49.レースのシームレスショーツを気に入ってしまいました
自分で自分に照れてしまったちひろは、慌ててそのショーツを脱ぎ捨て、いつものヘソ上パンツに履き替えた。
さっさとパジャマを身につけると、そのまま布団の中に潜り込む。
(次なんてあるわけないのに。あーあ、あのとき連絡先の交換をすべきだったわ。後悔しても遅いんだけどさ)
ちひろは瞼を伏せると、鏡に映ったシームレスショーツ姿を、脳内で思い浮かべる。
思っていたより穿き心地がよく、何より色気ひとつないちひろの身体に、ほのかな色気を与えてくれた。
こんな勝負下着なら、イケオジに見られても恥ずかしくない。
シームレス仕様だから、スカートやパンツにも響かない。
普段用としても使えて、突然の勝負にも使える万能下着。
(あのショーツ、欲しいかも……)
「ダメダメ、エッチ過ぎるの! お尻丸見えなんて!」
掛け布団を頭から被って、これまでの自分の考えを肯定しようと懸命に頑張ってみるが――
社内の女性たちが嬉しそうな顔をしていたことと、レースのシームレスショーツを可愛いと思ってしまった気持ちは本物であった。
§§§
数日後――
今朝は、定時より一時間早く出勤した。
「おはよう……ございます……」
小声で朝の挨拶をしながら入ると、社内からは燦々と朝日が入り込むだけで返答はなかった。
(よかった。このフロアはまだ誰も出勤していないわね……)
ちひろはトートバッグをデスクに置くと、すぐさま中から取りだした手洗い済みのショーツを、こっそりとサンプル置き場に戻しておく。
名残惜しくて、そのショーツをまじまじと注視する。
結局のところ、あのあと何回かショーツをフィッティングしてしまった。
すっかり気にいってしまったちひろは、ショーツを返すのが寂しくなってしまったのである。
しかし、ちひろはフィッティングを断った身。
ほかのひとのように、そのまま貰うなんてことはできない。
(お揃いのブラが発売されたら、それもフィッティングしたいなあ……)
ニヤニヤしながら、そーっと戸棚を閉め、ふうと安堵の息を吐く。
「これでいいわね」
「何がいいんだ?」
突然低い声が背中から飛んできて、ちひろの背筋が驚きでビクンと震えた。
慌てて振り向くと、そこにコーヒーカップを手に持つ逢坂が立っていた。
(わわっ……! 見られた!?)
問われて、ちひろの背中から冷や汗がどっと流れる。
こっそり持ち出したショーツを、戸棚にしまうところを見られてしまっただろうか?
周囲の楽しそうな声に我慢できなくなり、つい持って帰って穿いてしまったのだとバレたらどうしよう。
それもフィッティングはれっきとした業務の一環だというのに、セクハラだなんだと騒いだ手前、ものすごくばつが悪い。
「ええ……と……」