2話
赤石龍我「うっ……」
目が覚めると、俺は冷たい石畳の上で倒れていた。
立ち上がり、辺りを見回す。
赤石龍我「どこだ、ここは?」
見渡す限り、明らかにここは、さっきまでいた下校道ではない。
どこかの広場なのだろうか。周りは中世の欧米造りの様な住宅に包まれている。住宅の間間には道があり、ここから複数のエリアに行けるようだ。と見ると、ここはどこかの町の中央広場と言った所だろうか…。
赤石龍我「あっ!これは…」
北側へ向かうエリアを見上げると、そこには大きな白い城が建てられていた。城の前には正面扉口へ通じる門がある。が、固く閉ざされており、中には入れそうにない…。
しかし、どこかの王族でも住んでそうな立派なお城だ。とてもじゃないが、国内だとは思いにくい。外国か?
だが、心配なのは、ここも人の気配を感じないことだ。辺りは住宅だらけなのに、人どころか動物や虫すらいない。
となると、やはりこのお城を尋ねてみることにするか。流石に城には一人くらい人がいそうな物だが。
俺は取り敢えず、城へ向かおうと北の道を進むもうとした。
その時─────、
???「た、助けてー!」
どこかから人の声が聞こえる。この声、どこかで聞き覚えがある。そう、これは確か…。
赤石龍我「そうだ!さっき、ここへ来る前に聞こえた声だ!」
声は北とは逆の南向きの道から聞こえて来る。俺は急いで、南の道へ走った。
赤石龍我「あっ、あれは!」
そこには、一人の女性が、さっきの目玉のモンスターに追いかけられていた。しかし、今度は3匹もいる。
女性「キャー!来ないでぇぇぇ!」
赤石龍我「待って!直ぐ助ける!」
俺は無意識に、右手を前に差し出した。すると、再び白い光が右手を包み、光の中から例のランスが現れた。
俺は咄嗟にランスを構え、3匹のモンスターに立ち向かう。
赤石龍我「おい、バケモノ!こっちだ!」
3匹のモンスターは俺の声に反応し、コチラを向いた。
俺はモンスターに向かって行き、ランスを振り回して、モンスターを攻撃した。
目玉のモンスターはとても弱く、どいつもこいつも一撃でダメージをくらい、直ぐに消えて行った。
女性「ふぅー、助かりました。ありがとうございます」
女性が俺にお礼をした。
赤石龍我「あぁ…、いえ!とんでもないです」
女性はとても美しかった。とても長く艶やかな金髪に、白い純白のドレス。背中には、大きく長い、真っ白な左翼が生えており、右翼は生えていない。瞳の色は赤色で、頭には銀色の小さな冠を被っている。
明らかに、ただの住人っぽくはない。もしかして、あの城の人だろうか…。
女性「赤石 龍我さん、ですね?」
いきなり名前を呼ばれ、背筋がピンとなる。
赤石龍我「は、はい!どうして、俺の名前を?」
女性「知っていますとも、貴方をここに呼んだのは私なんですから」
赤石龍我「あっ、やっぱりあの声…!でも、どうしてここへ?そもそもここは…?」
女性「順を追ってお話します。私に着いて来て下さい」
そういうと、女性はさっき俺が目をつけたお城に向かった。
やっぱり、この城の人だったのか。確かに、いかにも王族っぽい、気品漂うオーラがある。でもなんで王族の人がこんな町で、あんなバケモノに追われていたのだろう。
女性が門の前まで来ると、門は無人にも関わらず勝手に開いた。女性は、城の中に続く巨大な扉を片手で開き、優雅に俺に手招きをした。
女性「さぁ、お入りなさい」
赤石龍我「は、はぁ。失礼します…」
お城に入城したと同時に、女性のヒールの足音が、カツンコツンと鳴り響く。中は馬鹿に広い。天井も床も壁も、シャンデリアもカーペットも階段も、何もかもが真っ白で統一されている。この
お城の奥に進んでいくと、大きく、立派な装飾が施された純白の玉座があった。女性はそこに腰を掛け、足組をしながらフーっと溜息を着いた。
赤石龍我「あ、あの…」
女性「あー!ごめんなさい。少し疲れちゃいまして。さぁ、適当に座って」
座って、と言われても、椅子なんかどこにもないのだが…。俺は仕方なく、地べたに体育座りをした。
女性「えーっと、どこから説明すればいいのかしら…。あっ、そうだ!まだ自己紹介をしていなかったわね。私はこの国「アルビオン」を統括する最高指導者、純白女帝の『ロスト』と言います!」
赤石龍我「あっ!お、俺は赤石 龍我って言います…」
ロスト「ウフフ。だから、それも知っているとさっき言ったではありませんか」
赤石龍我「あっ!あぁ、そうか…。そうだった…」
ロスト「何故私が貴方のことを知っているのか…。何故貴方をここへ連れてきたのか…。今から全て説明します」
ロスト「まず、貴方をここへ呼んだ理由は、さっきも現れた闇の魔物、『
赤石龍我「オーブ、イーター……?」
ロスト「はい。オーブイーターは、人の魂の中にある光を喰らう闇の魔物です。人間の醜い闇の魂が具現化したモノで、この世界の至る所に生息しています」
赤石龍我「はぁ…。けど、そのオーブイーターを倒すのに、どうして俺を?」
ロスト「それは、貴方が持っているその武器が、極めて強力な武器だからです」
赤石龍我「俺の持ってる……、あっ!そうだ!コレ一体なんなんですか?突然俺の手に現れて…」
俺はそう言いながら、再び右手にランスを出した。どうやらこのランス、俺の意思で出したり消したりができるらしい。
ロスト「その武器こそが、貴方をここへ呼んだ最大の理由…。全ての世界に存在する魂は、全て『ラストフロンティア』から生まれ、『ラストフロンティア』に回帰する…。貴方がその武器を扱えると言うことは、貴方は伝説の勇者、カリブンクルスの転生体であると言うことなのです!」
赤石龍我「カ、カリブンクルス?」
何が何だか余計に分からない。カリブンクルス?ラストフロンティア?転生体?一体どう言うことなんだ?
赤石龍我「えーっと…。じゃあ、その…、なんだっけ…?ラスト、フロンティア?って言うのはなんなんです?」
ロスト「ラストフロンティアとは魂が生まれ、魂が回帰するとされる場所。貴方のいた世界では、『あの世』と呼ばれる世界のことですね」
赤石龍我「つまり、ラストフロンティアって言うのは死後の世界ってことですか?」
ロスト「うーん。間違ってはないけど…。まぁ、今はそう言う解釈でいいわ」
赤石龍我「じゃ、じゃあ!次の質問!俺がカリブンクルスの転生体だって言うのは?」
ロスト「大昔、この世界を救ったとされる伝説の勇者の一人、それがカリブンクルス。カリブンクルスは貴方が今使って見せた槍と全く同じ武器を扱えた。武器の投影は、その人個人の魂が生み出すエネルギーの結晶体。一人一人に個性があるように、全く同じ武器と言う物は存在しない。もし、存在するとすれば、それは同じ魂を共有する、つまりは同一人物ということになる…。だから、カリブンクルスと同じ武器を扱える貴方は、前世がカリブンクルスだったと言うことになるの。そう言う意味では、貴方をここに呼んだのではなく、この世界に呼び戻したと言うことになるわね」
とてつもなく壮大な話しに、一瞬思考が停止する。
赤石龍我「え、ええ?つまり、俺は前までこの世界にいたってこと?」
ロスト「そうです」
赤石龍我「それで、その、オーブイーターって魔物を倒して欲しいから、俺を呼び戻したと?」
俺の問いに、ロストはコクコクと頷いた。
赤石龍我「そ、そんな…。急にそんなこと言われても…。例え前世が立派な勇者だったとしても、今は只の冴えない高校生だ!やっぱり、俺には荷が重いですよ!」
ロスト「確かに、貴方の今の実力では、到底ラストに勝利することはできませんね…」
赤石龍我「ラスト?」
俺が聞き返すと、ロストは手を前に差し出して、ホログラムの様な映像を浮かび上がらせた。ホログラムには一人の女性が映し出されている。
ロスト「彼女の名は、暗黒女王『ラスト』。この世界に蔓延する全てのオーブイーターを使役し、この世界にオーブイーターを放った張本人…」
黒く艶やかな長髪と、真っ黒なドレス、背中からは黒く長い右翼が生えており、左翼は生えていない。瞳の色はロストと同じ赤色で、金色の小さな冠を被っている。
ロストとかなり似た容姿をしているが、この2人、見るからに対照的だ。
赤石龍我「この、ラストって人が、オーブイーターの親玉…」
ロスト「その通り。彼女を倒さない限り、世界には暗い影が差し続ける。しかし、さっきも言ったように、今の貴方の実力では到底ラストに叶わない。長い間コチラの世界にいなかった貴方の
赤石龍我「じゃあ、俺にどうしろと?」
ロスト「貴方の実力が十分に備わるその時まで、しばらく学校へ通ってもらいます!」
赤石龍我「学校!?」
ロスト「はい。この世界の中心にある『フィラウス』と言う国に、『オクタビア魔法魔術学校』と呼ばれる学校があります。基本的な能力が備わるまでは、そこへ通って下さい」
赤石龍我「え、えぇ……」
全く勝手な話しだ。と言っても断り辛いし…。そもそも、この世界では他の人も、俺みたいに武器を出したりできるようだし、俺がオーブイーターをやっつける理由って一体…。
ロスト「この城の城下にある、住宅街を見ましたか?人が1人もいませんでしたよね?」
そう言えば、人の気配はまるでなかったが…。
ロスト「その昔は多くの人々が平和な日々を送っていました。純白の国『アルビオン』、皆親切で、皆暖かく、優しかった。オーブイーターが現れるまでは…」
やっぱり、昔は人が住んでいたのか。オーブイーターの被害にあって、この国は今、廃墟も同然となっている、と言うことなのだろうか…。
ロスト「オーブイーターは、人々の光の魂を喰らい尽くし、まるで伝染病のように、多くの闇が人々の魂に移っていったのです」
赤石龍我「……………」
ロスト「私は、アルビオンの統括者でありながら、どうすることもできませんでした。私はもうこれ以上、人々の悲しみを見たくはない。しかし、私は闇に対する耐性がない。だからこそ、強い
赤石龍我「はぁ…………。分かりました…、やります!」
俺の言葉にロストが目を輝かせる。
ロスト「ほ、本当ですか!」
赤石龍我「その、なんて言うか、俺、今まで人の役にあまり立てていなかったから…。高校でも、なんかズレみたいな感覚もあって……。けど!こんな俺でも、人の役に立てると言うんなら!俺にやらせて下さい!」
この先、どうなるのかは分からない。もしかしたら辛い未来が待っているのかもしれない。全く慣れない新しい環境だ。戸惑わない訳が無い。でも何故だか、高校での暮らしよりも希望を感じる。根拠がある訳でもなんでもない。ただ、そんな予感がする。ここが、俺の本当の居場所なのかもしれない。