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82.おじさまCEOの甘い睦言

 逢坂がホテルの部屋を取ってくれたので、そのまま彼に肩を抱かれ部屋に入った。
 木を基調としたモダンな部屋で、ベージュのクロスと白い壁がとても落ち着く。

 ベッドの上やソファの上に置かれたクッションは、ストライプ柄をしたビロード生地でとても上品だ。
 カーテンの向こうには品川の街並みが見える。
 中央には大きなキングベッドが置かれてあり、それを目にしただけで頬を赤らめてしまう。

 以前はへべれけに酔っていたので部屋に入った記憶がないが、今は違う。
 ワインを飲んで少し気が大きくなっているが、しっかりと意識がある。

 それにあのときと、明らかに心境が違った。
 逢坂は、酔ったちひろを優しく慰めてくれた赤い薔薇のおじさまではない。

 勤め先のCEO兼代表取締役。つまりは社長だ。

(心臓がドキドキしている……)

「何か飲むか?」

 ちひろの緊張をほぐそうとしてくれたのか、逢坂がそう声をかけてくれた。

「は、はい」

 逢坂はバーの冷蔵庫から、冷えたミネラルウォーターのペットボトルを手渡してくれた。
 キャップを捻って、ミネラルウォーターを飲もうと口をつける。
 なんだか見られているような気がして、口端から水が少し漏れてしまった。

(やだ、恥ずかしい。子どもみたいじゃない)

 慌ててバッグからハンカチを取り出そうとしたら、逢坂が近づき指を伸ばした。

「あ……」

 彼の指がちひろの唇に触れる。
 親指で水分を拭うと、その指を自分の口元に運び舌でぺろりと舐めた。
 渋い男が見せる大人の艶に、ちひろの羞恥心が跳ね上がる。

「凛太郎おじさま……」

 逢坂は、目尻を垂らしてふっと笑った。
 そんな笑顔にもちひろは心惹かれ、好きという感情が込み上げ、堪らない気持ちになる。

「名前を呼んだご褒美に、たくさんキスをしようか」

 逢坂が手に持つペットボトルを取り上げると、近くにあったテーブルに置いた。
 そのまま腕の中に引き寄せられ、強い力で抱きしめられる。

「あ……」

 言葉を発する前に、彼の形のいい唇が、ちひろの唇を覆う。

「ふっ……んん……」

 何度も何度も角度を変え、彼と唇を重ねた。
 ちゅっ、ちゅっと小鳥の囀るような音を立て、逢坂はちひろの唇を啄む。

 何度目かのキスのとき、息の上がりかけたちひろの状態に気づいたのか、彼の唇が離れていった。

(あ……もっと、もっとキスしたい……)

 トロンと蕩けた目で見返すちひろの頭を、逢坂の優しい手が撫でまくる。

「可愛いちひろ。愛している」

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