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Story2

 結局連れて帰ってきてしまったが、これって、普通に犯罪じゃね?
 そう思ったのは、瑛士が道ばたで倒れていた少女を家に連れて帰ってきて、ベッドに寝かせたあと、一息ついてからである。
 瑛士の頭の中には、未成年略取や強制わいせつ、拉致監禁、逮捕などの不穏な単語が浮かんできていた。
 そもそも、瑛士は忘れていることが一つだけある。それは、男子寮は女人が、女子寮は男子がそれぞれ立入が禁止されていることである。他校の生徒であったとしても、室内に入れるには、学校の許可が必要となる。家族となれば別だが。

「はぁ、飯食ってくるか。考えるのは、その後だな」

 そう考えて、瑛士は着替えてから近所のコンビニへ向かった。
 寮内に食堂があるため、基本的に学生たちはわざわざ高いお金を出してまで、コンビニで買い物をしたりしない。300円で食べられる栄養満点でお腹がいっぱいになるほど食べられる食堂のご飯と、500円や600円出してそれなりの量しかない、コンビニ弁当どちらを取るかと言われたら、誰だって寮の食堂のご飯である。とはいうものの、瑛士のようにコンビニまで食事を買いに行く生徒もいないわけではない。食堂とはいっても、メニューは決められているので、好きじゃないのが出てくるときは、コンビニに行ったりするのだ。

「いらっしゃいませー」

 コンビニの店内に入ると、近くの棚で品出しをしていたアルバイトの女の子が、大きな声で挨拶してきた。このアルバイトの女の子が可愛くて通ってしまう。男子寮が近いからなのか、可愛い女の子が何人かいた。
 ちなみに、近くに公安委員会の支部があるし、そこの支部に詰めている公安委員が、このコンビニに買いに来たりするので、このあたりの治安は非常に良かったりする。

「お会計、1332円になります」
「はい」
「はい、1332円ちょうどお預かりします。ありがとうございましたー」

 コンビニを後にして、少し考え事をしていた。
 公安委員会の地域安全部や、警察庁生活安全局が毎日、決まった時間帯に決まったエリアをパトロールしている。しかし、パトロールのルートは決まっているわけではない。登下校中の時間帯は必ずパトロールを行っている。これは、登下校中の時間帯を狙った犯罪があるからだ。彼らがパトロールをしていても、犯罪というのは決してなくなることはない。
 しかし、そう考えると妙だった。それは、あの少女だ。登下校中の時間帯は学校の周囲や、寮の周囲、通学路は生活安全局や地域安全部の人を見ない日はない。彼らが、倒れている少女を見逃すはずなどないのだ。そもそも、彼らは倒れている少女を見かけたら、まず、犯罪を疑う。何か事件に巻き込まれたのではないか、と。
 しかし、彼女は誰にも見つかることなく、路上にずっと倒れていた。俺が見つけるまで。
 一体どういうことなのか、気になることは色々あれど、今ここで長々と考えていても仕方がないので、とっとと家に帰って話を聞いてみることにした。

「お、瑛士。お前、今日もコンビニ弁当か?」
「ん? ああ。飯くらいは一人でゆっくり過ごしたいしな」
「つっても、お前大体一人じゃねーか。それに、明日は身体測定あるのに、寮の食堂以外のもん食って大丈夫か?」
「げ、明日だったか」

 身体測定。学生時代に経験したことがあるであろう、毎年入学式後の早い時期に行われる例のあれである。
 この学園でもそれは例外ではなく、通常行われる身長や体重などの測定の他、能力測定も行われる。
 年に2回行われるこの身体測定は、毎年4月と9月に行われることとなっており、身体測定の前日は、理由は不明ながら、寮生は必ず寮の食事をとることが義務づけられている。

「食堂、何時までだったっけ」
「9時」

 現在の時刻は7時を越えたあたりだったので、まだ食堂が閉まるまでに時間があったため、1度荷物を置きに部屋に戻ることにした。
 部屋に戻ると、先ほど拾ってきた女の子がベットから起き上がって、部屋の中をウロウロしていた。

「あ……」
「ちょちょちょ、ちょっと待て! ここは4階だぞ、落ちたら死ぬ」

 女の子は、瑛士の姿を見た瞬間、窓を開けてそこから飛び降りようとした。いきなり部屋のドアが開いて、見知らぬ男が入ってきたら確かにそうなりそうなものだ。そもそも、目が覚めたら見知らぬ部屋にいた時点で恐怖だろう。

「食べるんですね! 私を食べるんですね! 性的に食べるんですね!」
「食わねーよ!」
「じゃあ、私を売るんですね!」
「売るか!」

 落ち着かせようとしたが、訳のわからないことを喚いて手が付けられない。彼女の声が外に聞こえたのか、ドアを勢いよくノックされた。

「おい、どうした! 何があった!」
「まさか、女の子を連れ込んでるんじゃないでしょうね!」

 修羅場である。この白髪の女の子が見つかったら、余計修羅場になる。許可なしに女性を部屋に連れ込むと、下手したら退学処分になる。そして、社会的にも死ぬ。
 取り敢えず、一旦ドアを開けて説明することにした。

「て、テレビですよ! テレビ! いま、ビデオ見てて!」
「テレビだぁ? ったく、大きな音量で見るのはいいが、周りの迷惑を考えろよ?」
「あ、ああ。すまない」

 月次(つきなみ)な手段かもしれないが、なんとか誤魔化すことが出来たようだ。相当訝しまれたが、何とか納得してくれたようだった。

「ふー」

 ドアを閉めてカギをかけたあと、リビングにツカツカと早足で戻った。
 リビングの真ん中にあるテーブルの側で、先ほどの女の子がちょこんと座っている。

「安心しろ、襲ったりはしないし、売ったりもしない。が、聞きたいことがある」
「聞きたいこと……?」
「ああ。だが……」
「だが……?」
「まずは腹拵えだな。お前はこれを食え」

 そう言って、瑛士は買ってきたコンビニ弁当を白髪の少女に渡した。元々自分で食べるために買ったものだが、まぁ仕方あるまい。食堂で食べる必要が出てきたから、どちらにしろ、という感じだ。
 食べなくても腐らせるだけだし。
 白髪の少女は、弁当を受け取ると、ちゃんといただきますと言ってからご飯を食べ始めた。

「俺は食堂に行ってくる。くれぐれも、部屋から勝手に出ないように」
「ふぁい」

 白髪の少女は、よっぽど腹が減っていたのか貪るように喰らっていた。
 俺は、そんな少女を部屋に残し、食堂に向かうのであった。

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