33.今度は年下の上司ですか!
そういえば、確かにマテリアルサンプルと言っていた……ような気がする。
(あんな何気ない言葉も、ちゃんと拾っているんだ。なんだか、本当にこの会社のひとたち、すごい……)
「すみません。すぐやり直します」
ちひろは急いで書き直をして、再度提出する。
今度は受け取ってもらうことができた。
「ありがとう。席で待機していてくれる? 今はお願いできそうな仕事がないから」
「はい……」
そしてみな、キーボードを叩いたり、電話をかけたりし始めた。
しばらく様子を伺い、もし手伝えるような仕事があれば申し出ようと思ったが、本当に何も手伝えそうなことがない。
ちらりと覗くと、見たことのないようなソフトでブラジャーのデザインをしているし、電話で話しているひとは流暢な英語で会話をしている。
(スキルが高すぎて、ついていけない……!)
初日にして、もう心が折れてしまいそうになる。
こんな心境で、一週間持つのだろうか。
ちひろは、今までの会社がぬるま湯であることを知った。
仕事もそれほど忙しくなかったから、三時になったらみんなでお菓子を食べたり、ジュースを買い出しにいったり、和気あいあいとしていた。
ここで働いているひとたちは、想像できないくらい難解なことをしている。
(仕事とひとくちに言っても、これまで私のやってきたことは雲泥の差だわ)
ちひろは、あれほど逢坂に発破をかけられたにも関わらず、すっかりやる気を失ってしまったのである。
一週間後――
ハイブランドチームの研修をなんとかやり過ごし、次はカジュアルチームの研修となった。
正直、この一週間は自己嫌悪ばかりだった。
わからない用語や段取りの悪さ、ちひろの鈍くささも相まって、リーダーの高木があからさまに冷たいのである。
(ここまでダメダメ新入社員の烙印を押されるとは思わなかった。……もう辞めちゃいたい。でも今辞めたら根性なしの烙印を押されちゃうし……)
確認不足とはいえ、自分のスキルや実力と合わない会社にこれ以上在籍して、なんの意味があるのだろうか。
そんな気持ちののまま、カジュアルチームのリーダーを紹介された。
もしまた怖いリーダーだったらどうしようと、身構えてしまう。
だがリーダーの
「今日から一週間、よろしくね」
気さくな挨拶に、ちひろは少しだけ安堵し小さく頭を下げた。
「よろしくお願いします。悠木さん」
ところが頭を上げた瞬間、彼女の表情が険しく変化した。
「役職つきで呼んでくれるかな。それとも年下の上司には敬意を払えない?」
「え? そういうわけじゃ……」
役職つきということは、名前にリーダーとつけてほしいということだろうか。
敬意を怠ったわけではないが、ハイブランドチームにいたときには役職どうのと言われなかったので、特に気にしていなかった。
それにしても年下?
女性の役職というのも驚きだったが、二十代前半のリーダー職がいることにも驚いてしまう。