第七十一話
「本当に分かってるんですか? この導入で1時間は費やしているんです。そろそろOKの出せる演技をしてもらわないと。
それに今回はかなり予定を押しています。せめて今日中には仕上げていかないと間に合わないでしょう」
チンピラ顔の広瀬は口を半開き、阿呆面で吠えた。
「はぁ? それはお前の都合だろーがよ! 俺らは言われた通りやってんだろっ!」
なんだこいつ。
仕事を舐めているのか?
「あれで仕事が出来たつもりか? 俺は、お前が出来てないから言ってるんだ!
それともなんだ、お前みたいな中卒には俺の話なんて理解できなかったか?」
「なんだとコラァッ!」
「ねぇ! どうでもいいけどあたしはずっと寝たままなんだから、もう帰っていいでしょ? どうせカット割りでなんとかなるじゃない」
彼女役の牧野は茶髪のロングヘアをわしわしと掻きむしった。
相変わらず気性の荒い女だな。
俺より2つ年上の彼女の演技は尊敬する点がいくつかあるが、たまに気分屋な所が欠点だ。
事務所の看板女優なのに主役に選ばれなかったことをまだ根に持っているのか。
「そういう問題じゃない。牧野さんも今回初めて脇役に選ばれてつまらないかもしれないが、ずっと寝たきりでむにゃむにゃ言う役じゃないことは頭に入れておいてくれよ。
ベテランだから分かるだろ?」
額に青筋を立てた牧野は、俺の胸倉を掴んだ。