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お母さまは魔女魔***の…… その3

「さぁさぁせっかくですから今日は私がご飯をつくりましょうかね」
 そう言いながら、スアのお母さん、リテールさんは笑顔で台所に向かおうとしました。
 すると、そんなリテールさんをスアが懸命に引き留めています。
「いったいどうしたんだ、スア?せっかくなんだし作ってもらっても……」
 僕がそう言いかけると、スアはリテールさんの手をむんずと掴み、それを上にあげました。

 ……なんでしょう?

 その手の先に、何やら怪しい色をした液体が入った瓶が持たれています。
 ドス黒いというか緑色というか……なんかゴボゴボいってる気がするんですが……
 で、その瓶へ視線を向けたリテールさんは
「これ? こないだ頑張って作った調味料なのよ~、栄養のあるものを一杯詰め込んで、ステルちゃんの本にあった圧縮魔法をつかってぎゅ~~~~~~~~~~って濃縮してあるのよぉ」
 そう言いながら笑っています。 
 お母さん……笑顔でそう言ってますけど、どう濃縮したらそんなおぞましい色合いの、しかもゴポゴポいうような代物が出来上がるんでしょうか……

 で、結局スアによって取り上げられたそれなんですが、スアが成分を魔法で分析したところ、
「……なんで、殺傷能力が128もある、の」
「え?」
 スアの言葉に、リテールさんはマジ顔で悩んでいます。
「おかしいわねぇ……ちゃんとデスの草の根を……」
「デスの草の根は安楽死薬を作る薬草!」
「あ、あれぇ、そうだったかしらぁ」
「そう!」
「そっかぁ、ど~りで味見したときちょっと別の世界が見えたわけだぁ」
 リテールさんはそう言いながら屈託なく笑っています……いえ、周囲のみんなはまったく笑えてないんですけどね……だって、スアが止めなかったらあの薬の入った料理を僕達に……そ、想像しただけでちょっと震えてしまいます、はい。

 で、そんなドタバタをしていると、
「パパ、ママ、かえりました!」
 パラナミオが元気に学校から帰ってきました。
 すると、リテールさんはパァっと顔をほころばせまして、
「まぁまぁ、あなたがパラナミオちゃんね、初めまして、あなたのお婆ちゃんのリテール・アムよ」
 そう言いながら両手を広げました。
 するとパラナミオは
「わぁ、そうなんですか! 初めまして、私パラナミオです。パパとママの娘です」
 そう言うと、両手を広げているリテールさんに向かって全力でダッシュしていきまして、ガシィっと抱きついていきました。
 それをガッシと受け止めたリテールさん。
 2人して笑顔で抱き合い始めました。
 
 さすがパラナミオです。
 我が家の天使です。
 初対面のリテール母さんと一瞬で打ち解け合い、感動のハグを交わし合っているのですから。

 そんな2人をジッと見つめていたのが、ルアのお母さんにあたるネリメリアさんです。
 ネリメリアさんは、感動のハグを交わし合っているリテールさんとパラナミオを見つめながら
「ビニーちゃんが大きくなったら、アタシもああやってハグしてあげなきゃね」
 そう言いながら、抱っこしているビニーちゃんに笑いかけていきました。
 そんなネリメリアさんをルアは苦笑しながら見つめています。
「母ちゃんは元気だし、それにアタシの子だから成長早いと思うし……すぐだよ、すぐ」
 そう言いました。

 そうなんですよね。
 亜人の血を引く子供さんって成長がすっごく早いんですよ。
 生後数ヶ月で、人間で言うところの10才くらいまで大きくなっちゃうんです。
 だからか、コンビニおもてなしで販売しているリョータミルクも亜人のママさんはあまり買いにこられないんですよ。
 逆に、離乳食の方がすごい人気です。
 すでにビニーちゃんも、生後数日ですけど、早くも離乳食を口にし始めていますしね。

 その点、亜人とはいえ、人種に近いエルフの血を引いている我が家のリョータはそうはいきません。 
 多少、人種の子供より成長が早いようですが、逆にエルフの血を引いていると幼少姿の期間が異常に長いそうなんですよ。
 何しろ、僕と同い年の頃はまだ十才くらいの姿らしいですからねぇ。
 まぁ、二百才を超えているのに幼女然としているスアや、さらに数百才年上なのに、そのスアよりも幼く見えるリテールさんを見ると、まぁ納得してしまうわけです、はい。
 え? この2人は特殊? またまたそんな馬鹿な……え? まじで?

 で、結局この日の食事はいつものように僕が作ったわけです、はい。

 その食事を口にしたネリメリアさんとリテールさん、
「ん!? こりゃ美味しい!」
「ホント! お婿様、すごく美味しいわ! 魔女魔法出版の食堂なんて目じゃないわよ」
 と、2人して感動の声をあげながら、すごい勢いでご飯を食べてくれています。
 
 で、そんな2人に、パラナミオが笑顔で水の入ったグラスを持って来ました。
「はい、お水をどうぞ」
 パラナミオがそう言いながらグラスを差し出すと、
「あらあら気が聞く子だねぇ、ありがとね」
 そう言いながら受け取るネリメリアさん。
「ホントにいい子ねぇ、パラナミオちゃん。お婆ちゃんも嬉しいわぁ」
 と、感動しきりの表情でグラスを手に取るリテールさん。

 さすがパラナミオです。
 ここでも、お婆さま2人のハートを鷲づかみですよ。

 で、そんな2人の向こうでは、ラテスさんが難しい顔をしながら口に料理を運んでいるんですが、一口含んではフンフンと考え込んでいきまして、
「これは隠し味に……う~ん……」
 と、料理の内容を解析しようと必死なんですよね。
 で、その結果をメモしようと準備しているんですよ……ただ、さすがに自分の舌だけでは限界があったみたいで、
「あの、店長さん、この料理の下味なんですけど……」
 って、合間に何度も質問されたわけです、はい。

 しかし、気がつくと巨木の家のリビングにある、この大きな食卓に……

 スアとリテールさんが仲良く寄り添いながらご飯を食べていまして、スアの膝にはリョータがのっかっています。
 そんなスアの横にはパラナミオがます。
 
 その横ではラテスさんが難しい顔をしながらご飯を食べていて、

 その向かいでは、ビニーを抱っこしたルアとオデン六世さん、その横にネリメリアさんが座っています。

 いつもは、コンビニおもてなし本店2階にある寮のみんなと一緒に食べる晩ご飯ですけど、こうして友人家族と、お婆ちゃんを交えての食事なんて、僕は、元いた世界でも経験なかったんですよね。
 何しろ、結構早くに両親を亡くしていましたし、コンビニおもてなしをなんとか経営していかないとってので必死だったのもあって、食事はだいたい店のバックヤードで済ませていましたから……あの頃はホント、仕事仕事仕事と、仕事に追いまくられていたからなぁ……

 まさか異世界に飛ばされた僕が、こんな幸せな時間を満喫出来る日が来るなんて、夢にもおもっていませんでした。

◇◇

 で、食事を言えたネリメリアさんとラテスさんの2人は、ルアの家に泊まるために移動していきました。
 そんなルア達を見送ったスアは、その視線をリテールさんに向けました。
「……ママも泊まっていく、の?」
 そう聞いたのですが、その言葉を聞いた途端に、リテールさんは
「今日はねぇ、出版会議があるからこの後すぐに魔女魔法出版に帰らないといけないのよぉ」
 そう言いながら、例によって滝のような涙を流し始めました。
 ってか、リテールお母さん、マジそれやばいですって! みるみるひからびてますから!
 とまぁ、アクシデントもあったリテールさんですけど、スアの転移ドアで無事魔女魔法出版へと帰って行きました。

 転移ドアが閉まると、スアがツツツと僕に歩み寄って来ました。
 スアは上目遣いに僕を見上げると
「……旦那様のおかげで、ママと仲直り出来た……ありがと」
 そう言いながら目を閉じました。
 そんなスアの意図を察した僕は、上半身を折り曲げながらスアに口づけていきました。

 で、それを見ていたパラナミオがですね
「パパ! パラナミオにもキスしてください!」
 そう言いながら僕に向かって口を突き出して目を閉じてきました。
 それを見たスア、
「……ほっぺ、ね」
 そう言うのですが、パラナミオはイヤイヤをすると
「パラナミオも、ママと同じように口にしてほしいです!」
 そう言いながら、再び僕に向かって口を突き出してきます。
 で、まぁ、父親冥利ここに窮まれり!……が本音だった僕ではありますが、心の中で血の涙を流しながら、パラナミオの唇に自分の頬を押し当てました。
 パラナミオは少し不満そうでしたけど
「パパにキッスしてもらえたから、今日はこれでいいのです」
 そう言って僕に抱きついてきました。
 すると、スアも負けじと僕に抱きついてきまして、さらにリョータまで歩いてきて僕の足に抱きつき、で、偶然通りかかった黒骨人間(ブラックスケルトン)が歩み寄って来ましてですね……

 いつも幸せな我が家です、はい。

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