28.エロい下着で14億…すごい会社にきちゃったのでしょうか?
「去年のモデルだが、カラバリ含めて累計10万セットの販売実績がある。このチョーカーもセットになって14,900円というリーズナブルさがウケたんだろう。ネットで飛ぶように売れたんだよ」
そう言うと逢坂の節くれ立った指が、薔薇モチーフでつながれたチョーカーを指さした。
そこから小さなチェーンが伸びており、先端に留め具がついている。
逢坂はその留め具をつまむと、ブラパットとショルダー紐のつなぎ目にあるアジャスターに留めてしまった。
すると、もっといやらしい姿になってしまって、もう正視できない。
タジタジしているちひろを見て、逢坂が呆れた声を出す。
「恥ずかしがっている場合か。これから毎日これらを目にすることになるのに」
「ええっ!? ステテコとかババシャツのチームはないんですか? 私、できればそっちのほうが……」
ちひろの訴えに、逢坂は呆気に取られたような顔をした。
「ステテコとババシャツのチームなどない。君は何を言っているんだ」
「だってエッチな下着の会社だなんて、長谷川さんはおっしゃっていませんでした。私、恥ずかしくて目のやり場に困りそうです」
長谷川という名を口にすると、逢坂のこめかみあたりが引きつったような気がした。
「業務内容と職務内容をまとめた紙を貰っていたはずだ。内容を読んでいないのか」
当然読んでいる。
だが隅から隅まで読んでいるわけではなかった。
「業種が、下着の卸製造販売だと……」
素直にそう返すと、逢坂は手のひらでサングラスを覆い、左右に顔を振った。
「君は……本当に教育しがいがある。まずは、その思い込みの激しいところと、うっかりしている部分を直していこう」
「はい……すみませんでした」
シュンと俯き、目のやり場に困るようなセクシーランジェリーを横目で見る。
(エッチな下着に慣れるかな……? でも10万セットも売れるなんてすごい……)
逢坂がショールームを出て行こうとするとき、ちひろの足がピタリと止まった。
「どうした?」
ちひろは恥ずかしいと口にしておきながら、もう一度そのマネキンのそばに行き、蝶モチーフのセクシーな下着をまじまじと注視する。
「このターコイズブルーの下着、10万セット売れたんですよね。カラバリ含めても14億円以上売れたんですか? ……すごい」
10万セットということは、10万人の女性がこのエロい下着を買ったことになる。
ちひろは、10万個売って14億稼げる商品など取り扱ったことなどなかった。
なぜなら文房具の単価は低いからだ。
出荷する伝票の数字は何百万、何千万という数字が並ぶが、取引で動く金銭は何十万程度にしかならない。
ひとつの商品で14億という、想像をはるかに超す売り上げに、ちひろは愕然とする。
(卸と小売りの差もあるし、客単価も違うんだろうけど……ひとつの型番で14億……すごい会社にきちゃった……)