3話
ロスト「しかし、学校に入学するからには、その名前では少し違和感がありますね」
赤石龍我「え?赤石龍我じゃダメなんですか?」
ロスト「うーん、この世界でそのような名前は極めて珍しいので…。そうだ!私が貴方に新しい名前を授けるとしましょう!」
赤石龍我「新しい、名前を…?」
赤石龍我「そうですねぇ…。では、カリブンクルスになりきれていないと言う意味と、カリブンクルスの使い魔だった火龍に因んで、今日から『ディアン・ワイバーン』とすることにしましょう。分かりましたか、ディアン?」
俺は一瞬遅れて、はい!っと返事をした。
ロスト「よろしい!では色々と手続きをしなくてなりませんねー」
学校か…。自分からやるとは言ったものの。少し不安だ。
ロスト「あ!そうそう。貴方はしばらくこのお城に住んで貰うことになるから、貴方のお部屋も紹介しなくてはいけませんね。キリ!」
ロストが名前を呼ぶと、どこかから黒いコートの女性が姿を現した。赤毛のロングヘアに、シャープな顔立ち。眼鏡を掛けており、黒いフードを被っている。コートのポケットに両手を入れており、上目遣いでコチラを見ている。なんだかクールそうな雰囲気の女性だ。
それにしても、この城にロスト以外の人間がいたとは。この人の他にもまだ誰かいるのだろうか。
キリ「ロスト様、お呼びでしょうか?」
ロスト「この子を部屋へ案内しなさい」
キリ「かしこまりました」
キリと呼ばれるその女性は、ロストに向かって軽くお辞儀をした。
キリ「着いてきな」
彼女はそう言って、俺のことも待たずに先々と歩いて行く。
ディアン「あっ!は、はい!」
俺は慌てて立ち上がり、キリの後を追った。
ディアン「あ、あの。ここって、ロストさん以外にも何人ヒトがいるんですか?」
俺はキリを追いながら質問した。
キリ「アンタとロスト様を含めて9人いる…」
ディアン「9人!?」
意外だ。こんな静寂に包まれたお城に9人も人がいただなんて…。
いや、逆か。こんな立派な大きなお城に、9人しか人が居ないことの方が異常なのだ。もしかすると、オーブイーターが出現する前は、もっと人が居たのかもしれない。
キリ「この城は、ロスト様による特殊な結界が張られている。だから城内にオーブイーターが出現することはない…」
ディアン「なるほど」
ってことはやはり元からこのくらいの人数だったのだろうか…。
キリ「ところで────、」
キリが突然足を止めた。俺は一瞬ぶつかりそうになる。
キリ「アンタがカリブンクルスの転生体と言う話しは本当なの…?」
キリは鋭い目付きで振り返った。
ディアン「ロストさんの話しでは、そうらしいですけど…」
キリ「なら見せろ」
ディアン「え?」
キリ「カリブンクルスの槍だ。見せろ」
ディアン「ああッ!はい…」
俺は右手を前に差し出し、ランスを出現させた。
キリはその鋭い眼光をランスに向けた。じーっと見詰めるキリの瞳は、より一層鋭くなっていく。
キリ「なるほど…。転生体とまでは分からないが、カリブンクルスと関連する
ディアン「え…、えーっと……?」
キリ「まだ、完全に力を出しきれていない。武器としてはとても未熟。だけど、その武器が絶大なポテンシャルを秘めていることも事実…」
ディアン「この武器、何か特別な力でもあるんですか?」
キリ「そう。この武器は特別な力を秘めている。だからロスト様は、お前をここへ呼び戻した」
そう言って、キリは再び歩み始めた。俺はランスを消してキリを追う。
ディアン「その…、特別な力って言うのは、オーブイーターを倒す力ってことですか?」
キリ「違う。オーブイーターを倒すだけなら、他の武器でも可能だ…。ロスト様の望む力は、もっと壮大な、魂を運ぶ力…」
ディアン「魂を運ぶ力?」
すると、キリは急に立ち止まった。俺は再びぶつかりそうになる。
キリ「着いたぞ。ここがお前の部屋だ」
ディアン「あっ、ここが…」
そこには白い扉があった。扉は全部で8つあり、キリはそのうちの1番端の扉を開いた。
キリ「ここがお前の部屋だ。入れ」
中に入ると、そこには1つの白いベッドと、1つの白い机とイス。やはり全面真っ白で、窓は1つもない。部屋と言うより、なんだか牢獄のようだ。机の上には同じ服が三着用意されている。
俺は用意されていた服を手に取った。
ディアン「この服って…?って、あれ!?」
俺が質問しようと振り返った時、既にキリは姿を消していた。
俺は服を机に置いて、ベッドに倒れ込んだ。純白の天井を見上げていると、突然睡魔が俺を襲った。
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──────ここは何処だ…?
──────俺は誰だ…?
真っ暗な闇の中。俺の体はどんどん闇の深淵に飲み込まれて行く。
だが、ふと上を見上げると、暗闇の中に、一筋の小さな光が差し込めていた。まるで糸のように細く、弱々しい光。
俺はその一筋の光に向かって手を伸ばした。すると、光は徐々に広まって、俺の身体を包んで行く。
あまりにも強すぎるその光に、俺は両手で目を塞いだ。光が止んで、気が付くと、辺りは別の場所に変わっていた。
ディアン「ここは……」
学校の下校道だ。俺はさっき、ここでロストにあの世界に飛ばされた。現実に戻ってきたのか?いや違う。現実にしては、やはり人が全くいない。
それになんだか、さったから意識が朦朧としている。
どうして?何故俺は今ここにいる?
???「▨▨▨▨▨▨▨」
突然、背後から人の声が聞こえた。
ディアン「何だ?」
俺は振り返った。しかし、誰もいない。
???「▨▨▨▨▨▨▨」
まただ。また、背後から人の声が聞こえた。俺はもう一度振り返った。しかし、やはり誰もいない。
ディアン「なんだ?どこにいる?」
???「▨▨▨▨▨▨▨」
再び背後から声が聞こえた。今度はかなり声が近い。もしかして真後ろにでもいるのだろうか。
俺はゆっくりと背後に向かって振り向いた。
振り向くと、俺の背後には黒いローブを被った誰かが立っていた。ローブを目深く被っている為、表情は見えない。男か女かも分からないが、身長は俺よりも高い。
ディアン「だ、誰だ!?」
すると、そいつは目深く被っていたローブをゆっくりと脱いだ。
ディアン「お、お前は!!」
ローブを脱いだそいつの顔は、何と真っ黒だったのだ。目も鼻も口も無く、まるでマネキンのように。
すると、突然視界が大きくうねり始めた。同時に、より意識が朦朧としていく。ダメだ。もう耐えられそうに無い。俺はゆっくりと目を瞑った。