まだよ。まだ終わらせないわよぉん!
ねえねえ、喪女さん。
(んだよこの野郎……)
なんか思ってた展開とちがぁう。
(どういう展開がお望みだったんですかこんちくしょうが)
感動そっちのけで喪女さんだけが大ダメージ。
(お前の目は節穴か!? めっちゃダメージ受けたわこんニャロメ!)
喪女さんだけじゃないのがネック。そして俺は猫でもないし目もないんだけど?
(いつもどうやって私が凹むのを感じてらっしゃるのかしら……?)
感情で?
(だったら分かるだろ!? めっちゃダメージ食らってるよ! せっかくの感動シーンを! スーパージェンダー共が踏み荒らしてくれやがりましたもの!)
自分のせいではない、と声を大にして言ってみ給え。
(すんませんっしたー! あーもーほんとねー! 私のせいですよぉぉぉおだ!)
どんだけ逆ギレしてんだか……。
「あら? フローラ様? どうされて?」
「どうされて……ではないのよぉ。って言うか、なんであんた蹴り潰した時よりムッキムキなのよ?」
「ウフフ……♪ それはね? 騎士団の訓練をただ真面目に受けただけなのよぉ」
「……騎士団の人であんたみたく筋肉だるまな人見たこと無いんだけど?」
「うーん、あの騎士団の訓練メニューって、全部やるには殺人的だったりするのよねぇ。私も最初の頃はすぐに音を上げてたわぁ。実際、騎士の人達も自分が必要と思う訓練だけしていたわね。だから私も厳しいのに厳選するつもりだったのだけどぉ……」
サブ……じゃない、サブリナはそこで『キラーン☆』て感じに満面の笑みを浮かべた。うぐ、強烈ぅ……。
「訓練についていけないとね? 激しい折檻と罵倒が待ってるの! 『できると思って参加しておいてその様はなんだ! それでも騎士を目指すものか! 少々教育が必要のようだな! 歯を食いしばれ!』ってね」
そしてサブリナはうっとりと恍惚の表情を浮かべて、折檻の内容をそれは細かく滔々と語ったのだった。
(おい、マジでやめろや……。どの先生の折檻が激しくてとか、攻め具合の良さだとか、知りたくもないんだよ!)
え? そっちのケ、無かったっけ?
(ねえわやめろやまじでありえんから)
そこまで喜ばなくても……。
(喜んでねえっつってんだろうが!?)
「でもね……フローラ様」
「……あによ」
今までの楽しそうな表情が一変、心から悲しいですって表情を浮かべてフローラの名を呼ぶサブと、ぞんざいな喪女さん。やさしくしてあげなよー。
(い・や)
「私ね。その訓練、折檻受けたいがために全部、ぜぇんぶ受けては途中でリタイヤしてたのだけど、少しずつリタイヤせずについて行ける様になっていって……ある日、どれもリタイヤしなくなっちゃったのよね」
「……で?」
「欲求不満だなんて言わせな・い・で☆」
えげろろろ……
(うげろ……)
「組手も打ち合いもやってみたけど、フローラ様の一蹴りには遠く及ばないの。ね? 一度で良いから熱い奴を一発お願いできないかしら?」
「……何言っちゃってんだお前ぇ!?」
「おねがぁい♪」
「ふ・ざ・け・ん・な? ただでさえ家族の団欒をぶっ壊されて気分悪いのに、なんでお前のお願い聞いてやらにゃあならんのよ!?」
「あ、そうだったわね」
「そうよ!」
「伝説の鬼将軍と右腕が居るのよね……(ジュルリ……)」
「 !! 調子こいてんじゃねえ!」
「あら!?」
身内を狙われ激昂したフローラの全力の打ち込みに、サブはあっさり身を躱してしまう。
「あらぁん。鍛えすぎちゃったからフローラ様の動きが良く見えるようになっちゃったわねぇ。これじゃ一撃をもらうなんてことでぎょっ!?」
フローラはパンチをお見舞いしようと右ストレートを繰り出すも避けられた。ならばと直ぐに拳を戻し、右の拳を抱えるように左手で包んでしゃがみ込むと、地面と平行にスライドするようにサブの真下まで移動してからジャンプする要領で、全身のバネを使って鳩尾に肘鉄を叩きこむのだった。
「ぶげぇ……何その動き……?」
「知らん! どこかの格ゲーの技!」
いや、違ぇだろ。真下に潜り込む時点で避けようとしたら脚か腕を引っ掛けてすっ転ばす気満々だったろ。そんな格ゲーはねえ。
「うぐふぅ……ふふ、やっぱりフローラ様はすぎょびっ!?」
更にうずくまるサブの人中に膝蹴りを叩き込むのも忘れない! 安心の追い打ちだ! それだけでは終わらず、完全に伸びたっぽいゴリマッチョなサブの後ろに回り込むと……フローラ選手! 勢いをつけて足を振りかぶりぃ!?
「ハイストップよぉ」
「絶えてしま、あえっ!? お母様!? どいて! そいつ潰せない!」
「ん、もう! 物騒な上にはしたなさ過ぎるわ! メアラちゃんにもっと厳しく当たるように言っておこうかしら?」
「 !! ひぃいあぁぁあ!? 御免なさい! お母様! それだけはお許しを!?」
「ひうっ!?」
フローラが絶叫、ついでにシルビアも身を震わせた! 二人共被害者だしな。
「この二人の訪問には驚いたけど、フローラちゃんが流される理由はないのよ?」
「え? でもお母様方も流されてたような……?」
「フローラちゃん?」
「あっはい、何でも無いです」
「それで貴方達は単に挨拶に来ただけなのぉ?」
「……あ、ええ。……今日の所は。謝罪とお礼を言いに来ただけですわ」
「謝罪はともかく、お礼?」
「ええ……。生まれ変わる前の私は自分が全てでした。伯爵家の中にあっても自分は特別で、数百年変わらなかった爵位も自分の代で上げてみせる、と。要は物を知らぬ子供だったのです。それが自身の根幹をなすちっぽけな一つが崩れ去っただけで、こうも拠り所が無くなるだなんて思いもよりませんでした」
あの時は笑ったなー。バモンクラッシャーの件で説教無限地獄の後、イモムシのように這いつくばって身動きできない喪女さんの顔の向いてる方に、これまたボコボコにされて身動き取れないシルバの顔。二人が見つめ合う状態の中、刑は執行されたんだよな?
(ぃやめて!?)
ぐしゃっ! っぎゃ――――っ! ってこの世の終わりのような表情で叫ぶシルバに合わせて喪女さんも、っぎゃ――――っ! って貰いギャー。
(ぃやめろよぉ!! ま・じ・で!? あとあの悲劇を貰いゲロ見たく言うなし!?)
そこでもらい『泣き』じゃなくて『ゲロ』をチョイスする喪女さんす・て・き☆です。
(だぁっとれぇ! サブの口調真似すんじゃねえ!)
「私、こうなってからもたまに夢に見ては叫び声を上げて飛び起きるんですわ……。失ったはずのものが潰れる痛さを思い返すことも、たまにありますの……」
たまだけにたまにたまにと2回頂きました。痛みってあれかね? 幻肢痛ならぬ幻たま痛?
(おま、とことん酷え奴だな……)
「失ったものは私を構成する半分だったかも知れませんが、傲慢になる要因が取り除かれたようなもの。幸い今の生き方も性に合っているようですわ。ですので感謝を。難しいかも知れませんが、私もいずれは良い方をみつけ……」
「んふふふぅんん!! ふぅっかあっっつ!」
「ぎゃあああ!?」
「ああ、さすがフローラ様ぁ! でもでもお! やっぱりダメ! 止めが欲しかったわぁ! だからぁ……追い込まれて頂戴ねぇ!」
「おまなにするつも……ああっ! お父様お祖父様! 逃げて! 超逃げてー!」
サブはフローラを大きく迂回すると、鬼将軍ずにまっしぐら!
(くの! あいつ息の根止めてやる!)
しかし本来のフローラにそこまでの体力があるわけもなく、
(間に合わ……)
「まったくぅ……」
スパーン!
「ぐふぇっっ!?」
「旦那様は私のなのよ? さぶさん?」
勢いを利用されて投げ飛ばされたサブ! そしてサブを覗き込んで所有権を主張するステラ!
(え? え? いつの間に?)
多分、サブが目を覚ました瞬間に移動してたな。
「お……オホホ、奥様? 私は生まれ変わってサブリナという名前に……なったのよぉっ! ……ぅぅぃんげふっっ!?」
ダメージは軽微だったらしく、サブが会話の途中に出し抜こうと飛び起きるも、着地先の足を華麗にすっ転がされて数回転し、またしても床に打ち付けられる。
「ど、どういう……?」
「私ね? 人を傷つけるのは性に合わないのだけど、怒らないわけじゃ、無いのよ?」
おお、ステラが猛ってる……。
(おおお、お母様?)
「ふう、分かったわ奥様。流石に人の物に手を出そうと言うのは野暮でしたわ、っんねっ!」
起き上がったサブは、ステラから距離を取るようにぴょーいと、叩きつけられた体勢のまま数m横っ飛びする。
(うえ!? 何あれ気持ち悪い!)
「うふふ、これでさすが……ぁぁああ!? んがふっ!!」
なんとステラはサブの服をがっちり掴んでいた! つまりサブと一緒に空を駆け
(やめろやその言い方!?)
気を抜いたサブを空中で華麗に投げたのだった。
「うっぐう……流石フローラ様の母君、と言った所かしら。でも私にダメージを与えられない以上、何時まで立っても……? ぴゃいっっ!?」
パィィィイィィィイィンッッ!
急に妙な声を上げて沈むサブ。どうやら何時の間にか背後まで寄っていたフローラの祖母、ミローナに何かされたようだ。
「え? お祖母様?」
「私もねぇ? 鬼将軍の嫁として色々できたりするのよぉ?」
「お母様の昏倒掌は、戦場で暴れる人達を静かにさせるのに効果的ですものね」
「いい機会だから貴方も覚えなさい?」
「お母様の時は細かい諍いがしょっちゅうあったので、練習相手にも事欠きませんでしたけど、私はそうは行かないでしょう?」
「この子は?」
「……家名はもう名乗れ無いらしいし、実験台に使っても良いのかしらぁ?」
「お母様、お祖母様。お父様とお祖父様の精神衛生上、それは勘弁してあげて下さい」
「「あら?」」
「「(こくこくこくこく)」」
こうして母親ーずの活躍と、フローラの心からの提案によって父親ーずの貞操は守られるのだった!
(あ、危なかった……)