第八十七話
結局、打ち上げが終わったのは10:00だった。
「お願いします」
酔いつぶれた社長をタクシーへのせ、運転手に自宅の住所を伝えた。
タクシーを見送っていると、突然背中にドンと何かがぶつかった。
「ウィールーソン!」
声を掛けてきたのは牧野だった。
頬を桜色に染め、完全に出来上がっている。
春先に似合うピンクのワンピースを着ているのを見て、ズキンと胸が痛んだ。
彼女は違う。和歌じゃない。
「……かなり飲んだみたいだな。大丈夫か?」
「へーきへーきっ。私だって酔うことあるんだからぁ」
足元が覚束ない彼女が危なっかしい。俺以上に酒臭い息だ。
「家まで送ろう。どの辺だ?」
「んー……この居酒屋の裏にあるアパァトなのぉ」
「はいはい」
牧野があちこち行かないように、俺は彼女の肩を軽く抱いてアパートを目指した。
彼女の言う通り、確かに店の裏には小さな公園を挟んだ所にアパートがあった。
一度公園を通っていく構造なのか。
俺の住んでいるアパートと同じような、寂れた外観だ。
「あれか?」
「うーん……そう」
おいおい、しっかりしてくれよ。
お前の家はお前にしか分からないんだぞ。
俺は公園のベンチへ牧野を座らせた。