29.私がクリエイティブ職ですかっ!?
逢坂が腕を組むと、こともなげにこう言った。
「10万セットくらいで驚くな。過去には50万枚売れたブラもある」
男性の口から、ブラという言葉を聞く日がくるとは思わなかった。
そんな顔をしてしまったからだろうか、逢坂がふうと息を吐く。
「そんなに驚いてばかりだと大変だろう。まあいい、君には研修として、明日から一週間ずつ各チームを手伝ってもらい、社内の雰囲気に馴染んでもらう」
「今紹介されたチームのお手伝いですか?」
「そうだ」
(どのチームもスペシャリストって感じのひとばかりだったけど……私にできる仕事なんてあるのかな?)
「あ、あの……」
逢坂の広い背中に向かって、おずおずと問いかける。
「これまで伝票整理とか発送手続きとか、そういった仕事しかしてこなかったんです。今説明していただいたチームの仕事が、私にできるかどうか不安なのですが……」
暗い面持ちのちひろに、彼はこともなげにこんなことを口にした。
「雑務のために君を雇ったわけではない。研修後はクリエイティブ職に就いてもらうつもりだ」
「クリエイティブ職? そ、それはいったいどのような……」
一生縁のないような職名に、ちひろは目を見開いて驚愕する。
逢坂は、それがどうしたという顔で説明を続けた。
「商品企画に商品開発。販売戦略に販売促進といったところか。君の適性を見極めるために、各チームで研修をするんだ。頑張ってくれよ」
「は……い。よろしくお願いします」
ちひろは逢坂の広い背をぼんやりと眺めながら、階段を降りた。
(なんか面接に続いて初日も散々な感じ……それに想像していた職種と違い過ぎて、どうしていいのかわからなくなっちゃった。商品企画? 開発? 私にできるの?)
席に戻った早々、トートバッグの中から長谷川に渡された紙を取り出し、すみからすみまで読む。
一行たりとも一文字たりとも見逃さす、意味のわからないところも理解するまでじっくりと目を通す。
その紙には、勤務地、勤務時間、休日休暇、資格、給与、雇用形態、待遇などがきっちりと書きこまれていた。
ちひろは、業種のところを詳しく読んでみる。
――主に20代、30代レディース、メンズのインナーウェアを企画開発。製造卸、OEMを主体としている。
他、Eコマース(インターネット通販)事業を展開。
募集職種。商品企画、またはEコマース業務。
(あ……20代、30代って書いてある。ちゃんと読めば、業務内容を理解できたのね。それに職種もそれっぽいのがあるし)
「主な取引先名……名のある下着ブランドばかりだ。すごい……」