第四十九話
「あっ……すまない、これは…………」
尻すぼみになっていく言葉には、スマートさなど微塵もない。
「和歌が……転んでしまうのではと」
35歳の男が異性にどぎまぎするなど……最低だ。
「いえ、……大丈夫です」
俺も彼女も、あの日の噴水広場にタイムスリップしたのかと思うくらい初心だった。
気まずい空気が俺達を包み込む。
プロデューサーであるということは、俺の誇りであり、自信でもある。
卓越した対人スキルで会議をまとめ、キャストに礼を尽くし、番組を編成・指揮……と、この仕事に終わりはない。
だが俺は、全てこなしてきた。
どの仕事にも納得がいくまで向き合ってきた。
彼女への「接待」も上手くやれる。
虚栄心だろうがなんだろうが、結末は納得のいく最高の形にできる。
——プロデューサーの「俺」なら。
だがそれはあくまで肩書に過ぎない。
いくら虚勢や見栄を張ろうが、そんなもの、彼女の前では何の役にも立たない。
常時、異性であることを自覚させられ、思い通りにいかない。
(くそ……! 失態だ)
初めて己を無能に感じ、心の中で舌打ちする。
直後、両手で頬を包んでいた彼女は、俺にぺこりと頭を下げた。
「…………ごめんなさい」
まさか。
彼女にさっきの舌打ちが聞こえたのだろうか。