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第五話

俺とてこんな仕事がしたいわけではない。


勿論、こういったサービスは世の中に必要であると思っているし、俺だって利用する。


その動画を制作する仕事に携われるという経験だって、とても貴重であるし、一つの仕事であることに変わりはない。


しかし俺は、報道の仕事がしたいのだ。


平和ボケした世界でもそれなりに事件はあるのだから。


犯罪者を追いかける警察のサイレンはいつも鳴り響き、毎日忙しく事件は起きている。


今の仕事と比べるなら、ジャーナリストにでもなってそちらを取材している方が、まだ心が慰められるというものだ。


しかし前述したように、テレビ局はおろかメディア関係の会社には、日の丸テレビから圧力をかけられており、一切関わることが出来なくなっている。


例の事件を問題視している古株の狸どもが重鎮(じゅうちん)として役員席に居座り続ける限り、俺に未来はない。






一服した後そのまま駅に向かい、いつも通り帰宅ラッシュの電車に乗り込んだ。


セクハラだと疑われないように、壁際の空いているスペースへ体を滑り込ませる。


窓の景色が遠ざかり始めると、やっと一日が終わったような気分になった。


(昔は仕事もそれなりに楽しめた。だが今は……)


本当ならどこよりもいち早くニュースを取り上げ、あるがままの「正しい」内容を放送することに喜びがあるというのに……。


俺はもうテレビ屋じゃない。


それは十二分にわかっている。


それに今抱えている仕事の問題をほっぽりだすことは、俺の美学に反するしな。


俺はそこまで考えて、大きく溜息をついた。


現状、出演者の安全面は確保されず、設備はボロボロ。


にも関わらず、あの社長は予算をケチってばかりで何もしない。


今日だって、社長に進言したのだ。


もっと出演者のことを考えて欲しいと。


だが奴は、世の男性のマスターベーションを促すための動画だ、出演者のためではない、どうのこうのと言って、結局俺の申し出は通らなかった。


それが巡り巡って会社の利益になるということは、ちょっと考えれば分かるはずだ。


馬鹿すぎて話にもならない。


こうやって心の中で悪態をつくことも、この数年で当たり前の習慣になっていた。


やるせない苛立ちが募り、常に欲求不満の状態が続いている。

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