絶対零度からウザい位のぶりっ子にジョブチェンジするから温度差が凄いのよね……)
「目がハートマークだけど、ハメ外しちゃダメよ?」
「フローラ? 憧れは憧れでしか無いわよ。身の程はわきまえてるわ」
すっと目を通常運行に戻すベティさん。っぱねえっす。
「そうね。ベティはそうだったわね。って言うか、魔法ありだとベティに勝てる人って限られるんじゃないの?」
「あ、そういうのはナシの方向で」
「あっはい」
ぶれないベティだった。実際どれ位凄いんだろうな? 鬼将軍ずより強えんだろ?
(魔法の出力が凄いのかな? 分かんないけどね。案外からめ手だったりかも?)
そいや話は変わるんだけど、ベルが居ない。
(どっかほっつき歩いてんでしょ? あの子はこの学院に通ってるわけでもないから、日中やること無いだろうし)
「あ、メイリア」
「お? メイリアおはー」
「おはよう、ベティ、フローラ。……フローラ? そういう挨拶してるとメアラ先生に怒られるわよ」
「大丈夫大丈夫。今日は教養の授業無いんだし……」
「そうそう。会う機会がなければ、少々羽目を外してたって、良いわよ、ねぇ?」
「うんう……に゛ゃあああ!? メアラ先生!?」
「フローラ、さん。羽目、外しちゃって、良いのよ、ね?」
「御免なさい済みません! 出来心でつい!? っていうか先生が羽目外すとどうなるか想像がつきませんのでご勘弁を!?」
(ベルが居なかった理由はコレか!? 一人で逃げやがったなあぁあんどチクショーめが!)
頭の中でコレ呼ばわりされてるってのが、メアラ先生にバレたらどうなるんだろ?
(死!? やめて!? 想像しちゃったから!)
「今日は、ね。戦闘カリキュラムが、ね? あるで、しょう? 弟はぁ、私が、マンツーマンで、見るから、欠席します、って話をしに来たの」
「そそそそ、そうですか!」
「……次の、教養の、授業がぁ、楽しみねぇ?」
「出ることならお忘れ頂ければ幸いでありますです!」
そしてメアラはフローラの未来に楔を打ち込むだけ打ち込むと、ゆらゆらと帰っていった。
「……ううう、なんて藪蛇」
いや、身から出た錆だろ。状況的に。
(あ、そっか。……いや、どうだって良いわそんなこ……)
バァ――――ン!
(っひゃあああ!?)
「おう! 邪魔すんぞ! 席に着けてめえらぁ!」
教室の引き戸を荒々しく開けて、ゴツいおっさんが騒々しく入ってきた。何処の軍曹さんですか?
(……びっくりしたぁ。あー、あの人って戦闘カリキュラムの実践担当教官じゃないかしら。ゲームで見た覚えがある気がするわ)
へぇ。覚えてるってことはお前、おっさんもいける口だったか。
(馬鹿言ってんじゃねえ)
「知っての通り2年になれば戦闘訓練の1つや2つ、やってもらうことになってるが……大丈夫だな!?」
先生こいつです。忘れてやがりました。
(はいはい、スミマセンねえ。誰に聞こえるってんだコンニャロが)
「殆どの奴はダンジョンに潜ってもらう事になる。喜べ、れっきとした城の地下ダンジョンだぞ」
何故『れっきとした』部分を強調したんだぜ?
(ダンジョンっていう言葉が定着したのは、元は『地下牢と竜達』っていう有名なTRPGだか何かが元になってんじゃなかったかしら。ダンジョンって魔物の住む迷宮ってイメージがあるけど、本来は地下牢って意味だから。神話だとミノス王の迷宮かしら? あれも城の地下でミノタウロスを閉じ込める意味合いがあるしね)
じゃあ良く知る人はダンジョンって言っててプギャーってなるんか?
(もうダンジョンって言葉がずいぶん長いこと独り歩きしてるから、古参の人でも気にする人居ないでしょ。本場のはずの外国でも、基本はダンジョンって言ってるし。ダンジョンって言ってる地上部に城なんて無いからね。城の遺構扱いなら知らんけど……)
向こうの人が「ダンジョンはダンジョンです」ってイメージしてるならもう良いのか。
そんな感じでこちらが下らない事をうだうだ言い合っている内に、ゴツオの話は終わっていた。
(ゴツオって……)
名前知らんもん。んで、ベティは士官科、フローラはメイリアと騎士科に分かれた。騎士科は特に選ぶものの無い生徒が自動的に割り当てられる。フローラ達は授業が行われる教練場に向かうのだったが……。
(何故かは知ってるけどぉ、視線がめっちゃ痛いわぁ……!)
騎士科で待ち受けていたのは本職の騎士達と、何故か伯爵家クラスの騎士科生徒達だった。その全ての視線がフローラに突き刺さってるとなると……?
(みなまで言うな。知ってるって言ったやん。絶対あのやろ……)
「フローラさまぁあん!」
「うっぎゃあああ! でかい声で呼んでんじゃねえ! そして寄ってくんな!」
1. サブがご主人様を見つけたワンコの如く飛んできたのだった。そしてサブの周りからは、砂の国から脱出した有名な海割名人の比ではないだろう位の速さで、人が逃げる様に消えていくのだった。触れることのない磁力の同極同士の玉突きみたいな?
(アレをワンコと言うな! 海割名人って何さ!? 触れない玉突きはちょっと合ってるね!?)
最後まで何でキレ気味?
(お前がコレの相手してくれんのか!?)
いや、普通に無理だろ? 例え俺がリアルに干渉できるとしてものーせんきゅー。
(だったら黙っとけやぁ!)
「アラヤダ。フローラ様? なぁんでご機嫌斜めなのかしら?」
「お陰様で、良かった機嫌もあんたのせいで斜め所か波打ってのたくってるわ」
「ウフフ! ヤダァ、おっかしーい!」
「……私は何一つ、面白く、無いのよ?」
(メイリアなんか騎士科の人と同じ速度で私から離れていったし……)
濃ゆい類友の登場に遠慮した感じ?
(お前はアレが私と同類だというつもりなのかね?)
あー……流石に無いな。すまんかった。どうせ……あいや何でも無い。
(分かればよろし……って何を言いかけたお前?)
「でっはー! フローラ様あん? フローラ様のお相手はぁあ! 私ことぉ! サブ! リナ! がっ! 担当させて頂きますわぁ……ムッハァアアアアン!」
「……はああああああ!?」
衝撃の事実を口にしながら熱苦しくも全身の筋肉を盛り上げさせて、ビキビキッッ! と本当に音を立てながら次々とポージングを決めていくサブ。突然の刑執行宣告に、フローラの慟哭は教練場に虚しく木霊するのだった。