第九十一話
「ありがとう」
急いで通話ボタンを押す。
頼む!
間に合ってくれ!
「もしもし」
「あ、夜分にすみません。私、日の丸テレビの代表取締役、河田と申します。ルーク・ウィルソンさんでしょうか?」
代表取締役?
なんで社長がわざわざ俺に?
にしても随分若い声だな。
社長が変わったのか?
前の社長は桜井だったはずだが……。
それにこんな時間にかけてくるなんて、どういうことだ?
奇妙な点がいくつもあったが、とりあえず「そうです」と返事をする。
「実はですね、あなたに日の丸テレビへ戻ってきて頂けたらと思いまして……まぁ、直接お話ししたいので、宜しければ明日以降にでも一度本社へ来て頂けませんか?」
「え」
思わず声に出てしまった。
河田社長は陽気にハハっと笑った。
「いえ、そう思われるのも当然です。今のお仕事もあるでしょうし。
……もしまだ日の丸テレビを良く思われているなら、話だけでも聞いてもらえませんか?」
俺が……テレビ業界に復帰?
嘘だろ?
「人生は小説よりも奇なり」とはよく言ったものだが、そんなことあり得るのか?