第二十八話
水面に浮かんでいるクリームは想像より甘味が少なく、焙煎されたコーヒーがキャラメル味を優しく包み込んでいる。
意外とイケるな。
「……このコーヒー、凄く美味しいです。苦みもそこまでなくて、飲みやすいですね」
「そうでしょう。私もこの店ではこれが一番好きなんですよ。
……ここのキャラメルマキアートは初めて飲みましたが、案外甘みが抑えられていて、男性も飲みやすいですね。美味しいです」
「良かったです。……………………」
互いに無言でコップの縁を丁寧に拭い、それぞれの飲み物と交換する。
これは一連の儀式か何かか?
つい可笑しくなってふっと笑うと、彼女もクスクスと口元を隠して笑った。
それから、2人で色々な話をした。
今の仕事の話を聞かれるかもしれないと身構えている部分もあったが、意外にも彼女がそれに触れることはなかった。
そういえば彼女から「日本語がお上手ですね」とはまだ言われていない。毎度人と話しているとよく言われる台詞なのだが。