第四十一話
「じゃあ、撮りますね」
柵の前に立っている彼女を、絶景と一緒に撮影する。
何度かシャッターを切る音が聞こえる度、今彼女とこの場所に来ているのだということを実感させられる。
俺は早速カメラに映った写真を確認してみた。
金木犀の香りを物憂げに吸い込んでいる彼女が、景色に負けないくらいの美しさを放っている。
「とてもいい写真が取れましたよ! 和歌さんもこっちに来て」
彼女もおずおずとカメラの画面を覗き込んだ。
「後日写真を焼いて、和歌さんにお渡ししますね。……それにしても、和歌さんは本当に金木犀がよく似合いますね。この間来ていた黒の着物も——」
「あの!」
普段より大きな声を出す彼女に、俺は口を噤んだ。
「今日だけなら、取材……してもらって、構いません」
絞り出すような声でも、俺の耳はそれをはっきりと捉えていた。
滲むような笑顔で彼女の手を握り、礼を言う。
「——っありがとうございます!……しかし、何故急に?」
「今日の終わりにお話しします。……今は折角ですから、楽しみましょう?」
にっこりと微笑む彼女に違和感を覚えたが、彼女との良い雰囲気を壊したくはなかった。
「……そうですね。では、ここを少し行った先に茶屋がありますから、そこまで歩きましょうか」