第2話 マジックを本気で魔法だと思う子もいるわけです
生徒会での仕事が一段落したので、俺は会長とお茶をしていた。
いつもならすぐに帰るけれど、今日は話を聞いてから。
本当にこのままだと寝ることができない。
「てっきり俺は会長のこと、ハーフかご両親が海外出身の方だと思っていましたよ」
銀髪にすっと高く伸びた小さな鼻。青い瞳な会長は日本人とは思えない。
しかし、会長は英語のテストの点数が悪い。日本語以外の言語も話せない。
だから、ハーフとか思っていたけれど、異世界人だったとは。
「あーやはりそうか。私もこの世界に来た時、自分の顔はどちらかというとヨーロッパ系の顔だなと思っていたんだよ。でも、最近は日本に住む海外の人も増えたことだし、気にする必要は…………」
「いえ、気にします。
異世界出身とおっしゃる美人な会長はパソコンを使いこなし、スマホを使いこなしていた。
またTwitterも使っているこの人。
なんと絵師として活動していたら、最近フォロワーが5000人超えたとかないとか。
下手をすれば俺より現代人っぽいことをしているこの人が異世界人だなんて信じられねぇわ。
「まぁ、私がこの世界に来て、5年も経つんだ。慣れるのも当然だろ?」
「5年って小学生の頃ぐらいに来たんですか。よく1人で生きてこれましたね」
「いや、1人で生きてきたわけではないぞ。私はこの世界に来て直後、ある家に拾われたんだ」
「なんですか、その捨てられた猫みたいな感じは」
そういうと、会長はうーんと唸る。
「その表現はあながち間違いではないかもしれないな。
「そうなんですか?」
「ああ。スラム街でなんとか生き延びていたんだが、ある日、食料を必死になって探していたら、ある箱を見つけたんだ。その箱の装飾がかなり豪華で、もしかすると金目になるものがあるかもと思ってな。その箱を開けたんだ。そしたらな————」
会長は青い瞳を真っすぐこちらに向ける。その瞳には寂しげなところは一切ない。キラキラと輝いていた。
「光の中に吸い込まれて、いつの間にかこの世界に来ていたというわけだ」
「はぁ…………なるほど」
「お前、信じていないな」
「いや、信じられるわけないじゃですか。異世界だなんて」
異世界なんて言葉、ラノベとかマンガとかフィクションなものではよく耳にする。1つのジャンルとしても確立しているし、フィクションの中では当たり前だ。
でも、この世界は現実。フィクションなんかじゃない。
そう安々と信じられるかっつーの。
「他のやつらは信じてくれたけどなー。ほら、長谷川とかはすぐだったぞ」
「私のこと呼んだー?」
そう尋ねてきたのほほんとした声。
扉の方を見ると、そこにはすらっとした背の高い1人の女子。
長い茶色髪を揺らし、部屋に入ってくる彼女は生徒会副会長、長谷川みくり先輩。
先輩は俺の向かいの席に座り、テーブルに置いてあったお菓子を食べ始めた。
「先輩、お疲れ様です」
「おっつー、名城君。ラシャちゃんもおっつー」
「おっつー、長谷川。お前、随分と遅かったな」
「うん、そうなのー。色んな先生に捕まって仕事を手伝ってたら、いつの間にかこんな時間になったの…………それで2人はさっき何話していたの?」
「ああ。私の出身の話をしていたんだよ」
「ラシャちゃんの出身の話? 異世界がどうのこうのっていうジョーク話?」
「ジョーク話? 長谷川、いつ私がジョークなんて言った?」
会長が尋ねると、長谷川先輩はこくりと首を傾げる。
やっぱり先輩も信じていなかったか。
よかった、仲間がいて。まだマシな常識人がいて。
「え? ラシャちゃん、いつも自分の出身の話をする時、冗談ばかり話しているじゃない」
「冗談だって? あれは本気で言っていたんだぞ? ウソ一つないんだぞ?」
「えー。そんなバカなぁ。いくらラシャちゃんの頭がお花畑だからってガチで異世界出身って言うのは、私どうかと思うー」
「な、な、なんだってぇ!? 長谷川! 私は
信じてもらえないあまり熱くなった会長。
彼女は両手を前に伸ばし、何かを唱え始める。
これはまさか…………。
「ファイアーボール!」
すると、会長の両手の上に炎の球が生まれた。
予想は少ししていたけど、これ魔法だよな?
マジックとかじゃないよな?
「これを見てみろ! 私が魔法で作ったんだ! 長谷川、これで私が異世界人だってことが理解できただろぅ!?」
「そんなむきになってやるようなものではないと思うんだけれど…………」
「なだか、何か言ったか?」
「いえ、何も…………」
もういい。俺、黙っておこう。
火事になっても知らないぞ。俺は帰るぞ。
一方、長谷川先輩は会長の炎の玉を見て、パチパチと拍手。
「ラシャちゃんすごーい! そのマジックはすごいわー! 絶対バズるわー!」
「マジックじゃないぃ! これは魔法だ!」
「あ、そうよね。ラシャちゃんにとってマジックは魔法よね。ごめんなさい、夢を壊すようなことを言って」
「こ、このぉ――!」
「会長たちは一体何をしているんですか…………って、会長その火の玉なに!? あぶなっ!」
俺が帰ろうと立ち上がった瞬間、生徒会室の扉ががらりと開く。
そこには俺と同じくらいの身長の女の子が立っていた。
黒髪ショートでカッコよさも備えつつ、可愛らしさもどこか垣間見せる彼女は、生徒会会計の笹原渚。俺と同じ学年の1年である。
俺は逃げるよう彼女の元へと移動。
なんか安心するわ……………………まともな人の近くにいると。
長谷川先輩もまぁ、常識人ではあるけれど、たまに狂った発言をする人でもある。一方、笹原は真面目オブ真面目。常識人の中でも常識で、俺が信頼できる人物でもある。
「笹原、お疲れ。生徒会の仕事は終わらせたから、帰ってもいいよ。ていうか、帰った方がいい」
「いや、でも私の仕事はまだ残っているの。だから、しないと帰れないんだけれど…………先輩たち何しているの?」
「うーん、ケンカ?」
1人は真っ赤な顔で炎の玉を作り、1人はそれを見て笑顔で拍手。なんともカオスな状態だった。
「ケンカって、別にあんなマジックやって競わなくても…………会長! そんなことしていると、火災報知器が鳴りますよ!」
常識人笹原は会長に忠告。
しかし、会長に魔法を消す様子はない。
「大丈夫だ! 笹原! ここの火災報知器に魔法をかけてある!」
「何、バカなこと言っているんですか! 本当になりますよ! つい最近点検されているんですから!」
この状況下で先生が来たら、どう説明すればいいんだよ。
ていうか、会長はあの火の玉で何をするつもりなんだ?
「長谷川、見ていろ。次は私の周りに複数の炎の玉を作るぞ!」
「わぁー、楽しみー!」
……………………あの人、遊んでいないか?
さっきまで殴りかかりそうなほどキレていた会長。しかし、今の会長の顔には笑みがあった。
あの人、絶対楽しんでいるな。
「屋内で火遊びなんてしていると、シャレにならないことに————————」
リリリリィ————。
突如鳴り始めた、ベルの音。
生徒会室だけでなく、廊下、校舎中にベルの音が鳴り響いていた。
「ほらー! 言ったじゃないですかー! 会長、さっさと炎の玉を消して、先生の所に行きますよ」
「いや、ここの火災報知器には魔法かけておいたから、鳴ることはないはずなんだが…………」
「まだ魔法なんて言っているんですか? もう高校2年生ですから、中2病はやめてくださいよ」
「中2病は必ずしも中学2年生になるものではないぞ。ていうか、私は中2病じゃない。だが、魔法は本物だ」
「その発言は中2病の症状です。ほら、先生の所に…………」
笹原が会長を職員室に連行しようとした時、廊下の方でアナウンスが聞こえてきた。
俺は廊下に出て、アナウンスに耳を傾ける。
『東校舎3階で火事が発生しました。落ち着いて避難してください』
生徒会室のあるこの校舎は西校舎。
火事は反対側の東校舎で起きたのか?
「笹原! どうもベルが鳴った原因は会長の炎とは別みたいだ! 会長を解放してやってくれ」
「実際に火災があったってこと? じゃあ、早く非難しないと。会長、グダグダしていたら死にますよ。長谷川先輩も早く逃げてください」
笹原に抵抗するため、寝そべっていた会長は、「ほら、やっぱり私のせいじゃなかっただろう?」と威張っていた。
いや、魔法でもマジックでもいいけれど、火を使うのはアウトだ、会長。
俺は廊下の窓から、東校舎の方を見る。
外はすでに暗く、人がいる教室だけ光が灯っていたが、東校舎には人がいる気配がない。
どこだ? 火事が起きている場所は。
見渡していると、1つの教室から炎が上がっているのが確認できた。
火が強くなってきている。だけれど、火事が起きている場所は生徒会室とは反対。
逃げるのは用意そうだけれど……………………あの炎なに?
炎の色は赤ではなかった。赤なんて色は一切見えなかった。
俺が目にしたのは青い炎だった。