48.あの夜のバラのイケオジを思い出してしまいました
その返答に驚いてしまい、すぐさま問い返す。
『私、甘やかされていたんですか?』
またしても何十分か放置され、やっと返ってきた返事はこのような内容だった。
『社員教育なんて一切なかったし、上下関係もユルユルだったからねえ。今だからわかるけど、倒産しても仕方ないような会社だった。私さあ、これからすごく忙しくなるから、あまりチャットを見られないかも。再就職先の会社が資格取得に積極的でさ、取った資格によって給料が増えるんだよね。それでさ、昇格試験なんかも……』
ちひろは最後まで読むことができず、スマートホンをミニテーブルの上に置いた。
「なんだか、私だけ取り残されている気分……」
連絡が取れなくなった同僚たちも、みな次の会社で忙しくしているのだろうか。
ちひろは、自分だけが前を向いていないような気がした。
「甘やかされていたのかぁ……私。気がつかなかったな。どれだけ井の中の蛙なのよ……」
ちひろは、ふと持ち帰ってきたショーツのことを思い出す。
トートバッグの中からそれを取り出し、身体に巻きつけていたバスタオルをはらりと落とした。
繊細なレースをゆっくりと伸ばすと、そっと右足の爪先を入れてみる。
滑らかなショーツはするりと足の付け根まで上がり、へその下あたりで収まった。
恥ずかしいと思いながらも、どんな感じになるのか見たくて堪らない。
衝動に駆られたたまま、姿鏡の前に立ってみる。
「ふぁ……」
胸が小さいのは今更どうしようもないが、レースのシームレスショーツはとても形がよかった。
ローライズ気味だが腰骨をギリギリ覆うくらいの位置で、腰をすっきりと見せることができる。
腰だけ捻って、後ろ姿を確認した。
ヒップラインは丸見えだが、レースが上品だからか、そういやらしいものでもない。
「エロいというより、可愛い……かも」
せめてこれくらいの下着のときに、イケオジに抱かれたらよかったのにと思ってしまう。
「もし次に会うことがあれば……」
こんな色気のある下着で、彼を迎えられたら――
そんな妄想で頭がいっぱいになり、いつの間にか意識はホテルの中の一室になった。
イケオジが、鼻にかかった優しい声で「ちひろ」と甘く囁いてくれる。
そして服を一枚、また一枚脱がされ、ちひろは可愛いランジェリー姿にさせられてしまう。
ブラのホックも外され、ショーツもずらされ。秘密の場所に彼の指が伸びてきたら。
夢見るような口づけを与えられ……と、妄想したところで、ギシッと天井が軋んだ。
安普請のアパートでは、あの夢見るようなひとときを邂逅すらできない。
「もうっ……」