Story1
某日、深夜。私立桜花学園第17
「そっちへ行ったぞ!」
「追え! 追え! 逃がすな!」
「はぁ、はぁ、はぁ。くっ」
銃声が飛び交う中、1人の少女が走って逃げていた。
身長はまだ小学生くらいで童顔である。白髪をたなびかせながら、真っ暗な裏路地を走るその姿は異様とも言えた。
「くっ。どこいった」
「あの目立つ髪色だ。探せ! 虱潰しに探すんだ! あの体躯だ、まだこの近くに居るはずだ!」
銃が交差するような紋章がついた腕章をつけた、長身の男性が部下らしき男たちに指示を下していた。
指示を聞いた部下たちは、少女を探すために散会した。
・・・・・・どれくらい走っただろうか。走り疲れて、もう足も動かなくなってきた。どこまで逃げても、恐らくどこまでも彼らは追いかけてくるだろう。目撃者である私を、彼らは逃がさないだろう。
「あっ」
グラッと足がもつれて倒れ込んでしまった。
足が痛い。お腹がすいた。
なぜ自分自身がこんなことに巻き込まれたのか、彼女自身全く分かっていなかった。つい数十分前まで、楽しく過ごしていたハズなのに・・・・・・。
――――――――――――
『おはようございます、朝のニュースです。ショッキングなニュースが入ってきました。昨夜未明、学園都市の第17
朝起きてテレビをつけると、そんなニュースをやっていた。正直、朝っぱらからそんな陰鬱になりそうなニュースはやらないでほしいところである。
俺の名前は、
「お、瑛士。はよーっす」
「おう、おはよう」
「エイジ、おはよう」
「おはー」
通称、学園都市国家・桜花。奥多摩町とほぼ同じだけの敷地を誇るこの学園都市は、総人口が300万人を数え、うち100万人程度が18歳以上で18歳未満はおよそ200万人程度である。総人口のうち3割程度が日本人を占め、学園都市においては最多の人口を誇る。
学園都市内の学校は、能力値によって進学出来る学校が決定し、能力値が高ければ高いほど、学校は選び放題で、好きな学校へ入学が可能である。これは、どこの出身者であったとしても、どれだけお金を持っていても、変わらない。
「そういやさ、朝のニュース見たか?」
昼休みになり、クラスメートの一人が話しかけてきた。
能力を持たなくても、学校生活を楽しむ学生はかなりの数が存在する。能力を持っていれば優遇されるが、持っていなくても、冷遇されるということではない。
「ニュース? あー、第17
「あ、そのニュース、ワタシも見ました。怖いですねー」
「つーか、第17
俺たちの通う学校、須々木原中学は、第12
とはいうものの、公安や警察庁はそう考えていないのか、学校に来るまでにかなりの人数の警備がいた。無論、校内でも警備官が警備をしている。正直、物々しすぎて逆に怖いが。
「でもまぁ、仮に逃げ込んでたとしても、こんだけの人数いるんだし、すぐに見つかるんじゃね?」
「かもなー」
「ん?」
窓の外を見ていると、視界の隅で何かがチラッと動いた。何かが動いた方へ顔を向けると、白っぽい何かが動いているのが見えた。しかし、またすぐに見えなくなってしまったので、見間違いかと思うことにした。
「どーかしたのか?」
「いや、何でもない」
「そうか? そういや、午後の予習したか? 蓮沼の数学だぜ?」
「あ、ああ。一応、な」
友人たちと駄弁りながらも、見間違いだと思うことにしたはずの、先ほどの白っぽい何かが気になっていた。見間違いで何も見てない、と思うようにしても、なぜか頭から離れることはなかった。
その日は何事もなく授業が終了し、周囲は物々しい雰囲気に包まれながら、俺たちは寮へと戻ることにするのであった。
基本的に、学園都市内の学校へ通う学生は、寮に住んで集団生活をすることが義務づけられている。ただし、学園都市内に持ち家があり、両親が望んだ場合は別である。原則として中学生になったら寮生活が始まり、初等部に在籍する学生は、家から通うことになる。
全寮制で男女別、というのは全校で決まっているが、寮や部屋の作りは学校によって様々で、全員個室のところもあれば、二人部屋のところもある。
「んじゃ、瑛士。俺たちは、こっちだから」
「おう、じゃあな」
「ごきげんよう」
須々木原中学の寮は、1SKの個人部屋が基本となっている。簡易的なキッチンがついており、部屋で食事を取ることも、食堂で食事を取ることも可能だ。ほとんどの学生は、朝を自室でとり、夕食を食堂でとることが多い。ちなみに、お風呂も各部屋備え付けのものと、大浴場が存在する。
「はぁ、疲れた。今日もとっとと着替えてゲームでもすっかなー」
そんなことをぼやきながら歩いていると、道中で倒れている女の子がいた。
「・・・・・・。よし、無視だ」
そう考えて女の子の脇を通り抜けようとした時、何者かに足を捕まれた。
後ろを振り向いてみると、さきほど倒れていた女の子が、ギギギと顔をこちらに向けて足をつかんでいた。
正直怖いです、はい。
必死に振りほどこうとするが、離れる気配もなかったので、仕方なく警察か公安に通報しようと、スマホを取り出した瞬間、何も言わずに足を掴んでいた少女が、言葉を発した。
「お願い、警察には通報しないで・・・・・・」
そう言うと、少女はその場で糸が切れたかのように、動かなくなってしまった。