第七十二話
「偉そうなこと言ってんじゃないわよ! あんたなんか、まだ入社して2年でしょ?
この業界で大したキャリアも積んでない奴が知った風な口聞かないでよ!」
「離せ。変なところで姉御肌気質を出さないでもらいたい」
胸倉を掴む牧野の手首をぐっと掴んで引き剥がす。
どいつもこいつも……自分勝手な事ばかり言いやがって!
「俺はこの動画を制作する責任者だ。お前達みたいに、呑気に明日の予定だけ確認してればいい立場じゃない! ……今からならまだ間に合う。もう一度初めからやるぞ」
「てめぇ、この状況でまだやるって? はっ、いい加減にしてくれよ! 俺はもう帰りたいんだよ!」
広瀬がキレたことで、泉が軟骨の柔らかい鼻をティッシュで押さえて泣き出した。
もうめちゃくちゃだ。
これでは撮影どころじゃない。
だが俺も引けない。
「いいから早く配置に付け! どうせお前らだけじゃ明日の飯も食えないんだ! 俺がお前らを仕上げてやるから——」
——パンッ!
2階に乾いた音が響き渡った。
牧野の平手打ちが頬に炸裂し、じんじんと熱をもっている。
「最低ね」