第四十話
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「素晴らしいでしょう! ここの景色は」
「ここは……!」
車を道端に駐車させ、木製の柵から彼女は身を乗り出した。
眼前には周りを山脈に囲まれた明度の高い湖が広がり、まるで青空がそのまま飛び込んだように碧く輝いている。
柵の手前にはオレンジ色の花を咲かせた樹木が群生しており、彼女は感嘆の声を上げた。
「私が今日出掛けたのは、ここに咲いている金木犀の写真を撮りたかったからなんです。……実は、私の趣味はカメラでして。休日は、たまにこうやって遠出しては写真を撮っているんです」
首元に掛かったデジタル式一眼レフのカメラを構え、俺は適当に2、3枚の写真を撮ろうと色々な角度から風景を収めた。
「ほら、こんな感じです」
カメラの液晶画面に映るのは、恥ずかしそうに寄り集まった金木犀の花々。
小さく小ぶりな花が互いに身を寄せ、何かを囁き合っている。
写真をはにかんで見つめている彼女に、俺は「そうだ」と提案した。
「良かったら記念に写真を撮りませんか? この風景を背景にして、あの辺りへ和歌さんに立ってもらって……どうですか?」
「え? ……あ、はい! 是非お願いします」
急に話しかけたのが悪かったのか、彼女は上ずった声で返事をした。
俺がクスリと笑うと、彼女はピンクの頬をリスのようにむっと膨らませて、静かに抗議した。