24.なんだか、ドラマみたいな世界です…
「おはようございます」
数十分後、次々に社員が出社してきた。
そのうちのひとりが、逢坂のデスクまで近づき話しかける。
「逢坂社長。もう風邪は治ったんですか?」
「ああ。おかげさまでな」
「すごい鼻声で、声を聞いただけじゃ一瞬誰かわからなくなるほどでしたものね。よかったです」
その女性は、ちひろをチラリと一瞥すると、隣の席に派手なバッグをドンッと置いた。
(うーん……なんだか、嫌な感じだけど……なんだろ?)
出勤してきたひとたちは、みなオシャレで華やかだ。
まるでファッション雑誌から抜け出したみたいに洗練されている。
特に、先ほど嫌な視線を向けてきた隣の席の女性はすごかった。
フリルたっぷりの黒いブラウスに、ストライプ柄のパンツスーツ。
パンツは腰で穿くタイプのようで、ヒップあたりがピチピチでセクシー過ぎる。
見たことはあるが名を知らないブランドのアクセサリーに、宝石がギラギラした腕時計をつけ、縦ロールに巻いた髪をかき上げていた。
リクルートスーツの自分が、すごく野暮ったくて地味に思えてしまう。
(あんな感じの華やかな服のほうがいいのかな? かといって新しい服を買う余裕なんてないし。……そもそも私には似合わないか)
そういえばタイムカードの機械はどこだろうと、出社してきたひとたちの動きを見ていたら、みんなそのまま着席していた。
(もしかして、タイムカードはないのかな?)
そして、誰もちひろに話しかけてこない。
見えていないはずはないから、あえてスルーしているのだと推測する。
なんだか空気みたいな扱いで、ますます居心地が悪くなる。
「あ、あの……」
隣の席に座ったゴージャス美女に話しかける。
「おはようございます。中杢ちひろと言います。今日から……」
美女は目を細め、クールな笑いを浮かべた。
「聞いているわ。でもあなた、アパレル職の経験ないんでしょ? あまり関わり合うことは無いと思うけど、よろしくね」
冷たくそう言い捨てると、タブレットを片手に立ち上がった。
「ハイクラスブランドチーム、ミーティングしましょう」
彼女がそう言うと何人かの女性が立ち上がり、同じようにタブレットを手に別室へと消えていった。
ミーティング用の部屋はガラスで区切られており、ボタンひとつで不透明に変わった。
瞬間調光ガラスというものだが、ちひろはそのタイプを初めて見たので感動してしまう。
オシャレ美女たちがタブレットを持って、ハイクラスブランドのミーティング。
「ドラマみたいな世界だ……」