第九十二話
ふと、打ち上げの席で社長に言われたことを思い出す。
常務取締役として会社の改革に尽力するのは、確かに面白いだろう。
やりがいもある。
地位もある。
恐らく金も。
利益を得たとはいえ、オーリーズはまだまだ小さな事務所。
これからのオーリーズには自分の力が必要だ。
……そう、分かっていたんだ。最初から。
「分かりました。……明後日の14:00に伺っても宜しいでしょうか?」
「あぁ、良かった! その日で私は大丈夫です。……そしたら、詳しいことはまた。今日は遅くに失礼しました」
「いえ……では、失礼致します」
「ウィルソン!」
牧野はベンチから立ち上がり、こちらを睨んでいた。
「牧野……。すまない」
歯を食いしばっていた彼女は、途端に顔を歪め、わなわなと泣き始めた。
「……あんたのこと好きなあたしの気持ちも考えてよ…………でも、……そっか……」
小さくうずくまる彼女はいつかの俺だ。
「牧野…………。ありがとう」