1話
先生「
先生は、俺の成績表を眺めながら溜息混じりに言った。
赤石龍我「はい……」
俺は目線を下に向けながら静かに返事をした。
先生「君ねぇ、やれば出来るんだから…。もっと、気持ち入れて取り組まないと留年しちゃうよ?」
赤石龍我「はい…」
先生「全く、どうしてかなぁ…。入学試験は首席合格で、2年の中間テストも学年トップだったじゃない?けど、今回の期末テストはまあ酷いよ?ハッキリ言っちゃうとほぼビリだもん」
先生はホラっと言いながら、成績表を俺に見せた。
先生「ここ最近はさ、出席率も下がって来てるじゃん?正直、ここまで成績の高低差が激しい子って中々いないんだよ」
赤石龍我「はい…」
先生「赤石君、最近授業中もボーッとしてるけど、もしかして何かあった?悩みがあるんなら言ってごらん。先生なんでも聞くからさ…」
赤石龍我「………いえ、何もありません」
先生「……そっか。でもまぁ、勉強頑張らないとさ、進路先でも成績見られるし…。そうだ、赤石君、進路はどうするんだっけ?」
赤石龍我「さぁ……。まだなんとも…」
先生「さぁ…って、もう3年だよ?早く決めなきゃ!もう皆進路先決めてるよ?今日はもう帰って、お家の人ともゆっくり話してごらん?」
赤石龍我「はい…」
俺は失礼しましたと先生に告げて、職員室を退室した。
先生に渡された成績表にもう一度目を通す。確かにこれは良くない成績だ。だけど、やる気がまるで沸き上がらない。
俺が成績表を見ていると、廊下の壁にも垂れていた女子生徒が「よっ」と言いながら、俺に近付いて来た。
??「まーた先生に怒られてたんでしょ!」
彼女の名前は
赤石龍我「うん。まぁね……」
橘雫「どれどれ成績は───」
雫は俺の成績表を勝手に覗き込んだ。
橘雫「ゲッ…。ちょー悪いじゃん!
赤石龍我「そう…?」
橘雫「そう!なんなら今も」
赤石龍我「そうかな…」
橘雫「そうだって!ほら!もう帰るよ!」
赤石龍我「え?う、うん…。雫は先生に用事があったんじゃないの?」
橘雫「もう無くなったの!」
赤石龍我「そ、そっか…」
俺と雫は二人で学校玄関の下駄箱に向かった。
上履きと靴を履き替えていると、雫が俺に話し掛けてきた。
橘雫「ねぇ、龍我はさ、進路どうするの?」
赤石龍我「うん…。どうしよう……」
橘雫「ど、どうしようって!アンタまだ進路も考えてないの?」
赤石龍我「雫は?」
橘雫「あたし?あたしは大学に行くけど…」
赤石龍我「そっか…」
橘雫「龍我はどうしたいの?なんか、やりたいこととかないの?」
赤石龍我「分からないんだ…。自分が何をしたいのか、どこへ向かっているのかも…」
橘雫「そっかぁ。うーん、あたしはねー、龍我は以外と工学とか向いてるんじゃないかなーって思うんだよねー。ほら!アンタこの前の授業でさ───」
雫の進路話しを聞き流している時だった。玄関から校庭を眺めていると、何か黒い球体の様な物が小さく蠢いているのが見えた。気になった俺はその球体をよーく凝視していた。
橘雫「───とかって案外役に立つらしい、って…。ちょっと!あたしの話し聞いてる?」
赤石龍我「何かいる」
橘雫「え?何が?」
赤石龍我「ほら、あそこ!あの黒いヤツ。なんだろうアレ…」
橘雫「はぁ?何が見えてるのよ?何もないじゃない…」
赤石龍我「俺、ちょっと見てくる!」
橘雫「あっ!ちょっと、龍我!」
俺は駆け足でその黒い球体に近付いて行った。近付けば近付くほど、その球体の奇妙さに気付く。まず、これはボールじゃない。何故かは分からないが、俺の膝ぐらいまで浮いている。
俺はその球体の傍まで近付いた。球体の間近まで来て、それはもっと奇妙な物だと分かった。その球体には、黒い腕と黒い悪魔の様なツノが生えていたのだ。
赤石龍我「なんだコレ?生き物なのか?」
腕からは、なかなか鋭そうな黒い鉤爪が生えている。鉤爪が生えている方向からも、コイツ、俺に背を向けているのか。
前側はどうなっているのだろう。気になった俺はこの生き物の前側をゆっくり見ようとした。
が、その時。この生き物の方からゆっくりとコチラの方へ振り替えった。
その生き物が振り替えったと同時に俺は驚き、尻もちを着いた。
赤石龍我「うわぁぁぁぁ!!」
振り替えったその生き物の前側は、なんと眼球だったのだ。バスケットボール程のサイズの水色の目玉から、黒色の2本の角と腕が直接生えたバケモノ。
赤石龍我「な、なんだコイツ!う、うわぁぁ!!」
俺は咄嗟に、その場に落ちていた枯れ木の枝を、バケモノ目指して投げ付けた。しかし、枝はバケモノの体を煙の様にすり抜けた。
俺は慌てて立ち上がり、急いで校舎の玄関に戻ろうとした。が、なんとバケモノは俺のことを追いかけ始めた。
赤石龍我「な、なんなんだよ!着いてくるな!」
玄関の方へ目をやると、何故か雫がどこにも居ない。多分、俺に呆れて先に一人で帰ったのだろう。薄情なヤツだ。
どういう訳かは分からないが、バケモノは俺のことを追いかけている。履き替える暇なんてない。俺は土足で校舎内へ戻り、職員室に向かって走った。
だが、バケモノも執念に校舎内まで追い続ける。
赤石龍我「コイツ!しつこいな!」
俺は職員室の前まで来ると、扉を叩きながら急いで先生を呼んだ。
赤石龍我「先生!先生!助けて下さい!変なバケモノが!中に入れて下さい!先生!」
しかし、職員室からは全く返事がない。俺は先生からの返事を待つ間もなく、勝手に職員室の扉を開いた。
────すると、
赤石龍我「あ、あれ!?先生?」
どういう訳か、先生が一人もいない。たった数分前までここに居たのに…。
後ろを振り返ると、目玉のバケモノがすぐそばにいた。
赤石龍我「クソ…!どうすれば…」
その時だった。突然、眩い光が俺の右手を包んだ。
赤石龍我「ウッ、なんだ!?」
光が晴れて、気がつくと、俺の右手には1本の槍が握られていた。
赤石龍我「なっ!?なんだコレ!」
確かコレは、ファンタジーとかゲームでよく見る、中世のヨーロッパ騎兵とかが使ってそうな、ランスとか言う種類の槍だ。見た目の割に以外と軽いが。けど、一体なんなんだこれ?どうして急にこんな物が俺の手に
……。
そうこう考えているうちに目玉のバケモノは俺との距離をどんどん縮めている。考えている場合じゃない。俺は咄嗟に手に握った謎のランスをバケモノに向け、バケモノの瞳孔部分に狙いを定めて突き刺した。
すると、バケモノは勢いよく飛ばされて、煙の様に消えて行った。
赤石龍我「攻撃が通じたのか!」
しかし、バケモノを倒したと同時に、俺の手の中からランスも消えた。
赤石龍我「あっ!消えた…。なんだったんだ?」
だが、考えても仕方ない。俺は取り敢えず学校を出た。
学校の帰り道。どういう訳だか、何故かこの帰り道で人に一人も出会わない。今は夕方。学校終わりの小中学生に、通勤ラッシュも多い時間帯。ここまで人がいなかったことは初めてだ。不気味なほどに生命の気配を感じない。街が恐ろしく静かだ。
何かがおかしい。あのバケモノと俺の手の中に現れたランス。そして誰も人がいない。このことは何か関係があるのか?もしかして、俺だけが変な世界にでも迷いこんでしまったのか?
───探しましたよ。
突如、どこかから声が聞こえた。透き通る様な女性の声だ。
赤石龍我「誰かいるのか!」
───私は貴方を探していた。我々の世界を救う。たった一つの望み。
赤石龍我「どういうことだ?」
───貴方が居るべき場所はここじゃない。行きましょう。貴方の還るべき場所へ。
赤石龍我「──な、なんだっ!!」
すると突然、俺の足元から巨大な魔法陣が現れた。魔法陣からはとてつもなく眩い光が現れ、その光は、俺の身体を一瞬にして飲み込んでいった。
赤石龍我「ウッ、意識が───」
どんどん意識が遠くなっていく。ぼんやりと霞んでいく視界の中で、黒いローブ姿の様な人物が、目に映っていた気がした。