30.エロすぎて働けるかどうかわかりません!
最後に、CEO兼代表取締役である逢坂のプロフィールが書かれていた。
「日本最大手インナー会社のEC事業部総責任者を経験したのち、五年前に株式会社ベルスロープを設立。徐々に業績を伸ばし、昨年度は八十億の売り上げを達成した」
(すごいひとなんだ……といっても、なんだかすごいというだけで、実際のところよくわからないけれど)
ちひろの懸念は、別のところにもあった。
ステテコ、ババシャツのような普通の下着を取り扱っている会社ならば、両親にも再就職を喜んで伝えられたのに。
「あんな派手でエッチな下着の会社だなんて、親に説明できないわ……」
それだけではない。ちひろはエッチな下着であるという以上に高い障壁を、この会社から感じていた。
「仕事ができそうなひとばかり。……普通の事務職しかしてこなかった私に務まるの……?」
§§§
翌朝。
出勤早々、公言どおり各チームで研修するようにと、逢坂に指示された。
その前に、大事なことを伝えたほうがいいと逢坂のデスクの前に立つ。
「下着がどれもエロくて恥ずかしいです」
なるべく周囲に聞かれないよう小声にしたのに、逢坂は普通の声量で返してくる。
「どういう意味だ」
背後がザワリとどよめいたがしたが、ちひろは正直に気持ちを説明した。
「エ……エッチすぎて、恥ずかしいんです。その……慣れるかどうかわからなくて……」
すると、返ってきた答えがこれだ。
「昭和の感性みたいだな」
またしても昭和。
ちひろは意味がわからず首を傾げる。
「私は平成の生まれですが……」
「頭の中のことを言っているんだ。君が平成生まれであることは知っている」
昭和だろうが平成だろうがド田舎出身のちひろに、面積の少ない下着は刺激が強すぎる。
何をどう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「実際に昭和生まれで45歳のおれでも、そこまで思わんぞ。感性が古すぎないか」
「古いかもしれません。だから、こういった業界に自分は合わないんじゃないかと……」
ちひろの言葉を逢坂が遮った。
「インナーなんて年齢や趣味嗜好によって選択肢が変わってくるものだ。君は自分の理解できないものは認めない主義か? 排他的すぎるだろう」
「そんなことは……」
確かに、ちひろが恥ずかしいと思うだけで、エロくてセクシーなインナーを好んで身に着ける層だっているだろう。
何もちひろは、自分が理解できないという理由だけで嫌がっているわけではない。
「それだけじゃありません。この会社のレベルに、自分の能力がついていけないのではないかと心配しています」
だがその言い訳も、逢坂は一刀両断した。